本気で掴む日本一。巻き起こせ、うれしいのループを~『ハピネスグループ』代表 小山健二の決意 #3

2023年05月16日

by松坂 治良松坂 治良編集者・ライター

――コロナ禍により安倍内閣が最初の緊急事態宣言を発出したのは、2020(令和2)年4月のこと。

その時点で創業から11年を経ていた『ハピネス』だが、例に違わず“休業”を余儀なくされた以上、働くスタッフも大いに不安だったはずだ。

だがそれでも、辞めるスタッフはいなかったという。彼らはグループのどこに魅力を感じていたのだろう。いよいよ最終回。小山代表(53)に、最後にこの疑問をぶつけてみたのだが……

一般企業同様の制度設計。環境面の利点。そして……

休業していた時期に、スタッフが会社に残ってくれた理由……。さあ、どうなんでしょう。「なぜ?」と彼らに聞く機会もないし(笑)、そこは個々に思いがあるんじゃないでしょうか。

ただ少なからず安心はあったかもしれません。

社会保険の完備に代表されるように、我が社の制度設計は、設立当初より一般企業と何ら変わりません。文字通りの緊急事態宣言下だったからこそ、「この業界にいたままじゃ」みたいな心配は排除できたのかなと。

また例えば、ウチには週休2日のスタッフもいるし、「休みは1日で良い」というスタッフもいるし、アルバイトで自由度高くという子もいます。

収入よりはプライベート優先という働き方がある一方で、残業代や休日出勤手当が大好きな(笑)、入社1年で給与が倍になるようなスタッフもいるんですね。冒頭で“個々に”と言ったように、彼らそれぞれに労働環境に感じていたメリットもあったのかなと。

あとは前回お話した『ハピネス』のサービスの部分ですよね。おもてなしを尽くせば、お客様からたくさんの感謝も頂ける仕事です。そこにやりがいを感じていれば、おいそれと“転職”とはならなかったでしょう。

“5年で50の新店”。目標の裏に企業の“パーパス”の存在

とは言え現在、人は全然足りません(笑)。というのも、今ウチは全国に5年で50の新店を出すという目標を掲げているんです。

それには物件はどうにかなるかもしれない。お金だって融資を受けながらでもできるかもしれない。でも50人の店長だけは、育てなきゃならないんですね。昨年来『FENIX JOB』さんにたくさんの求人広告を出しているのも(笑)、それが理由なんです。

“5年で50店”を掲げたのにはワケがあって。2022(令和4)年に、我々は企業の“パーパス(purpose)”をつくりました。

パーパスというのは、翻訳すれば目的とか意図という意味になるでしょうか。企業に当てはめた時、従来から使われている“ビジョン”との違いは、社会的な視点が入っているかどうかですね。

簡単に言ってしまえば、ビジョンというのは自社のなりたい姿、パーパスにはそこに社会的な“存在意義”“使命”という意識が入ってくるということです。だからこそ、メッセージとして社会に知らせる……。

『ハピネスグループ』のパーパスを、我々は“うれしいのループを巻き起こす”としました。

誰もが危機。「自分達さえ良ければ」とは思えなかった

私がパーパスという意識を持ったのは、まさに厳しかったコロナ禍がきっかけです。水戸店への激励のため常磐線を利用したら、車両に座るのは私1人。福岡に行く飛行機に座ったら、20人しか乗っていない。ホテルの宿泊客も私だけ……。

この現実を前にした時、私は「自分達だけが生き残れば」とは考えられませんでした。

「この航空会社どうなっちゃんだ?」
「ホテルの方達どうするんだ?」

いささかおこがましいかもしれません。しかしそうとばかりも言えないはずです。

なぜならウチのお店にもタオルやおしぼりの業者さんがいる。ドリンクをトラックで運んでくれるお兄さんがいる。スタッフのスーツをお願いしている仕立て屋さんがある。発注が途絶えれば、彼らだって困るでしょう。

世の中ははどこかで必ず誰かと繋がっている。その意味で私が社会を思い、社がパーパスを制定しても、おこがましくはないんです(笑)。

“うれしいのループを巻き起こす”。そのための第一は

お話を戻しましょう。“うれしいのループを巻き起こす”というパーパスになったのは、やはりウチがサービス業だからというのが大きいんですね。

男性への癒しの提供という面で、我々は風俗店に意義はあると考えているし、金銭面でも生活の余裕でも将来の夢でも何でも良いけれども、ここで働くキャストさん達にだって、幸せを掴んでほしいと考えています。

そもそも『ハピネス』というブランド名に“関わる全ての方に幸せを”という願いが込められている。そこから“我々発でうれしいのループを”という発想になったのは、言わば必然でした。

そしてそれを達成するための具体的なミッションの1つが、“日本一の存在になる”ということだったんですね。日本一にも色々ある中で、では全国に5年で50店を目指そうかと……。

本当は何でも良かったんです。例を挙げれば、ハンバーガー店の日本一と言えば、数と知名度で圧倒的に『マクドナルド』だと答える方が多いでしょう。でも味で考えて『モスバーガー』と答える方もいるかもしれない。

我々もサービスで日本一と言ったって良い。キャストさん待遇で日本一と言ったって良い。実際それくらいの自信はあるし(笑)、冗談抜きにそう語れるだけのことをしているつもりです。

だけどそれじゃわかりにくいでしょう(笑)。ウチもやっていると言われるかもしれないし、真似しようというお店も出てくるかもしれない。

なのでわかりやすく、“数”で一番の目標を掲げたわけです。

“社会からの見られ方に変化を”と、望めばこそ

なぜ最初に“日本一”という目標を掲げたのかは、“社会からの見られ方に変化を”という2つ目のミッションに関わってくると思います。

吉原を見てください。約150のソープランドが存在する。『鬼滅の刃』に吉原遊郭として登場し、聖地とまで語る方もある。なのに当の街の側から積極的な発信はないでしょう。

