2社目は、デリヘルでした! ヘアメイクの菜摘さん(秋コスグループ)前編~ナイトワーク『ピックアップ スタッフ』~

2024年09月27日

by松坂 治良松坂 治良編集者・ライター

――我が『FENIXZINE』の兄弟サイト、風俗スタッフ求人『FENIX JOB』でインタビューの掲載が始まったのは、2017年のこと。

ヘルス、ソープランド、キャバクラ、メンズエステ等々、ナイトワークの現場に赴き、早7年。おかげさまで、これまでに延べ600人を超えるスタッフの皆様の『VOICE』をお届けしています。

思い返せば、掲載当初は実働12時間や13時間、それどころかオール(早番遅番の交代なく24時間勤務)やワンオペ(ワンオペレーション。1人でお店を切り盛りすること)といった働き方さえ、しばしば耳にすることがありました。

しかしやはりコロナ禍が大きかったのか、近年ここに“変化”の兆しが。

オールマイティプレイヤーだけを求めるのではなく、効率的で継続性のある事業運営を意識し、“部署分け”や“適材適所”を図る組織が、少なからず現れてきたようです。

ここで今編集部がスポットライトを当てるのは、まさにそんな“様々な役割”を担う方々。

今や業界には、多様な“職種”が存在する。そして1人ひとり思いを持って“自分の仕事”に向き合っている……。

この事実が、少しでも読者の方々に伝われば幸いです。新企画“ナイトワーク『ピックアップ スタッフ』”。今回は、大手デリヘル『秋コスグループ』でヘアメイクを担当する佐藤菜摘さん(37歳)にお話を伺ってきました。

鶯谷。デリヘルのオフィスに“専属の”ヘアメイクさん?

はじめまして。今日はわざわざありがとうございます。

ええ、ここで『秋コスグループ』の女の子達のヘアメイクをするんです。デリヘルのキャストさん達。鶯谷で言うと、看板のイメクラ『秋葉原コスプレ学園』や『濃厚即19妻』、『妄想紳士倶楽部』に『白い巨乳』とかとか。

(笑)。おっしゃる通り、普通にお店の名前言えちゃってますね。私ももう11年目で、日常のことですから。

1日はなかなか目まぐるしいです。フロアの自社スタジオで宣材用の写真を撮影するために、キャストさんのお化粧をしたり、髪をセットしたり……。

もちろんお客様の元に伺う子達の髪もお顔も整えます。30分あるなら30分でしっかり。「15分でお願い!」と頼まれたら、ヘアセットだけでも、ということもあります。

与えられた時間といるヘアメイクの人数で、できる限りのことをという感じですね。キャストさんを笑顔で送り出せたら、ホッとします。

“フツーに”大学生。ところが自分の“好き”を意識した時

ヘアメイクとしての私のキャリアを、ということなんですが、実は歩みが少し特殊というか、スムーズではなくて。ご参考になるでしょうか。

美容の世界への憧れは、それこそ20代に入ってもありませんでした。高校卒業後は当然のように大学に進学。漠然と旅行関係の職に就きたいと思い、英語学科で学んだんです。

転機となったのは、3年生で始めた就職活動でした。とある化粧品会社の説明会に参加したところ、面接官の方からこんな言葉を頂いたんです。

「好きなことを職にしたいなら、今まで自分が何に一番“時間とお金”を使ったか考えてみるといいですよ」

自然に「なるほど」と思えたんですよね。アドバイス通り21年の人生を振り返ってみると、私は“コスメ”全般が好きで、興味関心もとても強かったことに気づきました。人に「これいいよ」と化粧品をすすめたり、私の髪型を見た同級生から「それどうやるの?」なんて聞かれることも度々あって。

現に私が「ヘアメイクの専門学校に行く!」と言っても、周りの友達は誰1人驚かなかったんです。「まあ菜摘はそうだよね」とか「ゼッタイ向いてるよ」という反応でした。

美容師免許も取得。念願の写真スタジオに就職を果した

大学卒業後の22歳という年齢で専門学校に入るのは、遅いと言えば遅かったかもしれません。でも「ヘアメイクになる」という明確な目標があったので、無事に卒業を果せました。通信とのダブルスクールで、美容師免許も取れたんです。

努力した甲斐あって、念願の写真スタジオへの就職もかないました。お見合い写真から選挙ポスターまで、幅広く注文を請け負う会社でしたから、ヘアメイクとして成長することもできたと思います。

朝は早いし残業も当たり前で、家に着くのは23:00とか24:00。土日の休みもなくスタジオに出ずっぱりでしたけど、その分充実した日々を送れたかなと。10年20年と働く尊敬できる先輩ばかりだったので、たくさんの学びもありました。

