セックスワーク・サミット2017夏 行ってみた!『風俗業の見えない孤立』GAP・角間惇一郎トークイベント

2017年08月18日

by新海 亨新海 亨編集長

皆さん、こんにちは! 毎日うだるような暑さの中、いかがお過ごしでしょうか?

今回は、2017年7月17日(月・祝)に、真夏の太陽に負けないほどの熱い議論が繰り広げられた『セックスワーク・サミット2017夏』のイベント・レポートをお届けします!

登壇されたのは、2017年4月に『風俗嬢の見えない孤立』(光文社新書)を出版された角間惇一郎さん。

角間さんは、風俗店の元スタッフで、現在は女性のセカンドキャリア支援を行うNPO法人『Grow As People(以下:GAP)』代表を務めている。その角間さんから見た今の風俗業界とは?

「僕らNPOはあくまでもキッカケ作り」

「風俗業界という“ビジネス”、そして“マーケット”の存在をもっと社会に知ってほしい」

角間さんが、そう呼びかける真意とは?

主催の坂爪真吾さん、編集者の赤谷まりえさんと共に繰り広げられたトークイベントの模様をお届けします。

セックスワークサミット

セックスワークサミット

これからの性風俗産業の進むべき方向性を議論するべく、2012年より全国で開催。毎回多彩なゲストと共に、セックスワークに関する熱い議論が繰り広げられている。主宰は、一般社団法人ホワイトハンズ(代表:坂爪真吾)
紹介ページ:セックスワークサミット:公式サイト

「風俗と貧困」ブームでは見えてこない事実をデータで顕在化したい


赤谷 角間さんが、『風俗嬢の見えない孤立』を執筆している間に、「貧困と風俗嬢」というコンテンツブームがありましたが、それについてどう思われましたか?

角間 2015年から2016年にかけて、風俗的なコンテンツと貧困との相性の良さに気付いたメディア業界が、そのトレンドに乗ったわけです。すごいにぎわいましたよね(笑)。

その時、メディア業界の一部の人は、世間の需要に応えて評価されたんだろうけど、夜の業界には大してメリットはなかったかなと感じるんですよね。

なぜなら、注目を浴びたけど本質を突いてない、「貧困かわいそう」みたいな感情ベースの“あいまいなもの”でしか、この業界を見ていない。要は事実を見ていないんですよね。

僕らがNPOを運営しているのは、そういう感情で動いているわけではなくて、業界にある課題を解決したいからなんですよね。

課題解決のためには、そこで起きている事実をつかまないといけない。そのためには数量的なデータが大事になってくるんです。

どんな人が働いていて、どれくらいの頻度で、どれくらいの稼ぎがあって、みたいな。そういうデータからこの業界の問題点って浮かび上がってくると思っています。

ただ、本の執筆に当たって、今までGAPの活動として集めてきたデータをまとめるのに、ものすごく時間がかかってしまって(笑)。

結果として3年くらいかかってしまいました。あとは、「トレンドに便乗して注目された本とは差別化したい」という意地みたいなものがありましたね。

坂爪 この本の特徴は、これまでの風俗関連の本とは違って、ルポやエロも排除した事実をベースとして書いているところですね。とても斬新なスタンスだと思います。

「誰でも年を取る」「孤立は良くない」ということを世の中に伝えたい


赤谷 過剰になっていくメディアと対峙して、ご自身が本書で込めた“あいまいなもの”は形にできましたか?

