コロナ禍。僕は何を思い、なぜ早く動けたのか~遂に東京上陸!『アインズグループ』北村一樹 再び #1

2021年11月05日

by松坂 治良松坂 治良編集者・ライター

――約3年ぶりとなった北村一樹代表(41)へのインタビュー。あらためて紹介する必要はないだろう。“かわいい”と“キレイ”に妥協しないブランド展開で業界を席巻。アインズグループを“関西の雄”にまで成長させた人物だ。

最近の動向はと言えば、“コロナ禍”からいち早く立ち直っただけではなく、その年のうちに売上対前年比120%増を例年通り達成。しかも今年2021年11月には、旗艦店『ブレンダ』を擁して、東京進出も果した。“驚くばかり”とは、まさにこのことだろう。

「どうしてあんなことができるんだ?」

以前インタビューを担当した新海から、率直な疑問をぶつけられたのが先月のこと。

「そんなの僕だってわかるわけがない。ボス、聞いてきてくださいよ」

こういう時、新海編集長の動きは早い。頷くとすぐにアポを取り、大阪に飛んでくれた。

僕は“Win-Win”が大好き。みんなのハッピーが嬉しい

まあ新海さん、お久しぶりですね。以前取材を受けたのが2018年の暮れだから、もう3年近くなりますか。こうしてまたお会いできると、緊急事態宣言は明けたんだなって、あらためて実感できますね(笑)。今回大阪は感染者も多かったですから、経営者として心配がなかったと言ったら、ウソになります。

おかげさまで僕の昔の記事は……ねえ、執筆の松坂さんから伺いしましたけど、媒体設立以来のPV数だったとか? 実際「北村さんの記事を見ました」と言って面接に来る求職者の方も大勢いたんですよ。その後『VOICE』で各地のスタッフにもインタビューしていただいて、嬉しい限りです。

記事は読みますよ。僕の知らない本音なんかも聞けて(笑)、おもしろいです。

もちろんウチだけじゃなくて、『FENIX JOB』さんのお仕事自体もよく拝見していました。いや、お世辞じゃない(笑)。ほんとです。

『転職フェア』とかやられていたじゃないですか。「この業界でねえ、よくチャレンジしたな」と感服したのを覚えています。「関西でもできないかな?」とかね。そりゃこの分野はアインズは強いですよ。お祭り騒ぎはお手のもの。何せ代表が僕ですからね(笑)。

冗談はさておき、僕のインタビューが御社の媒体の呼び水になって、人が来る。逆に注目の媒体に僕の話が載っているのを見て、特に関心がなかった層にも我々の仕事が知られる。こうした相乗効果は、すごく良いなと思います。

僕“Win-Win”て大好きなんですよ。みんながハッピーな方が、楽しいですもん。

中国行きを断念。早くから“当事者意識”を持てた理由

で、今日は何を話せば? そうか。コロナね。いやウチだってキツかったですよ(笑)。キツくない方いなかったでしょう。

2019年の12月に、中国の武漢でウイルス被害が報告されて……。僕は実はわりと早くから、“嫌な予感”みたいなものは感じていたんです。いや、ニュースに注目していたとかじゃない。単純に年が明けた2月、中国に行くはずだったんですよ。旅行と見分を兼ねて。

当然予定はキャンセルです。まあテレビはダイヤモンドプリンセス号のニュースで連日持ち切りでしたし、「そうだろうな」と納得もしましたよね。そして人間て不思議なもので、身近に実害があると、急に現実のこととして事象を眺めるようになるんです。

「このウイルスが日本にも入ってきたら?」
「これが大阪の出来事だったら?」
「風俗店の扱いはどうなる?」

あの後よく「アインズの動きは早かった」なんてお褒めの言葉も頂きましたけど、僕からしたらたまたまですよね。ただこのキャンセルがあったことで、常に“当事者意識”を持ってテレビやネットを見られたのは、確かに事実です。「いざとなったら?」が、いつも頭にあるような状態でした。

