少年は、歌舞伎町を目指した ヘアメイク兼内勤スタッフ 涼太さん(グランドオペラ)前編~ナイトワーク『ピックアップ スタッフ』~

2025年01月23日

by松坂 治良松坂 治良編集者・ライター

――ヘアメイク兼内勤スタッフ……の取材と聞き、『グランドオペラ横浜』のオフィスを訪れて、まず驚いた。

“あ、男性なんだ”

勝手に女性と思っていたのだ。

だがもっと驚いたのは、その彼が若かったこと。10年もヘアメイクとしてのキャリアがあるというのに、まだ30歳だという。

「美容師の専門出て、20歳からとかですか? でも他のお仕事もされたって」

そう。計算が合わない。

「ああ。専門入る前からです。16歳で上京して……」

美容師免許もない16歳の少年に、ヘアメイクとしての需要が? いったいどこだろう? この疑問に彼はにこやかに、まるでなんでもないことのように答え、筆者は三度驚かされた。

「歌舞伎町です」

宮崎⇒歌舞伎町。なぜ一番ふさわしい場所だったのか

まあびっくりしますよね(笑)。僕も振り返ると、よくあんな子供が毎晩夜遅くに歌舞伎町を歩いていたなって。当時今よりずっと荒れていましたしね。

でも昔から僕は、自分のも含めて髪をセットするのが好きで。更に「早く宮崎の田舎を出たい。働きたい」となった時に、一番マッチする上京先だったんです。

その頃は“スジ盛り”なんかの派手髪が全盛の時期。歌舞伎町にはヘアスタジオがたくさんあったんですね。僕がネットを見て電話したのも7、8店舗展開しているグループでした。

「なんと。高校中退してきたの?……じゃあやる気があるなら来てごらん」

幸い採用となって、すぐに働き始めました。ここで基礎を身に付けた感じですね。

めちゃくちゃ楽しかったですよ。

かつての歌舞伎町らしく、ときには道でとんでもなく激しいケンカを目撃したり、誰かが囲まれているのに遭遇して「コワいなあ」なんておびえたりしましたけど(笑)、「逃げたい」と感じたことはありません。危ない誘惑にふらついたり、ラクな方に流れることもありませんでした。

やっぱりやりたいことをやっていたし、なんというのかな、「一人前のヘアメイクになる」という“道”が見えていたのが大きいのかなと。

同時に今思えば、あの“夜の街の雰囲気”も嫌いではなかったんだと思います。華やかさもそうだし、10代から「稼ぎたい」という気持ちがあったので、自然に人とお金が集まる場所に惹かれたのかなって。

20歳でフリーに。依頼は多く、7、80万円稼げる月も

実際努力の甲斐もあって、20歳にはフリーのヘアメイクとして独立できました。結婚式や成人式などの特別な席のほか、日々キャバクラやホストクラブからの受注もあって。

平均で月50万円ぐらいかな? 頑張った月には7、80万円ぐらい入っていたと思います。

なのになぜ辞めたか?(笑) ですよね。10年やって飽きちゃったのもあるし、先が見えなかったのもあります。

それに長く1つの世界にだけ関わっていると、どうしても“横の繋がり”みたいなのができちゃうんですね。良いことかもしれないんですが、先輩達を見ていて、“業界人”みたいになるのがどうしてもイヤで。

仕事の歩みを消したくない ⇒ 会社として残せばいい

何より「起業したい」というのがずっとありました。と言うのも、自分がこんな風に“飽きっぽい”ことには、前から気がついていたんです(笑)。

だけど他業界に転職してしまうと、ヘアメイクならヘアメイクで、“自分のやってきたこと”が消えてしまう。すごく悲しいですよね。

だからこう考えてみたんです。

「もし僕が飽きていなくなった後でも、それを“会社”として残せたら?」

紆余曲折を経て、まず手始めに友人と清掃業を始めました。知り合いのお店や会社を顧客にできて手っ取り早いし、あと僕掃除好きなんです(笑)。やっててたぶんツラくない。

目論み通りと言うとおこがましいですが、ひと月ふた月で50~70万円ぐらいの売上見込みが立ち、やがて軌道にも乗りました。現在“法人化”を進めているところ。2025年は、僕にとって勝負の年なんです(笑)。

デリヘルでバイトの動機は“暇つぶし”。……ところが

それでなぜこの業界に、というのは、一緒に清掃事業を立ち上げた友人に、業務をほぼ任せられるようになって、手が空いちゃったんです。

「暇つぶしにもなるし、どこかに良いバイトないかな」と、初めの動機は正直褒められたものじゃありません(笑)。

で、ナイトワークなら時間の融通もききそうだし、ちょうど新宿から横浜に引っ越した時期だったんですね。

『グランドオペラ』は“高級店”として有名なデリヘル。経営面での学びも多いと想像して、求人に応募したんです。

そして働いてみて強く感じたのは、“現場がしっかり回っている”という事実ですね。

ヘアメイクを辞めた後、人のマネジメントや組織の動かし方を知りたくて、色んな業界で仕事をしてみたんです。『アップルストア』のホールスタッフだったり、水道工事業者だったり、人材派遣会社だったり……。

上層部と言うんですか。職場にエラい人、指示を出す人がいなくて、ここまできちんと運営できている職場って、他にはありませんでした。

もう25年事業が続いていて、横浜や東京のほか、名古屋や三重、福岡にも店舗展開しているということです。最初にお店を立ち上げて、ここまでのグループにした人、単純に「すげえ」って感じます(笑)。

ヘアメイク担当になったきっかけは、“生意気な”助言?!

たぶん“システム化できている”ということなんだと思います。

ノウハウがあるから、初心者にも「こうすればいい」と教えられる。現に僕もまだ3か月なのに、既に電話受付やWebサイトの更新ができるし、ドライバーさんの手配やキャストさんの送迎もできます。

また適材適所も進んでいて、ルーティーン作業が得意な方はWeb周りを中心に、「パソコンは苦手。コミュニケーションは任せて!」という方は、キャストさんのケアやサポートに力を発揮してという形ですね。

これも運営効率を考えてのことでしょうし、もう1つはおそらく「雇った以上、そのひとの能力を活かしてあげたい」という“優しさ”もあるんです。先輩スタッフは皆さん親切で……。

しかもその上で、“良いもの、新しいものを取り入れよう”という姿勢があります。変化を拒まない。

僕がここで“ヘアメイク担当”になったのも、実は“生意気な助言”がきっかけなんです(笑)。

――わずか16歳で歌舞伎町に身を投じた少年は、荒波にさらわれることもなく、見事ヘアメイクの夢をかなえた。更に現在は、畑違いの別業界で経営者の道を志してさえいる。

そんな彼が、暇つぶしだったはずのバイト先で、再びヘアメイクをすることに。きっかけとなった“生意気な助言”、そして『グランドオペラ』の姿勢とは……

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彼の正体は“起業家” ヘアメイク兼内勤スタッフ 涼太さん(グランドオペラ)後編~ナイトワーク『ピックアップ スタッフ』~

執筆者プロフィール

松坂 治良

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小さな出版社などを経て、”誠実に求人広告をつくろう“という姿勢に惹かれ、現職に就く。数年来クラシック音楽と仏教に傾倒中で、最近打たれた言葉は「芸者商売 仏の位 花と線香で 日をおくる(猷禅玄達)」。……向き合った相手の“人となり”や思いを、きちんと言葉にしたいと願う、今日このごろです。

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