セックスワーク・サミット2017冬行って見た!『みんなでつくる「適正風俗」:第1回・法律編』後編
2018年01月19日
2017年12月3日、性風俗産業の進むべき方向性を議論する『セックスワーク・サミット2017冬』が開催されました。本稿では、主催者である坂爪氏と3人のパネリスト、岩切氏、大崎氏、浦崎氏を迎え、「適正風俗」をテーマに議論された様子を前編、後編に分けてお届けします。
セックスワーク・サミット2017冬行って見た!『みんなでつくる「適正風俗」:第1回・法律編』前編
本稿では後編として、「スカウト」「性暴力」、そして、風俗で働く人たちの安心と安全を守るために「法律のあるべき姿」についてレポートします。
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セックスワークサミット
これからの性風俗産業の進むべき方向性を議論するべく、2012年より全国で開催。毎回多彩なゲストと共に、セックスワークに関する熱い議論が繰り広げられている。主宰は、一般社団法人ホワイトハンズ(代表:坂爪真吾)
紹介ページ:セックスワークサミット:公式サイト
スカウトは、ほぼブラックでも需要があるからなくならない
坂爪:2016年に大きな話題になったAV出演強要問題で、スカウトマンは重要な存在で、さまざまな問題が指摘されています。また、スカウトに対する法や条例の規制はいろいろありますが、それでもなくならないのはどうしてでしょうか。
大崎:スカウトを求める店舗と、働く場を求める女性の需要があるからですね。
坂爪:スカウトマンの仕事は、働く女性を店舗に紹介するだけでなく、ケアやアフターフォローなどをするわけですが、それらを『風テラス』(風俗で働く人のための無料生活・法律相談サービス)が行っているような支援活動のひとつとしてカバーできないものでしょうか。
浦崎:『風テラス』の取り組みは、お店とつながるという意味で面白いと思いますが、協力店舗を確保していくことがなかなか難しいという現状です。また、相談内容がお店とのトラブルとなると、お店に場所を提供してもらって、女性からヒアリングを行うというのは、しづらいわけですよね。
また、風俗店側からすれば、『風テラス』とつながるのは慈善事業としてではなく、ビジネスとしてメリットがないといけません。そのためには、例えば、我々、専門家の存在が、お客さんや女性に選ばれるようなお店作りに効果があるといったようなことですね。しかし、そうした仕組みを今の風テラスのような存在が持ちえるのかというと、どうでしょう? そこで、第三者的な存在がいろんなアプローチでお店とつながって、カバーしたほうがいいように思います。
坂爪:スカウトに関する法規制や条例があっても、需要があるからスカウトはなくならない。そこで、スカウトを届出制にしてはどうかという意見がありますが、グレーゾーンの存在を届出制にすることの可能性についてお話を聞かせてください。
岩切:スカウトは、かなりグレーというか、違法な要素が非常に強いと思います。職業安定法から見れば、スカウトは職業紹介やヘットハンティングではなく、女衒(ぜげん)の一種で、搾取や人身売買の原因と位置付けられるでしょう。
そうしたスカウトを届出制にするならば、法律上、スカウトの仕事を正面から認めることになりますから問題でしょうね。見方によって、スカウトはヒモと同じだと言えるわけですし。
坂爪:確認なんですが、職業安定法上、風俗は有害業務にあたるということですよね? その斡旋を行うことがアウト、ブラックな存在になるということですかね。
岩切:少なくとも現状はそうです。
現場の性暴力被害と被害者を取り巻く問題
坂爪:続いて、風俗業界で深刻化している性暴力被害について話していきたいと思います。一般のデリヘル店で性暴力が起きた場合、お店はどういった対処をするのでしょうか。
大崎:十五年、二十年くらい前であれば、文字どおり制裁、リンチしていたところもあったようです。最近では、店舗やホームページに「本番行為をした場合は、五十万、百万円の罰金」と注意書きを掲げていますよね。少し高いと思われるかもしれませんが、弁護士の先生に伺うと、アフターピルや診察代、慰謝料などを含めると、五十万円というのは決して法外な金額ではないんですね。
現場の具体的な対応としては、実害を受けた女性と加害者であるお客様の両方から事実確認をします。そして、場合によって加害者に誓約書を書かせ、示談で済ませるか、あるいは被害届を出して加害者を警察に突き出します。私の知る店舗では、大体そういうやり方ですね。
リスク対策としては、加害者の電話番号をしっかり控えておくことです。電話番号ひとつで個人情報が何でもわかる時代なので。
坂爪:被害届を出すことで生じる女性側へのデメリットや、出さないケースを法的な観点からご説明いただけますか。
浦崎:女性は被害を受けて届出をするのであって、それによってデメリットがあってはいけないと法律家として思います。
『風テラス』の活動の中では、性暴力被害の相談はまだありません。ただ、女性から過去の話として出てくることはあります。詳しく聞くと、被害届を出したくても出せない、あるいは出そうとしても警察から適当にあしらわれ、受理してくれないということがあるんですね。また、女性自身が捜査に協力しない、被害届を出さないというのもよく聞きます。その原因は、女性が最も恐れる身バレです。
あるいは、お店が協力してくれないケースですね。これは、お店側が警察に出向いても、かえってお店自体が本番行為をさせたんだろうと疑われてしまうかもしれないからです。
ただ、物理的な安全性ということだけを見れば、デリヘルのように女性が男性の待つ密室に行くスタイルのままでいいのかという疑問はあります。それに、女性はあくまで自営業者で、何が起きても自己責任とされる仕組みもよろしくないと考えます。
「適正風俗」のために業界内ですべきこと、法律のあるべき姿