それはこの事業がまだまだ人には言いにくかったり、働く側に後ろ指をさされるのではという思いがあったり、反社会勢力との結びつきを、世間が誤解するところから来るのかなと。これが他業種であれば、吉原は格好の街興しの材料にだってなりえたでしょう。

先ほど述べたように、私は風俗を立派な仕事だと考えているし、意義のあるサービスだと捉えてもいます。しかしそれをここで声高に叫んだとしても、聞いてもらえるかはわからない……。

ただしどうでしょうか?  『ハピネス』が全国一の数となり、そこで唯一無二のサービスが行われていれば、話は変わってくるでしょう。つまり“誰が言うのか”。類のない実績があれば、発言に力を持たせられるということです。

他業種への進出それ自体が“一般企業との垣根”を溶かす

ミッションには最後、3つ目もあって、それは“他業種への進出”です。それは何もこの業界を踏み台にということではありません。理由の1つは、もしも後ろめたさを感じるスタッフがいるのなら、先々に選択肢として、別の道も用意しておいてあげようということ。

もう1つは、これは2018(平成30)年のインタビューの時にも話したかな? 私自身がビデオレンタル店で店長を10年したように、サービス業なら何でも良い、何だってできるという思いがあるんです。あまりも風俗店の経営が楽しかったから(笑)、今社の発展のために尽くしているというだけで。

ここで培ったサービスのノウハウは、どこでも活かせる。だから何かおもしろい事業を考えたスタッフがいたら、社内ベンチャーとして積極的に助言と支援をしてあげたいなと。

これ自体が、“一般企業と風俗業との垣根”を消すことになればという思いがあるんですね。飲食店、美容系、介護、スポーツジム、教育事業、何でも構いません。我々が何か事業を始めて成功する。「あそこってソープランドも経営しているんだって」となる……。

ウチの他業種間で人の行き来もあるかもしれないですよね。サービス業としての基本は変わらないんだから、出向だって研修だってありえるでしょう。

もうおわかりですよね。こうして垣根が溶けていけば、前章で触れたミッションの2番目、“社会からの見られ方に変化を”に確実に寄与するはずです。そしてこの夢も、全国50店を展開する日本一の風俗店なら、実現が早いかなと(笑)。

“存在意義”まで見つめられた幸福。先は行動あるのみ

そろそろ松坂さんもお時間でしょう(笑)。まとめに入りましょうか。

もともとのグループ名の由来『ハピネス』、みんなの幸せという思いががあったうえで、我々はコロナという不測の事態を経験しました。

これを受けて、私は社会を思い、皆と話し合って、“うれしいのループを巻き起こす”というパーパスを設定。達成のためのミッションとして“日本一の存在になる” “社会からの見られ方に変化を” “他業種への進出” の3つを掲げて今日に至ります。

あらためて、コロナ禍は良い機会でした。グループの存在意義まで考えて、今後を思えたわけですから。この先は行動あるのみですよね。

皮切りとして2022年11月、茨城県に『ハピネス&ドリーム土浦』をオープン。今年2023年6月2日には、鳥取県に『ハピネス&ドリーム米子皆生温泉』が誕生します。

すごい?(笑)  ありがとうございます。でも出店ペースを思えば、お褒めの言葉はまだ早い。5年後を見てください。我々はどこまで行けているか……。

これからですよね。手始めに土浦と米子で、新たな“うれしい”のループを。一事が万事です。その場その場でコツコツ努力を続けていれば必ず道は開けるし、開ける企業、いいえ、社会にしなきゃいけない。経営者として50代の1人の大人として、本気でそう思います。

――言うまでもないが、筆者は一介のサラリーマンにすぎない。だからこそコロナ禍、『ハピネスグループ』に残ったスタッフの“理由”に興味があった。あの時風俗業で明るい未来を信じることは、困難だったはずだから。

ところが話は“日本一”の夢へと向かった。自社他社どころか、業界のワクを越えて「うれしいのループを巻き起こそう」という真摯な思いが語られた。

あえて繰り返そう。なぜあの時スタッフは、小山代表のもとに残ったのか。今この時も、ホスピタリティ溢れるサービスに努めているのか……。

別れ際、最後に代表はこう語った。

「空気を吸わなければ人は生きていけない。でも、空気を吸うために生きている人はいないでしょう」

この言葉がすべてだろう。聞くまでもなかったのだ。

『ハピネス』には目的がある。ここのスタッフはみんな、嬉しいのループを巻き起こしたいのだ。代表と同じように。

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コロナ禍で知った自社の強み。全国展開前夜~『ハピネスグループ』代表 小山健二の決意 #1

小山 健二(こやま けんじ)

東京都出身。風俗業界歴は21年。レンタルビデオチェーン店の店長10年を経て、ヘルス店で9年間店長を務め、『ハピネスグループ』へ。2013年よりグループ代表に就任。好きな言葉は『率先垂範』。尊敬する人物はジャッキー・チェン。一時期は映画館で年間230本程を見るほどの映画通。好きな映画は『パルプフィクション』。

執筆者プロフィール

松坂 治良

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小さな出版社などを経て、”誠実に求人広告をつくろう“という姿勢に惹かれ、現職に就く。数年来クラシック音楽と仏教に傾倒中で、最近打たれた言葉は「芸者商売 仏の位 花と線香で 日をおくる(猷禅玄達)」。……向き合った相手の“人となり”や思いを、きちんと言葉にしたいと願う、今日このごろです。

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