“源氏名”の向こう~『かりんとグループ』角田健次が今思うこと #02

2019年10月18日

by松坂 治良松坂 治良編集者・ライター

――病に倒れ、バーの経営に失敗。不思議な縁から『かりんとグループ』で働きはじめた角田氏だが、なんと最初は「座っていればいいんだ」と思っていたという。

そこから、店長に。やがて店舗の立ち上げを任されるまでになるのだが、意識の変化は、どのような形で起こったのだろう?

オープンしたての秋葉原店が大ヒット。「何が違う?」

2015年、26歳で『かりんと』に入社して、最初に配属されたのは赤坂店でした。

ところが入ったはいいんですけど、当時暇なんですよ、赤坂店。全然電話が鳴らなくて。

「店員て、こうして座っていればいいんだ」

笑い話みたいになりますけど、僕その頃は、そんな風に思っていたぐらいなんです。「こんなことで成り立つのかなあ」なんてね(笑)。成り立つわけがない。

僕も半年とは言えバーを経営していましたから、そういうことに気づきはじめるんですよ。他店を見たり、上や先輩から教えられているうちに。当時、オープンしたての秋葉原店が大ヒットしたりもしていて……。

「なんでだ? 何が違うんだ?」

神田店に行ったら行ったで、そこでまた考えます。「こっちの電話の鳴りが良いのはなぜだ? なんで女の子が残るんだ?」

女の子の応募はある。問題は、残ってもらえるか

女の子の求人、面接の部分は、店長としてにしやまもいてくれましたから、しっかりがっちり在籍に繋げてくれるわけですよね。

でも女の子って、残すのが課題になるわけじゃないですか。赤坂は当時の状況から言えば暇なんだから、普通に考えたら、女の子は残らない。

だからコミュニケーションをよく取るようにしました。「指名されるためにはどうすれば良いと思いますか?」というところから、「オレに何をしてほしい?」と逆に聞いたり、「将来どうなりたいですか?」というプライベートのところまで。

何せ暇ですし(笑)、ウチは下は18歳、上は25、6歳っていう女の子のお店ですから、そんな話もできるわけですよね。自分も26歳でしたから、“歳上のアニキ”ぐらいに思ってくれたらいいやって……。

がむしゃらに。他社を研究し、後輩にも教えを乞う

あとは、他社もよく研究しました。

こんなイベントやってるじゃないか。ウチではできないのか?
他社のキャストさんの写真はこうなっている。ウチはどうだ? これで良いか?
いや、そもそもカメラ買った方が良くないか?
面接のエリアを、赤坂からもう少し広げたらどうだろう?
事務所のレイアウトはこれで良いのか? 女の子は居心地いいのか?

1つひとつ問題に気づいては上に聞き、周りに聞き、1人でできることはすぐに改善し、というのを繰り返していったんです。

そしてウチは、店舗間の異動が多いんですね。ここはたぶん特徴の1つだと思います。僕もこの時期2年半赤坂でスタッフをやるわけなんですが、その間に2回、半年ずつ神田でもスタッフをしたんです。この“行ったり来たり”が学びになりました。

「今度赤坂店に入った木村、電話取るのうまいなあ」

なんてね(笑)。良いと思ったことはすぐに教えてもらって、その中でスタッフ同士が親しくもなっていって、お店の売上も伸びたんです。

「渋谷で店長やってみないか」

声を掛けられた時には、月給も35万円ぐらいになっていました。

嬉しかったか? まさか(笑)。

「もっと稼いでやる」

それくらいじゃなきゃ、やる気も起きないですよ。

自分は器用。“雰囲気”もある。でも店長となると……

前回も少し言いましたけど、僕はたぶん器用なんですよ。業務はわりと「こんな感じだろう」というノリですぐに覚えられるし、自分で言うのもあれですけど、“雰囲気”も持っているんだと思います。

「こいつ仕事できるヤツだな」

実は出世するには大切な要素なんですが、周りにそう思わせるのが、僕は上手なんです。少々のピンチでは動じない……。きっとこれは、バーをしていた時に、共同経営者がまあ怒鳴るわ叫ぶわでしたから、鍛えられたんでしょうね(笑)。

でも店長となると、やっぱりたいへんでした。僕ここで、謙虚になったぐらいです(笑)。

予算・売上・人間関係・事務所の秩序。ぜんぶが必要

渋谷は特に立ち上げから自分が関わりましたから、尚更ですよね。まず女の子が“1人もいない”というところから始めるわけです。

もちろん今までの経験もあるから、それを活かせばいいという気持ちはあったんですが、自分で回そうとすると、うまくいかない瞬間は当然のようにあります。“上がいる”っていうのは、ほんとに気楽な状況だったんだなと、その時につくづく感じました(笑)。