坂爪:最後に、風俗と法律の未来について議論をしたいと思います。「風俗はけしからん、いかがわしい」という道徳論的な話ではなく、今後は現場で働いている人の安心と安全、権利を守るという方向に切り替えていく必要があると考えます。そのために法律のあるべき姿とはどういうものでしょうか。
大崎:法律による縛りよりも、我々業界側のキャストさんや経営者、あるいはユーザーなどの自助努力が重要だと考えます。
例えば、2015年に同じ風営法の中にあるダンスクラブの法改正がありました。これは、業界15万人の署名と業界の権威者30人、政治家から弁護士、著名なミュージシャンらが社会に働きかけて、ようやくフロアの広さや明るさを改正できたんですね。しかし、その法改正をざっくり解釈すると、照明を明るくすれば、朝まで営業していいよっていう程度なんです。
それを性風俗業界に置き換えて、同じような賛同を期待するのは難しいですし、デリヘルの許可制とか、性風俗業界に関する法の整備がなされるというのは現実的ではありません。だから、私は業界内の努力でしか変えられないと思っていて、『ECS(風俗等健全化育成機構)』を立ち上げ、業界内部に働きかける活動をしています。
岩切:道徳は究極的に個人の好み、価値観だろうと思います。他方で、法はすべての人に強制し、強制される力をもっています。法を通して道徳をどこまで強制していいのかというのは、古典的な論点であります。
今の法制度の基本的な発想が、「何となく性道徳的な方向」になっており、性サービスに対する感情的な見方が、法的にも、法律の中にも、法体系の中にも反映しています。ですから、まず「その何となくを止めましょう」と言いたいです。
そもそも法律が何のためにあって、また、性風俗に関する法がそもそも何のためにあるのかを根本的に見つめ直して、その目的のために必要な限りで規制をすべきだと思います。
また、風俗の現場で働いて実際に生活をしているわけです。その人たちの権利があるはずですから、それを法的に承認していこうという方向性が考えられます。
浦崎:世の中には、対価をもらって性的なサービスすることを好ましく思わない人がいて、これはなくせないでしょう。しかし、そうした好き嫌いで行政や法律のルールにしていいのか、「何となく、よろしくないのはダメ」とされて、中途半端でフワッとしているところに問題があるように思います。
ダメな理由をもう少し詰めて法律にし、好き嫌いに関係なく「誰が見てもダメ」というところをきちんとルール化する。それ以外のところは立場をきちんとする。行政の権限や警察の感覚などではなくて、きちんとルールで認めることで、風俗の現場の人たちが我々専門家ともつながりやすくする。ダメなものの枠をもっとしっかりした法律で作って、中身にあたる部分は法律で縛るよりも、業界全体でガイドラインのようなものを作っていくというのが、ひとつの理想だと思います。
まとめ
さまざまな要因から風俗がなくならない現状で、性道徳の観点から「いかがわしい風俗の仕事は止めよう」という考えは、問題を直視することにならず、解決の糸口を見つけるのは難しいでしょう。そこで、本議論では、今風俗で働いている人の問題点として安心と安全をどう確保すべきかを論点としています。前編では、風俗に関する現行法は、性道徳的な方向になっており、それによって風俗で働く人たちの立場を弱くしているという問題指摘がありました。
続く後編をまとめると、今後の法のあるべき姿は、道徳的な観点からではなく、風俗で働く人の権利を認め、守ろうということ。一方で、法が問題のすべてを解決するのではなく、業界内からの自助努力やガイドラインを必要だということ。こうした方向性が見出されるのは、当事者だけに偏らず、幅広く支援者や専門家からの意見に耳を傾ける『セックスワーク・サミット』だからと言えるでしょう。
さて、本議論のテーマ「適正風俗」のきっかけとなった「適正AV」という言葉は、当事者が声を上げるだけでなく、有識者を取り込み、さらには政治家まで巻き込んで社会問題化したことで生まれました。そして、今、AV業界内で適正化に向けた新たな動きが起きています。風俗業界も同様に、皆が知る問題として広く認識され、風俗で働く人たちの安心と安全につながることを期待します。
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岩切大地さん
立正大学法学部教授。1979年生まれ。宮崎県、福岡県出身。慶應義塾大学大学院前期博士課程修了、同後期博士課程単位取得退学(修士)。東北文化学園大学非常勤講師、東洋英和女学院大学非常勤講師等を経て、2009年立正大学法学部講師、2012年より現職。主な研究テーマは、憲法・イギリス憲法比較研究。『性風俗と法秩序』共著者。
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大崎柳也さん
風俗プレナーチーフコンサルタント、一般社団法人風俗等健全化育成機構の代表理事。キャバクラを始め、デリバリーヘルス、SMクラブなど風俗営業店の起業支援から年商五十億円のグループに至るまで、五十店舗以上の運営に携わっている。業界で培ってきた専門の弁護士や税理士、広告代理店、警視庁OBなどの人脈ネットワークを駆使して、風俗業界の刷新と健全化を目指し、活動している。
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浦崎寛泰さん
弁護士、社会福祉士。『PandA法律事務所』代表。『風テラス』メンバー。1981年生まれ。長崎県で離島弁護士として3年間、法律相談を担当し、その後、千葉で刑事裁判、特に裁判員裁判を数多く担当。現在はこれらのご経験を活かし、司法と福祉が連携する「司法ソーシャルワーク」の実践を通じて、刑事事件から一般民事事件まで幅広く取り組んでいる。
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