それでも辞めてしまったのは、給与の支払いが不安定だったんですね。社会人2年目3年目だと、どうしても貯金だってないじゃないですか。月々の収入の計算が立たないのは、正直困りました。スキルを磨くのはこれからという思いもあって、かなり悩んだんですが、最後には退職をお願いしたんです。

ヘアセットもメイクアップもできて、労働環境も“最高”

ところがその後転職活動をしても、ヘアメイクの正社員募集自体がなかなかありません。

またたとえあっても、お子さん向けで業務が限定されてしまったり、美容室が併設するスタジオでメイクの出番は少なかったりと、「ヘアセットもメイクアップも両方やりたい」という自分の希望をかなえるのは、難しいものでした。

そんな中『秋コスグループ』の広告を見ると、まさに願い通りに女の子の“ヘアメイク”がやれる。おまけに労働条件も格段に良かったんです。

出勤時間は11:00~20:00。そのうえ完全週休2日で、有給休暇まで取れる。前職がハードだったこともあって、「ほんとにヘアメイクの求人?」と疑うぐらいでした。

とは言え風俗のお仕事に携わるのは初めてでしたから、面接を受けた後、最終的にはお断りするつもりだったんですね。やっぱりコワさがあって……。

業務に対する抵抗というより、“知らない”ことから来るコワさですね。イメクラと言われても「???」でしたから。

わかりやすく「スキンヘッドのおっかないお兄さんがいっぱい出てくるんだろう」とか「あちこちで怒号が飛び交っているに違いない」とか。今振り返れば笑っちゃうんですけど、「きっと撮影スタジオは薄暗い地下にあるんだ」とさえ思っていたぐらいです(笑)。

「ここなら」 働く現場を見たことで、“誤解”が解けた

この誤解が解けたのは、“働く現場”を見たからでした。

「すぐに決めてしまわずに。とにかく一度、当社のヘアメイクにお会いしてみませんか」

面接官の方に熱心に誘われて、職場にご案内を受けたんです。ちゃんとしたビルの7階に通されて、これも思い返すと笑っちゃうんですが、「あ、地下じゃない」と感じたのを覚えています(笑)。

それにデリヘル店舗のスタッフさん達もきちんとスーツにネクタイで、何より温和な印象だったんですね。「はじめまして」「ようこそ」と、丁寧にご挨拶も頂いて。もちろんスキンヘッドのコワい方なんて、1人もいませんでした。

一番は先輩のヘアメイクさんですよね。当時のメイク室でお2人にお話を伺うと、どちらももともとは私と同じで、この業界は『秋コス』が初めて。しかもそれまでにヘアメイクのキャリアを積んでいたベテランだと知りました。

「私にもやれるかも」と心が動くとともに、「ここでならまだ自分も成長できる」と思えたんです。

3回産休と育休を取った先輩まで。仕事を“続けられる”

あとは産休・育休ですね。お2人とも「なかなかきっちり取らせてくれるところないでしょ?」と仰って。確かに当時は、制度さえない組織も多い時代でした。

後々結婚や子供を意識したとしても、ヘアメイクを続けられるのは大きな魅力に映ったんです。事実先輩の1人はなんと、3回も産休・育休を取得。しっかり現場復帰も果して……。

そしてあらためてよく考えてみると、好きな仕事をやれる。皆さんから「ぜひ」と請われてもいる。こんなにありがたいことってありませんよね。結局「合わなければ辞めてもいいんだし」と、入社を決めたんです。

それがまさか10年以上もグループにお世話になって、こうしてインタビューまで受けることになるなんて。この時は夢にも思っていませんでした。

――“誤解”から始まった菜摘さんとデリヘル『秋コスグループ』との出会い。それがなんと、こちらで10年以上ヘアメイクとしてご活躍することになったと言います。どんなやりがいや変化があったのか。後編では入社後の実際のお仕事ぶりについてお話を伺いました。

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“どの企業で働くか”こそが重要 ヘアメイクの菜摘さん(秋コスグループ)後編~ナイトワーク『ピックアップ スタッフ』~

執筆者プロフィール

松坂 治良

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小さな出版社などを経て、”誠実に求人広告をつくろう“という姿勢に惹かれ、現職に就く。数年来クラシック音楽と仏教に傾倒中で、最近打たれた言葉は「芸者商売 仏の位 花と線香で 日をおくる(猷禅玄達)」。……向き合った相手の“人となり”や思いを、きちんと言葉にしたいと願う、今日このごろです。

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