あらためて気づきましたけど、上司がいるうえで思い付きを好き勝手やるのと、自分がすべて責任を持たなきゃいけないのとでは、全然違います。そこで初めて上の方々の苦労がわかったり(笑)。

しかも自分が予算・売上・人間関係・事務所の秩序を管理する立場にもなるわけですよね。どれか1つ欠けても、利益は上がらない……。というか、欠けていたら落ちます。この商売、甘くはないですから。

お店がゼロ=みんな新入生。想像を絶する“混乱”だった

いちばんたいへんだったのは、やはり女の子のマネジメントです。応募までは良い。これは今までと一緒。問題はそこからです。どうやって女の子に、卒業まで在籍し続けてもらうか。

お店がゼロからということは、みんなが“新入生”ということなんです。伝統も何もないんだから、秩序なんてありません。18、9の子がごちゃっと待機していて、気持ちを維持させるのって、ラクじゃない。恐らく渋谷店の初期の混乱は、想像を絶しますよ。この船を、しかもその時はまだ20代の僕が運んでいくわけです。

船はもう岸から離れちゃってる。「やるしかない」となったら、結局対話しかなかったですね。例えば他社でNo.1だったある子が、渋谷店に来たらギャーギャー言うわけです。待遇がああだ、向こうはもっと稼げただ、どうして指名がないんだって言って。

「スタッフの努力が足りないんじゃない?」

またこういう子は自分の実績に自負があるから、声も大きいし、周りへの影響力も強い。その子と同じように何かにつけてスタッフに盾突く子が現れたり、逆に「もうあの子と働きたくない。やめる!」なんていう子が出てきたり……。

商売はもちろん大切。でも“大人”の責任は放棄できない

ここでなだめすかして「まあまあ」ってやる方法もあるんだろうし、実際そういう会社もあるのかもしれません。でも僕には「それは違うな」というのがありました。

だってそれは「しかたがない」ということだから。そんなあきらめた空間で仕事をして、スタッフは楽しいですか? 女の子もおもしろいですか?

もう1つ、その20歳かそこらの子、当の本人が、ワガママ放題好き放題して、この先何があるんだと。甘やかされてずっと行っても、ロクな大人になれないじゃないですか(笑)。

僕らがそれを放置して、良いはずはないんです。商売は大事です。でも大人の責任というものは、当然あります。

「尊敬してくれ」なんて言いません。そういうことじゃなくて、要は僕は、僕らはと言ってもいいと思うけど、女の子をバカにしたくなかったんですよ。

実際「だよねー」って僕らがその子に対しているのを見られたら、他の女の子からの信頼は、得られなかったはずです。みんな敏感ですから。

「あなたにフリーは付けません。行かせられない」

ある時ね、その子がフリーの客に文句言いながら帰ってきたんですよ。「気持ち悪い」「死ねばいいのに」って。僕言ったんです。「いいから」って。

「わかりました。もういいです」
「何が?!」
「行きたくないのに行くことないです。フリーのお客様はもう、あなたには付けません」
「……」
「僕たちは強制する立場にはない。行かせられない」

「他にもキャストさんはいるんです」という話をして、実際その子にはそれから、一切フリーのお客様を付けるのをやめました。

突き放した時、逃げなかった女の子。考えた果てに……

この子のエラいところはね、お店を辞めなかった(笑)。フリーを回してもらえないということは、新たに指名客を得るチャンスも減るということです。この子は今いる指名客と、ネット指名のお客様だけでやっていかなきゃならない。当然収入は減りますよね。

この子はどうしたか。考え出すんですよ。じいっとね。文句言わなくなって、大人しくなって考えて……。

「店長、私、どうすればいい?」

そんな自分が好きか。本気で向き合った時、伝えたこと

もしかしたら僕、「フリー付けてよ」って言って来たら、話を聞かなかったかもしれません。でも考えた結果、やるだけやった結果答えが出なくて「どうしたらいい?」って聞いてきた子を無下にする理由はないですよ。

僕が言ったのは、その態度はどんな接客業でだって、仕事でだって間違っているということ。“風俗店だから”という理由で許されるものごとというのは、1つもないんだということ。

