出版業界で感じた閉塞感。“ものづくり”ができない

ここに来るまではずっと、フリーの編集者・ライターという形で仕事をしていたんです。大学に在学中の20歳で出版社に入って、後に独立して……。書くのも撮るのも、何でもやりましたよ。

そのまま出版に関わって、という形もありえたんでしょうけど、先が見えなくなってしまったんですよね。本も雑誌も、売れなくなりましたから。

もう10年くらい前から出版業界の頭打ち感は顕著で、ずっと閉塞感を感じていました。僕も周りも、仕事が徐々に減っていって。隔月で出ていた雑誌が、年2回発行になったりですね。

そこでWEBのライターや編集者にという発想も、僕は持てなかったんです。まず単価が安いでしょう？　紙媒体とは比べものにならない。クライアントに望まれるものも、質じゃなくて“量”ですしね。ただスペースを埋めてくれという話です。ものづくりじゃない。

30代も後半に入って、プライベートでもちょっとたいへんなことがあったりしました。このまま業界に限界を感じながら働くよりは、自分の知らない世界に行ってみようと思って。風俗業界を志望した動機は、そんな感じでした。

型にはめるのではなく、仕事のどこで能力を活かせるか

風俗にまったく縁がなかったかというと、そうでもなくて。以前付き合っていた彼女が、キャストだったりしたんですね。仕事のことや職場の話も何度かしたことがあって、頭には残っていました。折々に思い出したりして……。

この業界は“やってみようかな”だけで良いでしょう？　入るためのハードルが、特にない。年齢も経験も、資格も必要がない。例えば僕が今から法律を勉強して法曹業界に入ろうと思っても、これはなかなかのハードルですよね。

確かに飲食や介護なんかみたいに、やる気さえあればという業界は他にもあったんでしょうけど、飲食はバイトでやったことがあるし、介護も友人から内情を聞くと、僕にできる仕事ではないかなと感じました。何より“おもしろそうだな”っていう好奇心も、大事にしたかったんですよね。

だから高収入っていう選択肢は、僕の場合はなかったんです。結果的に収入は良かったですけど（笑）。

「じゃあどこに応募しよう？」という時に、僕は著名なところ2つを受けることにしました。単純に「これだけの規模のグループなら安心だろう」って。ええ、ここともう1つ、応募した企業があります。

最初に虎の穴グループを受けて、それなりに緊張もあったんですけど、コワい人が出てくるわけじゃないし、普通にビジネスの話ができました。印象に残っているのは、まず“僕が今まで何をしてきたのか”って、すごくくわしく聞いてくれたんですよね。

最初は少なからず不思議だったんです。直接仕事に関係するわけじゃないのにって。

でもよくよく聞いてみると、面接してくれた方は「コイツのやってきたことは、ウチの仕事に結び付くのか？」って考えていたわけじゃないんですよね。「この人の能力や経験を、どうやったらウチの仕事に活かしてあげられるだろう？」って、そう考えてくれていたんです。

「あ、そうなんだ」って、すごく嬉しかったんですよ。「自分にもできる」って、思えた瞬間でした。

まずは一通りこなせるように。慣れたら適材適所で

入ってから、もちろん初めにぜんぶの業務を教えていただきました。掃除からはじまって、細かい作業まで。

一通りやるのって、先々の仕事にも役立ってくるんですよ。上に立った時にも、的確な指示が出せますからね。まず土台をきっちりつくって、その上に骨組みをして、後は筋肉さえ付ければ、走り出せるみたいな感じです。

雑務にも抵抗はなかったし、電話応対に関しても、受付のバイトをしたことがあったから、不安はなかったですね。ウチは高級店だからなのか、お客様も紳士が多いですよ。入る前は、クレーマーみたいな人がいっぱいいるのかなと思っていたので、驚いたくらいでした。

今の役割ですか？　一応マネージャーということになってます。中の色んなことを取りまとめているというか……。女の子とのやり取りであったり、相談を聞いたり、時間の調整をしたり、撮影をしたりですね。得意なところを中心に、色んなことをしています。

とりあえず一通りのことをこなせるようにしつつ、経験や適性から、いちばん得意な役割をいただいた感じです。そうですね、僕自身「恵まれてるな」って、感じています（笑）。

同僚であり、お客様であり。女の子には“おかげさま”の気持ち

1年半経って思うのは、働くキャストさんたちは“同僚なんだけど、お客様なんだ”っていうことですね。

適切な“距離感”を保つのが、とても大切だと感じます。普通の同僚への気配りとは違うし、友達のノリで一緒になってグチを言い合っても、それでは仕事にならない。女の子に利益を生んであげるのも、僕らの役割ですからね。

ときには“ただ黙って話を聞いているだけ”ということもありますけど、それで良いんじゃないかなとも思うんです。客商売なんで、そりゃたまには理不尽なこともある。その時に捌け口になってあげるのも、自分の役割かなって……。

逆に言うと、「それぐらいしかできないな」っていう時もあるんですよ。仲良くなりすぎちゃうのは、やっぱりちょっと違う。それは女の子の求めていることではないですから。“この子たちは仕事をしに来ているんだ”っていう節度と、敬意ですよね。“おかげさま”っていう思いを大切に、仕事をしています。

“風俗だから”はナシで行こう。働き方だって、選ぼう

今の目標ですか？　ここをもっと働きやすくすることですね。いや、今でも十分働きやすいんですけど（笑）。

ウチはもともと交通費は出るし、社会保険も完備だし、一般企業並みに福利厚生はしっかりしていたんですよ。昇給も年に2回あって、しっかりがんばりも認められます。

でも僕、さらにもう少しお休みが欲しくて（笑）。完全週休2日制、今年から導入されることになったんです。

給料は良いわけだから、そこをもう少し抑えて、その分土日も休めるっていう働き方があっても良いんじゃないかって、社長にお願いしてみたんですよ。

だから今ウチは、働き方を選べるんです。1つは、勤務時間は10～11時間ぐらいで、週休1日、その分ガッツリ稼げるという働き方。もう1つは、給料は少し抑えられるけど、勤務時間は9時間、完全週休2日っていう働き方です。

これだと家庭を持っている方もお子さんがいる方も、すごく働きやすいと思うんですよね。お子さんの行事に参加したい方だっているだろうし。……お子さんがいる方だけじゃないですね。僕みたいに、ある程度休みがないと辞めたくなっちゃうっていう人も、一定層いるはず（笑）。

すごいのは、この僕の意見を、会社が聞いてくれたところですよね。言っても僕、まだ入社して1年半なんですよ？（笑）

ここはやっぱり、社長の思いが大きいと思います。“風俗だから”は、ウチではナシで行こうって。一般企業と変わらないようにって、いつも考えてくれています。

稼ぎたい人、プライベートの充実が欲しい人、色んな人がいていいはずで、色んな人が働くからこそ、その企業には活力が生まれるんだと思うんです。僕にだってこの仕事ができた。他の人にできない理由はないって、僕は本気でそう思っていますよ。

（インタビュー：松坂治良）

取材後記

執筆者

藤野 りさ

出版不況……。もう懐かしいぐらいの言葉になっちゃいましたね。弊社松坂も、その煽りを受けた人間の1人。限界を感じて次のチャレンジを模索した気持ちは、すごくよくわかります。自分の経験を活かしつつ、働く環境まで整えていく……。こんなことができる業界って、どれくらいあるんでしょう？　仕事の可能性とともに、風俗業界の懐の深さを感じた取材でした。