「“普通”を疑い、“普通”を超えろ。常識に挑み続けた男の原点」~アインズグループ代表 北村一樹の冒険#1

2019年01月16日

by松坂 治良松坂 治良編集者

――“かわいい”と“キレイ”に妥協しない姿勢を前面に打ち出して関西を席巻し、アインズグループを押しも押されぬ大グループに成長させた北村一樹氏(38)。

自ら“個人商店”と語る1店舗からはじめ、年数にしてわずか13年足らずで、大阪はおろか全国の主要都市をうかがう“企業”にまでアインズを育て上げた手腕には、正直舌を巻くほかない。

起床時にはピアノを弾き、キャストのメイクアップにも指示を出せる美的センスを持ち、大阪のどこに旨い食事を出す店があるかも知っている……。

優雅にさえ見える北村代表だが、生い立ちから38年の歩みは、戦いの歴史そのもの。学校の成績が1番にもかかわらず、彼は高校へ行くことを拒み、まずバイク屋で働きはじめるのだ。

キーワードは“普通”。この男ほど“普通”について考え、そしてそれを乗り越えて行った者はいない。はじまりとして、風俗業界に至るまの軌跡を見てみよう。

“普通” 進学? 何やその普通って。15歳の反骨精神

はじめに職に就いたとき? 16歳ですね。バイクのオークション会場で、検品なんかしてました。……いや、違います。バイトじゃないです。社員で。

自分バイトしたことないんですよ。中卒なんで。

そんなに驚きますか?(笑) ここでびっくりされたんじゃ、先が思いやられちゃうな。

僕ね、成績は学校でトップクラスだったりしました。親戚に東大出た人間だって何人かいますよ。でも、自分は義務教育でサヨナラ。

もちろん家庭は教育熱心で、貧しさとは無縁です。長男の僕は幼稚園の時からピアノを習って、発表会では着飾ってね。だから“普通”に考えたら、進学しない理由なんてどこにもないんですけど。

ただこの“普通”がクセモノで。大嫌いな言葉だったんですよ。

「勉強しい。普通勉強するんや」
「普通この時間には家にいるもんやろ」
「どこの世界に1番の成績取って進学せん者がおる。普通やない」

どやされる度に僕は「何や、その普通って」てなもんですよ。今思えば幼い反骨精神なんですけど、当時は本気も本気で。

バイクが好きだったんで、中学卒業後にバイク屋で働きはじめたんです。まあね、今思うと、親にはずいぶん迷惑をかけました(笑)。

学歴コンプレックスはゼロ。バイク屋での沢山の学び

学歴コンプレックスなんて僕にはないですよ。このバイク屋時代にだって、どれだけカッコいい男たちがいて、僕はどれほど学んだことか。机の上だけが勉強じゃないんですよ。

当時40歳ぐらいの所長さんがね、まあ何だかんだ僕のことを構ってもくれて。

「10代のお前がオレぐらいの知識持ったら、オレの歳になったらどんだけの人間になってんねん。おっきなれ。何でも教えたるわ」

生意気ですけど、子どもながらに感心しました。「そうか、知識って出し惜しむもんやないんやな」って。僕がツイッターでメッセージを発信し続けている原点には、この所長の姿があるんです。

この時一生懸命仕事したおかげで、僕は38歳の今でもバイクくわしいですよ。下手な中古は、僕には売らない方が良いですね(笑)。

“普通” 水商売なんてやらない。言った自分を許せず

それがどうして水商売に行ったかというと、まあこれがアホみたいな理由で……。お金? 違います違います。僕、水商売大っ嫌いでしたから、そういう動機で行くことはありえないです。

その時付き合っていた彼女がね、キャバ嬢はじめたんですよ。もちろん許せなかった。ところが別れる時に言った僕の台詞が、自分自身がいちばん憎んできたはずの言葉で(笑)。

「水商売なんか普通するもんやない。お前おかしいわ」

彼女がいなくなって、でもそこでもずっと、自分の胸に引っ掛かりがあって取れないんです。彼女のことが好きで悔しくてとかじゃないですよ。自分が“普通”という言葉を使ったことに対するいらだちが、消えてくれない。そこへの反骨心で、それまで来てたわけですからね。

「オレが普通で押さえつけた業界って、どんなんやろう?」

僕も18歳か。高校で言ったら3年生ですよね。結局自分の“普通”が許せなくて、最大手のキャバクラに面接に行きました。出てきたのはパンチパーマのコワーいお兄さん。

「お前、気合入ってるか?」

いきなりそう言われたんで、面食らいました。うん、全く普通じゃない(笑)。

バイクから“人”へ。変化の先にあった思わぬ転機

水商売に入った瞬間から、たぶん僕の意識はガラッと変わりました。今まではバイクという商品を人に売っていた。要はそこにはモノと人があったわけですよね。でも水商売というのは、周りに人しかいないんですよ。