そして「思い出そう」ということでした。この仕事を始めた時、あなたはそんなにエラそうな気持ちでいたか、気持ち悪いの死ねのって、思う子だったか。そんな自分が好きか。

最後に、あなたは他社でNo.1だった子でしょう。No.1になるだけのものがあった子でしょう。態度を“普通”にするだけで、ここならもっともっと稼げるんじゃないですか?……

黙ってうなずいたこの子は、後に名実共に『かりんと』の“エース”になりました。今でも伝説です(笑)。

“源氏名”の奥。そこにぶつかるのが、『かりんと』

この子は1つの例であるのと同時に、『かりんと』の店舗運営の象徴だと思います。

つまり、僕たちは徹底的に女の子に関わるんですよ。密度濃く、1人ひとりに接する……。

当たり前じゃないか?という顔をしていますね(笑)。でもたぶん、想像以上なはずですよ。

一般的な店舗運営の場合には、スタッフは“源氏名”のキャストさんとだけ接し、会話をし、その中で対処を考えるんです。

しかしウチは違います。源氏名の奥の、“本名”の女の子に、人として向き合うんです。

将来どうしたいんですか。
学校の課題はちゃんとこなしていますか。目的を見失っていないですか。
新しい彼? 良かった。どんな人ですか。
親御さんとはどうですか。仲直りしましたか。

一見仕事とは関係ないけれど、真剣に向き合うことで、女の子たちは本音を話すようになります。色んな話の中の1つの話題が仕事、という風に変わるんです。

業務上の関わりを超えて、対等の関わりをするようになるということですね。疑似家族と言っては大袈裟ですけど、例えば僕やにしやま、先日インタビューを受けた五味や清家はアニキとして、木村はさしずめお父さんかな(笑)、そんな風に女の子と接しているのが『かりんと』の強みであり、拡大を続けられている理由なんです。

めんどくさい。でもそこから逃げず、だからこそ勝てた

この運営がなぜ“勝ち”を呼ぶのかと言えば、“説得力”の部分でしょうね。女の子はこちらを信頼しているから、話を聞いてくれる。芯のところで「バカにされていない。対等なんだ」と思えばこそ、アドバイスも素直とは言わないですけど、ケンカしながらでも(笑)、聞く耳は持ってもらえるんです。

極端に言うと、もっと稼ぎの良いオナクラだってあるかもしれません。なかには彼氏に、「別の業態の方が稼げるからそっちに行け」と言われるなんていう子さえいるんです。

この時に僕らは「それで良いのか?」って聞きます。「決断はあなたです。でもあなたは、それで幸せですか?」って。僕らだって人との関わりでは百戦錬磨ですよ。「エスカレートして、次にその男はこんなこと言い出すよ」「ホントに言われたー」なんてね(笑)。

デメリットはめんどくさいことです(笑)、単純に。10代後半から20代前半の多感なこの子達の人生に対峙する、“泣く喚くワガママも言う向かってくる”のに付き合うっていうのは、ラクではないんです。

でもそこから逃げたら『かりんと』の成功はなかったし、これ以上もないと思います。色んな企画、おもしろい企画を『かりんと』は立ててきたと思いますけど、それだって“単に業務こなしに来た”ってだけじゃ、盛り上がらないんですよ。女の子に「おもしろそう。やりたい!」って思わせてこそナンボなんです。

それにね、ここまで人に関わるというのは、悪くない。苦労もあるけど、楽しい。だから僕自身、続けられているんじゃないかな。

――渋谷店の立ち上げに成功。“源氏名”の奥の、本名の女の子にまで関わるという『かりんと』のキャストマネジメントは、ここで確立されたと言っていいのだろう。

ある意味で店舗運営の極意を掴んだ角田氏は、この後ほどなく、1,500万円の年収を手にすることになるのだが……

(インタビュー:新海亨)

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角田 健次(かくた けんじ)

青森県出身。業界歴は4年。進学のため18歳で上京するが、仕事の方に面白味を見出し、1年時に大学は中退。飲食から解体作業に至るまで、様々なアルバイトを経験する。25歳でバーの経営を始めるも、半年で挫折。ところが2015年、26歳で『かりんとグループ』に入社すると、経験を活かしてすぐに頭角を現し、現在は複数の店舗を見るスーパーエースとして活躍中。30歳。

執筆者プロフィール

松坂 治良

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小さな出版社などを経て、”誠実に求人広告をつくろう“という姿勢に惹かれ、現職に就く。数年来クラシック音楽と仏教に傾倒中で、最近打たれた言葉は「芸者商売 仏の位 花と線香で 日をおくる(猷禅玄達)」。……向き合った相手の“人となり”や思いを、きちんと言葉にしたいと願う、今日このごろです。

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