現在グループ代表の僕も、最初の意識は“割の良いアルバイト”

現在の役職、ですか。弱ったな。『虎の穴』の代表です。

驚いた顔されてますね（笑）。見えないんでしょう？　貫禄がないかな（笑）。

いや嬉しいですよ。言っても32歳で、オーナー然として現場を離れるには早いと思っていますから。振り返ると、ここに入った時はまだ18。割の良いアルバイトぐらいの感覚でした。

友達の紹介で、ドライバーをやってみないかと。講義の合間にできるし、待機時間に車内でレポートは書けるし、学生にとってはありがたかったんです。

で、確か2年目だったと思うんですが、「ごめん。今日送迎の仕事ないんだ。中でのんびりしてて」と言われたんですね。

「いやいや、タダでお金頂けないですよ。何かお手伝いさせてください」

驚きますよね（笑）。当時ここも3年目かな？　確かに“女の子のレベルが違う”と、高級店として初めから絶大な人気があったんですが、何もかもがいい加減で。

“回す”喜び。しかもグングン昇給。「もう就職しちゃおう」

なりゆきで内勤業務を始めてみると、これがなかなか興味深い。電話を取って成約して、配車をする。女の子が出勤したら、作ったお仕事バッグを渡す。戻ったら1日の清算をしつつ調子を聞いて、それとなくシフトの確認もしてみる……。

ドライバーが女の子を乗せるまでに、色んな経緯があるんだなと勉強になりました。何と言うか、“全体を回す”ことにもワクワクするような感覚があって。

この世界は結果を出せばグングン昇給していきますからね。それだけでもやりがいがありました。結局4年生になって就職活動をして、通信事業者とか商社とか、数社にご内定を頂いたんですが、全て断ってしまったんです。

「今更できあがった会社に行ってもな……。ここでおもしろいことをしよう」

まあ性に合っていたんでしょうね。良い時にこの会社に出会えたなとも思います。運もありますよ。

業務の改善と効率化の日々。理解を広めるには、まず自分が動く

大学卒業後正社員として入り直して、25歳で副店長、27歳で店長、30歳で代表職という感じですね。

アルバイトの4年間で一通り業務は覚えましたから、後は現在までずっと、業務の改善と効率化の日々でした。もともとのスタートから集客力はあったので、これを行うだけで更に売上は伸ばせたし、グループを成長軌道に乗せられたんです。

とは言え最初は苦労しましたけどね（笑）。まずシステムがない。例えば女の子のシフトも、ホワイトボードにズラっと書いてあるんです。ご指名が入ったら時間を書き込み、女の子とドライバーさんに電話するという形。

「取りあえずまあエクセルでも組んでシフト表作ろうよ。そうすれば先々の予定も立つでしょう」

こう思うんですが、“取りあえず回っている”から、みんなそこに疑問を持たないんですね（笑）。なまじ売上も良いものだから、支出入もどんぶり勘定で、とにかく様々なムダがありました。お気づきだと思うんですが、これでは組織は大きくなれません。

そこでシフトについても売上管理についても、エクセルから始めて、次にシステムを導入・開発してと進めていったんですが、なかなか一筋縄では行かない。

ホワイトボード時代には大活躍していたスタッフが、パソコンが触れないというだけで、逆にみんなのお荷物になってしまって……。「ボードがパソコン上のシステムに移っただけだよ。しかも省ける入力の手間があるんだよ」と説明するんですが、理屈ではわかっても、頭と体が付いていかないんですね。

「わかった。僕がマニュアルつくるよ」

できないから置いていくんじゃあんまりですからね。言うだけではなくて自分が動くと、教えられる方も「申し訳ないな。早く覚えなきゃ」となるものです。実際大して難しいシステムじゃない（笑）。誰でも使えるようにつくってあるんですから。

“適材適所”の導入。出世を強要するのは違う。それぞれで良い

「ウチに入社してくれた以上、人は大切にしたい」というのは、変わらずにあります。まず女の子のおかげでこの仕事はあるわけですけど、事業の継続はスタッフあってこそです。彼らには“卒業”もないわけですから。

具体的に言うと、交通費支給や社会保険という“当たり前”は、僕の入社前、創業時からあります。更に近年は有休が取りやすくなったり、勤務時間と休日が選べるようになったり、部署分けが導入されたりしています。今マネジメント部、営業部、運営部、管理部の4つかな？

