“どの企業で働くか”こそが重要 ヘアメイクの菜摘さん(秋コスグループ)後編~ナイトワーク『ピックアップ スタッフ』~

2024年10月11日

by松坂 治良松坂 治良編集者・ライター

――ヘルス、ソープランド、オナクラ、キャバクラ、メンズエステ……。昨今多様な職種の方々が、スタッフとしてご活躍するようになったナイトワーク。その1人ひとり、1つひとつの仕事にスポットライトを当てるのが『ピックアップ スタッフ』です。

前回に引き続き、今回も大手デリヘル『秋コスグループ』でヘアメイクとして従事する佐藤菜摘さん(37歳)にお話を伺いました。

ヘアメイクとして自分の役割を全う。それでも悩んだ

入社後2人の先輩ヘアメイクさんの働きぶりを見て、尊敬の念は求人面接の時よりもっと強くなったし、嬉しかったのを覚えています。前の写真スタジオと同じように、ここでもたくさんのことを学べる。心がけ次第で更に実力も付けられるなと。

業務内容は同じと言えば同じなんです。対象のお客様がデリヘルのキャストさんになっただけ。『秋コスグループ』の女の子達のメイクアップとヘアセットが、私達の役割です。

とは言え最初は慣れないことも多々ありました。一番は、キャストさんに「どうしたら人気出るかな」とか「こんなお客様がいて」とセットやメイク中にご相談を受けても、私には経験がありません。

答えてあげようがないんですね。知らない用語さえいっぱいあって。

またやっぱり色んな人生やバックグラウンドを持った方々がいるんですよ。「私より若いのに、もうそんなに苦労して」と、胸を痛めてしまうことも少なくありませんでした。だからって何もできないし……。

気持ちとしては、「良い写真になるように」とか「自信を持ってお客様に向き合えるように」という感じで、せめて自分の仕事だけは全うし、彼女達に貢献しようと。それでも「これでいいのかな」と悩んだりしていました。

「菜摘さんが良い」 キャストさんこそが自信をくれた

そんな私に自信を付けてくれたのは、実は当のキャストさん達なんです。ありがたいことに「次も菜摘さんお願いします」とご指名を受けることは、当初からありました。

ときには「あんなにかわいくしてくれて。気分あがりました」とお礼を頂けることもあって。あらためて「間違ってないんだな」と、私は私の役割をこだわり持ってやり抜けばいいと思えたんです。

それにやはり“場数”もどんな業務にも大事で、かつ自分を助けてくれるものでした。

3年4年と過ごす内に「以前看板キャストだった方から聞いたんですが……」とか「そういうお客様は、こんな風に話題を変えるといいみたいですよ」というアドバイスもできるようになって。

その時になって初めて、「焦ることないんだ」と実感できたところもあります。今ではお答えできることもずいぶん増えました。

“ナチュラルにキレイに”⇒“盛る”の必要。幅が広がった

『秋コス』に来てから、仕事の“幅”もすごく広げられたと感じます。視点が増えたというか……。

例えば前職では、就活用でもお見合い用でも販促用のパンフレットでも、“ナチュラルに”その方をキレイにしてあげれば良かったわけです。

一方でデリヘルでは、ユーザーとしての“男性目線”は意識しますし、写真になった時を考えて、“盛る”という作業も必要になってくるんですね。

わかりやすく言えば、アイプチをして目を大きく見せたり、濃いメイクを施したり、ときにはウィッグを付けて華やかにして、という感じですね。“映え(バエ)”を意識してと言えばいいでしょうか。

キャストさんによっては“身バレ防止”という意味合いもあります。事実写真加工前のメイクだけで「こんなに変えてくれるならボカシなしでいいです。ホームページ顔出しOKです」となるケースも少なくないんです。

喜んでもらう、自信を持ってもらうのが私の仕事

メイクアップの際もヘアセットの際も、その方自身の“ベース”は大切にするように心がけています。ご本人にとって、その方として写真に写り、その方としてお客様の前に立てるのは、大きいことですよね。

もちろんキレイにされて何も感じないという女性はそうはいないし、中には“変身願望”を満たされるような子だっていると思います。

お客様の元に伺う前の、ちょっとしたヘアメイク。なのに「すごーい。自分じゃないみたい」なんて感嘆されたら、私だって嬉しいです。喜んでもらう、自信を持ってもらうのが私の仕事ですから。