たまに勘違いしている方がいますけど、高いお酒なんていうのは、キャバクラではオマケでしかない(笑)。サービスを売るという方もいるけど、サービスって誰がやっても良いわけじゃない。キャストに依るんです。キャバクラで提供するのは“最高の女の子”、そう、人なんですよ。

楽しかったですねぇ。競って女の子をプロデュースして。出来高制で、できるヤツとできないヤツははっきりと分かれて、10倍以上も給料の差があった。

成人式を迎えた頃には、もう僕は店長になっていました。バイク屋さん時代は1年でやっと500円給料が上がるだけだったのに、おもしろいようにやったらやっただけ給料も上がって……。

その時にはね、もう「水商売なんて普通じゃない」なんていう思いは消えていました。忘れていた。その中を僕は生き、そりゃすごい先輩はまだまだいましたけど、自分なりに勝ち抜いていましたからね。

でもね、やがてまた別の“普通”が僕の前に立ちはだかって、転機が生まれるんです。本当に、思いもよらない形で。

風俗嬢はかわいくないのが“普通”。後輩の何気ない一言

「風俗の子って、そんなにかわいくないよな」
「……行ってもつまんないですよね。それが普通になってますもんね」

キャバクラの後輩に、何気なく返された一言でした。ごくごくたまに、付き合いも含めて風俗に行くことがあったんですけど、その2005年当時ね、風俗に行って出てくる子が“そんなにかわいくない”っていうのは当たり前で。

今でもありますけど、パネマジでね。「こういうもんなんや」っていう。誤解を恐れずにあえて言いますけど、そんなにかわいくない子達が、要はそこでしか働けないから働くというかたち。

最初に水商売をしていて、キレイな子は飲み屋に行く、そうじゃない子は風俗に行く。それが14年前の現実だったんです。

何というか、仕事意識も感じなくて。すっぴんやし、髪の毛ボサボサやし、「脱げばオッケーでしょ?」みたいな女の子しかいなくてね。

僕もそれで良いと思っていました。良いというか、関心がなかった。そういうもんやろって……。

仕事意識が低くて当たり前。それは、諦めではないのか

でも後輩から聞いて以来、やっぱりその“普通”という言葉が、前と同じように頭から離れないんですよ。ピアノを弾いていてもね、ずっと気に掛かる。普通、普通、普通。

「それが普通で、あんなに儲かんねんな」

普通でなくした時?

「……もっと儲かるやん! いやそれより何より、みんなゼッタイびっくりする!」

そう、わりと単純でしょう? でも誰もやっていなかった。風俗はブスで普通、仕事意識低くて普通。この普通って、何だかわかります? 普通と言いながらね、それは諦めだと僕は捉えた。だから引っ掛かったんじゃないかな。心の中に、その諦めをくつがえしてやりたい自分がいたんです。

「やってやる」

僕は自分が培った水商売の縁をぜんぶ使って、大々的に募集もかけて、最高の女の子を11人揃えました。容姿端麗で、接客意識も高い女の子たちを、そのまま風俗に連れてきたらと思ったんです。

それがアインズの原点、今ではグループの中核となった『ブレンダ』のはじまりです。忘れもしません、2006年の6月。26歳の僕は、意気揚々と船出していました。

でもね、世の中はそんなに甘くなかった。この船、はじめからいきなり沈みかけて(笑)……。

――“普通”に抗い、挑み続けた北村代表。かわいくないが当たり前という常識に疑問を持ち、“最高にかわいい”女の子たちを引き連れて風俗業界に乗り込んだが、そこではじめてと言っても良い挫折を味わう。

順風満帆に見えた船出のどこに落とし穴があり、そしてアインズグループは、それをどうやって乗り越えたのだろう? 続きは連載第2回で。

(インタビュー:新海亨)

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「ここへ、何のために。発展の礎となった、女の子の意識改革」~アインズグループ代表 北村一樹の冒険#2

北村 一樹(きたむら かずき)

大阪府堺市出身。風俗業界歴は13年を数える。18歳で水商売の世界に飛び込み、20歳で早くも店長に。2006年に風俗業界に身を転じると、代表として『ブレンダ』を中心に高級店を次々と成功させ、アインズを関西で押しも押されぬ大グループに成長させる。含蓄のあるツイートにはファンが多く、フォロワー数は1万6千人を超える。趣味はピアノで、目覚めには必ず鍵盤に向かう。

執筆者プロフィール

松坂 治良

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小さな出版社などを経て、”誠実に求人広告をつくろう“という姿勢に惹かれ、現職に就く。数年来クラシック音楽と仏教に傾倒中で、最近打たれた言葉は「芸者商売 仏の位 花と線香で 日をおくる(猷禅玄達)」。……向き合った相手の“人となり”や思いを、きちんと言葉にしたいと願う、今日このごろです。

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