要は適材適所ということですよね。できない業務があるのはマズいですけど、一通り全部を把握できたら、それぞれの得意な分野で活躍してくれたら良い。

その方がスタッフはストレスなく働けるでしょう。組織としても効率良くスピーディーにものごとを運べます。誰にとっても良いことばかりなんです。

もちろん“出世したい”とか“誰よりも稼ぎたい”という思いは大歓迎だし、そういう方は部署分けも何も関係なく、副店長・店長という形でキャリアアップも早いと思います。ただそこを目指せという気は全然ありません。

なぜかと言うと、僕自身が送迎ドライバー時代は本当にヒドかったんですよ（笑）。服装から髪型から言葉遣いまで、チャラチャラしていていい加減。女の子から「藤原さんがドライバーの時はイヤだ！」って出禁を食らうぐらいだったんです。

それが仕事のおもしろさとダイナミズムに気づいて、12年経ったらグループの代表ですよ（笑）。誰でもない、僕自身が一番驚いていますし、逆に言えば誰だって“思い1つ”なんです。出世って、強要するものじゃない。

役職＝高給ではない。月給5、60万円の“ヒラ社員”も

なのでウチは、役職が付かないと給与が上がらないなんてこともないですよ。月給は試用期間から30万円、正社員で35万円、歩合給も合わせれば、1年もすれば40万円ぐらいにはなります。5、60万円もらっている“ヒラ社員”なんて、ウチにはゴロゴロいます（笑）。

その先で「マネジメントにチャレンジしたい」「店長になりたい」となったら、さっきも少し触れましたけど、喜んで僕が教えます。僕はそこは本当に気持ち次第だと思っている……というか、そういう人は周りが放っておきません。

僕も「代表になりたい」と自分が言ったわけではないんです。気がつくと全部を僕が見ていて、女の子達とスタッフ、みんなの“信頼”が集まって、自然とこの立場に押し上げられたというのが本音なんです。

「辞めれば良い」でも構わない。でも、それで先々幸せ？

入社面接にはね、若い子ばかりじゃなくて、40代50代の方も訪れます。そういう方の履歴書って、職歴がズラーッと長いんです（笑）。正直「ああ、色々経てこの世界に入ってきたのかな。でもすぐ辞めちゃうんじゃないかな」って思います。僕はここ1社ですしね。

だけど来てくれた以上、僕はそこでは落としません。「ウチではやれそうですか？　風俗だからラクってわけじゃないですよ？」って聞きます。返答？（笑） ほぼすべての人が「やれます」って答えます。

で、僕言うんです。「その言葉を信じます」って。そしてこんな風に続けます。

「嫌になったら辞めればって感じで、今まで来ちゃったんじゃないですか？　ここでもそうなっちゃうかも。まあそれはそれで良いです。あなたの人生なんだから。

ただもう40歳でしょう？　ここで月給30万円でスタートしてでもすぐ辞めて、ヨソへ行ったってまたせいぜい30万円40万円が限度ですよ。その繰り返し。

でもここで“フツーに”続けてみてくれたら、50歳の時には月給50万円、60歳の時には60万円てなってますよ。僕はどんな内勤スタッフも、1年に1万円は昇給してあげたいと思っています。それくらいの人気とシステム、更に店舗拡大の展望が、ウチにはありますから」

……後はもう入社するかしないかも含めて、この方次第です。そしてこの方にだって、代表になれる可能性もあるんです。40歳でスタートして、僕みたいに行けば12年、52歳でグループの代表。悪くないでしょう？（笑）

僕は決して冗談を言っているんじゃない。繰り返しになりますけど、人なんてきっかけ1つ、気持ち1つですよ。元チャラ男の僕が言うんだから、間違いありません（笑）。

取材後記

執筆者

松坂 治良

キャストさんを新たに最高価格帯と中級店にも振り分ける戦略が功を奏し、グループの売上は何と、現在コロナ前の2倍とのこと。
「『虎の穴』で女の子の質にゼッタイに妥協しなかったことが、結果的にコロナ禍で次の展開を生んだんです」
ブランド力を守って来れたのも、ピンチをチャンスにできたのも、業務改善と効率化を常に考えてきた故でしょう。強い企業の“余力”を、お話のはしばしで感じました。