風俗情報媒体の“過去”と“現在” ~『俺の旅』生駒 明×『kaku-butsu』岩清水 大河 編集長対談#2~
2017年08月31日
『俺の旅』生駒編集長と『kaku-butsu』岩清水編集長による対談企画。第2回となる今回は、両編集長に日本経済の歴史を紐解きながら、風俗業界の変遷を見ていく。
【高度成長期~バブル期】好景気が風俗業界を盛り上げる
赤星:ではテーマを変えて、風俗情報媒体の過去から現在についてお伺いします。ここは生駒編集長に解説をお願いします。
生駒:日本社会、経済の変化を見ると高度成長が最初にあったわけですね。80年代のバブル期、90年代にバブルが崩壊。2000年代は失われた10年で、2010年代はそこから一緒に歩いた10数年ですね。
やっぱり高度成長期からバブル期は景気がよくて、全国のソープが大人気だったんですね。喫茶店で空き待ちしているような感じで、ユーザーも気前がよくて、遊びによくお金を使ったと。
赤星:本当に集客にぜんぜん困らなかったというのも聞いたことがあります。箱ヘルとか。そういう時代は、2000年代の前半ぐらいまでですか?
生駒:80年代~90年代の頭までですね。やっぱり風俗で働く女の子たちも、複雑な事情を抱えている子が多かったんです。ソープでは「こんなところで働いている」みたいな悲壮感があったわけです。
でも90年代後半から2000年代にかけて、経済が低迷していく中で風俗嬢の素人化が進みました。2008年のリーマンショック以降、さらに景気が落ち込んで、さらなる素人化が進んでいくことになります。
【2000年代】風営法改正とウェブの普及により、デリヘルが隆盛
赤星:2004年、当時の石原都知事の歌舞伎町浄化作戦が1つの分岐点かなと思うんですが、そのビフォーアフターも簡単にご解説いただいてもよろしいですか。
生駒:風俗に対する風当たりが厳しくなったのは2000年代頭ですね。基本的に風営法の関係で新しい店舗型の風俗店はだせないんです。今あるところは既得権(法律改定前に権利を取得していた店舗)なんですね。
やっぱり大きかったのは、その98年にあった風営法改正です。デリヘルが無店舗型の届け出制になって、合法化したということですね。
ユーザーもかつての玄人よりも、若くて安くてかわいい女の子を選ぶようになったわけです。手軽で遊べる安い店、ライト風俗といいます。今はさらに素人化が進んで、手コキとか、オナクラとか、エステとかソフト風俗も生まれています。
赤星:デリヘルが出てきて、2000年代はどのように変化した歴史なんですか?
生駒:インターネットの普及が大きいですね。昔は案内所で遊ぶお店を決めていたけれど、今はネット。
このおかげで無店舗型のデリヘルが勢いづいたんですよ。98年くらいから、「これから増えていくな」という勢いは感じました。2000年に入ると爆発的に数が増えて、玉石混交だったんですね。
赤星:リーマンショック以前のユーザーは、素人の女の子と遊びたかったけど、供給する側、つまり店舗が用意できなかったのが、デリヘルの拡大で素人さんと遊べるようになったから、素人女子の隆盛になったんですか?
生駒:これまでも素人ブームは何回もあるんですよ。2000年代とか、80年代とか、過去に景気がいいときでも素人が流行った時期はありました。
赤星:ブームの側面もあるとは思うんですけど、男の本能として高級店のようなビジネスライクでプロの接客より、素人の方がいい、というのはどの時代も変わらないんでしょうか。
生駒:なにを求めるかによりますね。今みたいなお金を使いづらい時代、不景気が続いていると、素人の笑顔にいやされたいというニーズが出るのかと。ただ富裕層っていうのはやっぱり一定数いて、高級店の需要っていうのは確かにあるんですよね。
今はいろんなニーズに応えるニッチなお店が増えているし、うまくそこにハマったお店が流行っていますよね。
【2010年~現在】風俗は、快楽だけではない付加価値を提供する方向へ
赤星:リーマンショック後からユーザーがコスパを求め始めるようになり、風俗の遊び方が変わっていったと。そこでお店はどのように変化しましたか?
生駒:昔のような快楽だけを提供するサービスから、プラスアルファのものに変わっていますね。
先程も少し話しましたが、より専門化、細分化しています。たとえばコスプレだったり、イメージプレイだったり、人妻だったり、熟女だったり、3P専門店だったり、撮影プレイがあったり。非常に趣向を凝らした店が増えています。売りを明確にしているんですね。
赤星:自分のピンポイントの性癖に特化したお店が探せるようになったわけですね。逆にいうと万人受けするサービスがなくなってきているということですか?
生駒:そうですね。昔は大衆といわれていたのが、今は分衆の時代ですね。マーケットの中にはもう大衆はいない。それは30年前からいわれていたんですけど。どんどん個別化、趣向の細分化が進んでいってますよね。
あともう1つは激安化。これはもう外せないですね。長期不況の影響でコストダウン、価格破壊が進んでいます。
岩清水:たしかに全体的にやっぱり下がっているとは思います。極端に安いお店もそうなんですけど、新しくできるお店は、大体値段がちょっとずつ安くなっているイメージがあります。
赤星:働くキャストさんの質も上がってきていますよね?