企画があるならチャレンジOK。“向上心”が刺激される

今は私もマネージャーなので、ヘアメイク部署全体のレベルアップというのも、常々考えます。個々の実力がより磨かれれば、それはキャストさんの満足に繋がるし、Webサイトに載る写真のクオリティも上がるでしょう。

当然その先にはお客様がいるわけで、私達の頑張りはお店の売上にだって結びついてくるわけですよね。そう考えれば責任重大(笑)。手は抜けません。

同時になんというか、『秋コス』って、こんな風に自分の“向上心”を刺激してくれるところがあるんですよね。振り返れば昔からそうでした。

私が入社した頃ちょうどエステサロンが立ち上がる時期で。それはもともと、先輩のヘアメイクさん2人の企画で始められたものでした。私自身も誘われて、喜んで講習を受けたんです。

まさかエステのスキルまで身に付けられるなんて、想像もしていませんでした。おかげさまで今ではこちらも責任者を任されて……。

サロン開業当時「すごいな。やりたいとなったらチャレンジさせてくれる会社なんだな」と思えたんですよね。その信頼は今もあるし、だからこそ続けられているのかもしれません。

選択肢は1つじゃない。のびのび働けるスタジオはある

この業界は『秋コスグループ』しか知らないので、「ナイトワーク、デリヘルにおけるヘアメイク」という問いは、私にはお答えが難しいです。

でも逆に言うと、『秋コス』の良さなら、身をもって感じたことを話せます。

第一に好きなヘアメイクをやれる。尊敬できる先輩もいた。

また“やりがい搾取”という言葉がありますけど、ここはそんなこと全然なくて、実働8時間で完全週休2日。有休もあるし、女性からすれば産休・育休もきちんと取れるのは魅力ですよね。自分が扶養者なら家族手当や子供手当だって出るんです。

給与もしっかり上げていただきました。できることが増えて、成果も出せば評価してくれるという感じですね。

ただヘアメイクのスキルアップって、同じ職の私から見ればよくわかるんですけど、きっと店舗のスタッフさんには気づけないところもあるはず。なので後輩の子達の昇給は、これからマネージャーの私が訴えてあげなきゃですよね。みんなすごく頑張ってくれているので……。

だからもう一度問いに戻ると、月並みですけど、結局はどの業界で働くかではなくて、“どの企業で働くか”なんじゃないかなと。

もしこの記事の読者にヘアメイクさんがいるのなら、「こういう職場もある。選択肢もある」というのは、最後にお伝えしておきたいですよね。探せばのびのび働ける良いスタジオも現場もあるんだと思うし、私自身こうして頂いたご縁には、感謝しかありません。

「イメクラ?! デリヘル?! 私にはムリです!」って、逃げちゃうところだったんですもんね(笑)。あらためて人生ってわからないし、おもしろいなと感じます。

<取材を終えて>

“専属のヘアメイクさんを置いている”。だから“キャストさんは写真撮影日以外のふだんからヘアメイクを受けられる”ということ自体が、「そんなデリヘルも」と僕には驚きでした。でも実は、『秋コスグループ』誕生の頃から設けられていた役割だそうです。

そこには「まず何を置いても働くキャストさんのために」という創業者の思いがあったとのこと。それはそのまま菜摘さんの「彼女達に喜んでもらう、自信を持ってもらうのが私の仕事」という言葉に繋がっているように感じます。

どの業界かではなく、“どの企業で”働くか。プロとして“自分の役割”に向き合う菜摘さんにとっては当然の答えで、だからこそ現在のお立場もあるのでしょう。……さて、では当の僕はライターとして編集者として、こんな風に真摯に仕事ができているでしょうか? 考えさせられながら、帰路に就いた取材でした。

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執筆者プロフィール

松坂 治良

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小さな出版社などを経て、”誠実に求人広告をつくろう“という姿勢に惹かれ、現職に就く。数年来クラシック音楽と仏教に傾倒中で、最近打たれた言葉は「芸者商売 仏の位 花と線香で 日をおくる(猷禅玄達)」。……向き合った相手の“人となり”や思いを、きちんと言葉にしたいと願う、今日このごろです。

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