角間:本書では、問題提起としてシンプルに「誰でも年をとる」「孤立はヤバい」ということがみんなに伝えられればいいかなと。

夜の業界の問題については、この本よりも僕がいろいろなメディアで言っている「40歳の壁」(40歳を超えると体力的に出勤日数が減り、収入が減少していく)という言葉のほうが大きな影響を与えていると思っています。

シンプルな言葉のほうが、世の中に普及するんですよね。

大前提として、この仕事にプライドをもっているもっていない、稼げている稼げていないに関係なく、「誰でも年をとる」ということです。

それと、貯金がたくさんある人、資格をたくさんもっている人、高級店にいる人でも孤立すると、つまずくんです。だから、「孤独はヤバい」と。

僕自身、風俗店で働いていた経験があって、そうした状況をよく目にしてきました。夜の業界で働いている人は女性に限らず、男性スタッフでも不測の事態にすごく弱いんですよ。

その理由は、自分の立場を周りに言い出しにくくて、現状を共有しづらいからなんです。病気とか怪我とかで働けなくなったら、収入はゼロになるわけですから。行政とかに相談できず、結局孤立してしまう。それを何とかしたいと考えたわけです。

でも、直接そういう人たちを支援しても、場当たり的なものにしかならない。

だから、数量的なデータを基に、彼らが言い出しにくい現状や問題を社会に投げかけていく。僕らはあくまでもキッカケ作りでしかないと思っています。

世の中に伝えるには、わかりやすい言葉を選び、資本を集めること

坂爪 本のタイトルに「見えない孤立」とありますが、風俗嬢の孤立について「見えない」じゃなくて、「見たくない」という人が多いのかなって思ったんですけど。

角間 いいや、みんなとても見たがってますよ! ニュースサイトのそうした記事はとても人気がありますよね。

これは僕の見立てですが、本当は風俗の記事を読みたくても、いやらしいから読めずにいたインテリ層が、「貧困」という社会問題が絡むことで読んでもいいという言い訳ができるようになったと思うんですよね。

でも、彼らは読むということだけに留まって、問題の本質を見てないんです。

赤谷 ボールを投げる側が、問題の多様性をどれだけ伝えられるか、受け取る側が、それをどれだけ理解できるかが、鍵になると思います。でも、現状は性産業を一面的に切り取りすぎていて、問題の多様性を伝えるには至っていないようですね。

角間 前提としてこの業界にもいろんな人がいて、多様性があるということを理解しなきゃいけないのに、「貧困と風俗」ブームは、それを固定化させてていて非常に危険だと思います。ただ消費されているだけですからね。

そこで、僕らがしなきゃいけないのは、「これは、ビジネス・チャンスなんだ!」という考えを誘発することなんです。これだけの市場規模があって、解決することでこんなメリットがあるってこと知ってもらいたい。

だから、データでもってマーケットの存在を知ってほしいんです。

でも、いきなり大変なところから始めてしまうと、資本が集まらないから行き詰ってしまう。問題解決をするには自分たちの得意分野を作って、狭い世界でもそこから広げていくことが重要だと思うんです。

『認定NPO法人フローレンス』の事例で紹介しましょう。共働きの夫婦の子供が熱を出すと保育園に預けられないので、母親が休むことになる。

そうすると、女性の働きやすさを疎外する。そこで、彼らは、病児保育する人を自宅に派遣するというサービスを始めたんです。しかし、これがインテリのキャリア世帯を狙ってると批判されたんですよね。

でも、僕はそれが悪いことだと思っていません。キャリア世帯だろうが貧困世帯だろうが、子供が熱を出したら誰かに預かってもらいたいし、キャリア世帯を狙ったことでお金が集まるし、人も集まりやすくなる。

その結果、メディアにも取り上げられるようになって、賛同者が増える。そういう取っ付きやすくて、世の中の関心が集まりやすい部分から着手していくってやり方はすごく効率的なんですよね。

こうした取り組みから始まって、彼らは今、ひとり親世帯の低価格のパッケージも提供しています。少しずつ裾野を広げていっていますよね。

夜の世界においても同じです。目につきやすい貧困層から支援を始めると根っこが深すぎて問題の根本にたどり着けないんですよ。

だから、まず僕らは夜の業界で働く女性の「セカンドキャリア」という部分から少しずつほぐしていきたいと考えています。

世の中の仕組みを変えるには、続けていく以外にない


坂爪 角間さんを見て、風俗業界の内側の論理を代弁して社会に発信する人が出てきたのはすごくいいなって思いました。角間さんの考えるセカンドキャリア、GAPの今後について教えてください。