岩清水:そうですね。今は昔と違って30代といっても若くてきれいですからね。40代でも美人ですし。
赤星:リーマンショック前に比べると、風俗業界で働く女性の裾野が広がってきたという傾向もありますかね。女子大生が学費のために風俗やっているとか。中村淳彦さんのように、女性の貧困にスポットを当てて社会を論じる人も増えてきました。
岩清水:そうですね。やっぱり働く場所が欲しいということですかね。
生駒:1個の選択肢ではあると思うんですよ。でも、そういう場合って風俗で働くことは悪いことのように扱われるじゃないですか。
赤星:ちょっとバイアスが入って報道されますよね。
岩清水:女の子も全員が全員、何も考えずに働いているわけではないんですよ、当たり前ですけども。まじめに人生考えていたりするし、そういう子があえて風俗で働いているケースもあるんです。
奨学金などは何年も返済し続けなければいけないけれど、1~2年で返せるんだったら風俗で働くことを選ぶ子もいるわけです。実際に調査をするなかで高学歴の女の子はいます。留学して英語ペラペラだけど風俗で働いている子もいるんですよね。
生駒:当然、風俗嬢でも頑張らないと稼げないですし。サービス・接客業として努力は必要ですからね。
岩清水:店舗のコンセプトがニッチ化して、それに対応する形で女性の質も上がっている印象はありますね。
紙とウェブは共存共栄、『kaku-butsu』はアナログとも連動していく
赤星:ユーザーのニッチ化、低価格、キャストの高レベル化、そして競争の激化が叫ばれる現代の風俗業界ですが、情報媒体の手法として紙とウェブというのはどのように進んでいくのでしょうか?
生駒:紙媒体とウェブ媒体は共存共栄だと思っています。あれだけ電子書籍が流行るといって、今でも紙の本は残っているわけですから。
紙の需要が減っているとよく言われますが、風俗系のウェブサイトだってどんどんつぶれていますからね。
赤星:今のウェブ媒体の現状は、かなりレッドオーシャンなんですよね。すみ分けが結構できてきている印象なのですが。
岩清水:できてきていますね。確かにウェブだから勝てるってことは絶対ないです。
『kaku-butsu』はアナログとの連動に力を入れています。ウェブだけの展開というのはあり得なくて。オフライン的なイベントを定期的に行っているんです。
赤星:先日開催された「『kaku-butsu』ガールズコレクション2017」などですね。確かに『kaku-butsu』以外でアナログに力を入れているウェブ媒体はあまり見かけないですね。
岩清水:われわれ以外でアナログに力を入れている媒体は、今のところはないと思います。だけど、直接のふれあいというか、アナログ感とつなげていかないとこれからは難しいでしょうね。
今後は紙とウェブのハイブリッドですよね。僕も両者が生き残る共存共生の道はあると思っています。
生駒:まだウェブについていけない人はいっぱいいるんですよ(笑)。
岩清水:いっぱいいますね。
生駒:スマホを使ったことがないとか、検索がわからないとか、そのレベルの人がいっぱいいるんです、世の中には。
パソコンにさわったことがないとか、そういう人から私のもとにいっぱい電話がかかってきます。「そんなのは検索すれば一発でわかる」と思っていると、大間違いなんですね。
世の中には、その流れについていけない人がいっぱいいる。
岩清水:やっぱり『俺の旅』みたいに情報がぎゅっと詰まっている雑誌は理想的ですよ。
ウェブなら同じことができると思うかもしれないですが、ウェブでやったら読まれないページばかりになっちゃうんです。ニュースサイトでも同じだと思うんですけど、みなさん興味のあるニュースしか読まないんです(笑)。
でも雑誌は、特に読む気のないページでも目に止まったら「おっ」と気になってしまったり、新たな発見があります。
僕も『俺の旅』の愛読者で、よく読んでいます。本当にたくさんの発見をもらってますね。
今って、自分が興味を持たないものにふれる機会がどんどん減ってきているんです。やっぱり雑誌にしかないよさがあるんですよね。
赤星:『kaku-butsu』ではそこを突き詰めていく感じですか。
岩清水:そうです。ウェブだけだとなにか時代に遅れてしまう感じになってしまうので、潜在的な興味を掘り起こしていくっていう意味では、紙媒体とかオフラインのイベントってすごく大事だと思っています。
最終回となる次回。若者の草食化が進む時代において、風俗業界はどう変化していくのか? 業界を盛り上げるあれこれについて考える。
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生駒 明
1973年生まれ。新潟大学人文学部卒業。編集プロダクション勤務を経て、ミリオン出版入社。編集長として10年以上『俺の旅』をトップレベルの情報誌として世に出し続ける。近年は業界活動も積極化させており、2016年3月には「セックスワークサミット」にも登壇した。
編集長ブログを連日更新中 『俺の旅web』こちらも是非。
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岩清水 大河
1978年生まれ。。毎日、首都圏の風俗店を巡り、記者が厳選した新人情報などをお届けしている「日刊kaku-butsuニュース」をまとめている。もともと風俗ノンユーザーであったが、今ではkaku-butsuの会員と一緒に風俗店に行く企画を主催するほどのヘビーユーザーに。SODでは「ブラファイル」や「手マン養成ギプス」を発明。『kaku-butsu』
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