角間 孤立という問題を解決するためは、「多くの人」ではなく、「力のある人」に理解してもらわなくちゃいけないと思っています。

どういう力のある人かというと、僕らの取り組んでいるセカンドキャリアっていう領域だと、「バレずに済む何かを作れる人」。

それは、キャリアに対して影響力がある人。つまり、リクルートやパソナとかですよね。

GAPがやってるセカンドキャリアのサポートは、市場は大きいし、プレーヤーも多いから、彼らが参入すれば最強なんですよ。

でも、彼らはそうしない。それは、「風俗はピンク産業で、社会的信用を得られないし、何か怖いから」なんです。

その「何か怖い」を外してあげて、「これだけの人が年齢的な要素でつまずきやすい部分があるんです」と伝えることで、「ほかの領域と同じ問題だ」と理解してもらえれるし、参入しやすくなると思います。

そうすれば、「孤立せずにセカンドキャリアに行ける」という社会がより確実に浸透するだろうと考えてるんです。

風俗の問題とのかかわり方はいろいろありますが、世の中の仕組みを変えるには、続けていく以外の選択肢は絶対にあり得ないんですよ!

ただ、続けていくためには体力やお金、時間が必要になるので、ビジネスをすることから逃げちゃ駄目なんですね。続けるためにビジネスをするんです。

あとは、多様性をもった人たちが動いていくことが大事だと思っています。文化的な側面を見るだけでなくて、経済的な側面を見るとか、ユーザーの需要を見るとか。

GAPだけではなく、誰かを巻き込んで継続していく仕組みを考えるとかを皆さんに考えてもらいたいと思います。だから、僕らのやっていることをパクって、ほかの人に翻訳してくれて、社会に対して影響を与えることができたらうれしいです。

僕は、名を残したいなんて願望はなくて、ただ、世の中を良くしたいだけなんです。

例えばSuicaってすごく便利ですよね。でも、それを誰が作ったのかをみんな知らない。僕は、そういうものを作りたんです。

それは、履歴書の要らない世界、風俗業界に行っても孤立しない世の中かもしれない。その形は、まだ完全に見えていないですけど、「世の中で当たり前に使っているいいもの」を作りたいなと思っています。

まとめ

数量的なデータを基に、風俗業界の問題を社会に投げかける角間さん。

印象的だったのは、あくまでも業界のファクト(事実)を伝え、そこにあるビジネス・チャンスを外部へ訴え続けていることでした。

角間さんが目指す「世の中にあたりまえにあるもの」が風俗業界をより良い方向に導いてくれることを願っています。

角間惇一郎

角間惇一郎(かくまじゅんいちろう)

1983年、新潟県生まれ。建設業界で働いていたが、2010年の「大阪二児遺棄事件」に衝撃を受け、夜の世界で働く人の孤立を防ぐ事業を始めたいと思い、脱サラ。2012年、『一般社団法人GrowAsPeople』を設立。東京都荒川区を拠点に活動する。性風俗産業にかかわる女性たちのセカンドキャリア支援、のべ数千人に上る実態調査による統計算出などに取り組む。
一般社団法人GrowAsPeople:公式サイト

角間さんインタビュー記事 「前職は風俗店スタッフ! なぜNPO代表は風俗と出会ったのか」 ~一般社団法人GrowAsPeople代表理事・角間惇一郎さん#1~

執筆者プロフィール

新海 亨

新海 亨編集長記事一覧

元大手ハウスメーカー営業マン。お金と引きかえに自由とやりがいを手放す生活から決別するため転職を決意。ある風俗サイトに感銘を受け、デザイナーとして仕事を始めるも、いつのまにか編集員に。最近はハマっている一眼レフカメラの仲間を求め奔走中。座右の銘は“STAY GOLD!!” 東京都出身。

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