1人ならゼロからやれる。でも“今食わせる”責任がある

2020年の4月7日。いよいよ緊急事態宣言が出るとなった時、僕はとにかくまず、現場の声を大切にしようと思いました。

何て言えば良いかな、僕には「世の中がどうなろうと結局なんとかなる」という思いはあるんです。全部パーになったところで、ゼロからまたお店を立ち上げる自信がある。裸一貫で、6畳のアパートから始めたんですから。

ただスタッフはそうは行かないでしょう。新人だっています。そして何より女の子ですよね。

「昔と違って風俗はお金に困った子ばかりが働いているわけじゃない」。したり顔でそう語る方もいらっしゃいますけど、各々に稼がなきゃいけない理由はあるんだし、当然ですけど、誰にも生活があります。

これはどこの経営者も同じでしょうが、要は食わしていく責任が僕にはあるということです。安易に「他に合わせてウチも休業しちゃおう」というわけにはいかない。だからいつもより更に現場に足を運んで、本当に1人ひとりの話を聞きました。

……ところが僕、ここで困ってしまって(笑)。

平時は合議制で良い。だがピンチには、リーダーシップ

意見がキレイに3つに割れちゃったんですよ。

自分だってコロナはコワい。出勤したくない。
生活が懸かっている。休まれたら困る。
どうすれば良いのか……正直わからない。

参ったなと(笑)。以前のインタビューでも触れたと思うんですが、ここ数年のアインズは、会議でものごとを決めていく体制に切り替えていました。“もうここは個人商店じゃない。企業なんだから”と。なので僕は今回も、過半数の意見を大切にする心づもりでいたんです。

だけど3つではね。ワンマンと言われようが(笑)、僕が決断するしかないんだなと。

逆に言うと、平時では合議制で良くても、ピンチでは誰かがリーダーシップを発揮しなければいけないということなんでしょう。みんな不安な顔していましたしね。だから、「わかった。ここはオレに一任してくれ」と。

結果店は開け続けました。僕はそれがベストだと判断したんです。

「コロナは2年収束しない」。楽観論を排したからこそ

と言うのも、僕はこう見えて(笑)、ものごとを悪い方に考えるタチなんですよ。最悪の事態を想定して、そこへの対処を考えるんです。そうすればすべての対処になるという構えをする。

特にコロナについては、当時何もわからない状況でした。「2年は収束しない」としておいた方が、良いと考えたんです。

悩みに悩んで最終的に決めたのは……いつだったかな? ふっと外の風に当たりたいと思ってデスクを立ちがった時に、待機室の方から女の子の声が聞こえて来たんです。

「何して食べていこう? どこも閉まってるやろし」

僕はだまーってオフィスを出てね。1人で夜空を見上げて、「そうか」と。単純に仕事がないのは不安だろうし、中には余裕のない子だっているでしょう。「じゃあ閉まっている間は他のバイトでもするか?」と言ったって、キャバクラも飲み屋さんも休業中ですからね。行き場がないかもしれない。

それにここが重要なんですが、僕らが休んだとして、“あの時点で”、行政がこの業界で働く人々にどういった形で手を差し伸べてくれるのかは、全く不透明でした。むしろSNS上には、僕らをこそ叩く声さえあったんです。

お上に頼るより、さっきも言ったように最悪の事態を念頭に、“自分達で何とかする”という意識を持つ方がベターだと感じました。「よし。決めた!」。オフィスに戻ってね、僕はまず一番に、その子に言ったんです。

「大丈夫や」
「え?……あ、社長」
「店は開ける。ずっと開ける」
「ホンマなん?」
「たった1人でも出たいと言う子がいる限り、店は開ける」

2020年4月7日~5月21日。緊急事態宣言の最中、アインズグループ各店は、営業し続けました。女の子は完全自由出勤。門はどの子にも開けておくから、出たい子は来れば良い。僕らが全力でサポートするからと。

“ただの良い話”は、いらない。経営者は結果が全て

とは言え、ここまでは“ただの良い話”です(笑)。それだけのことだと僕は思っています。だってそうでしょう? 僕の決断が間違っていたら、今ここでインタビューなんか受けていられないかもしれない。いや、お店だってなかったかもしれません。

実際給与の遅配や未払いがあったり、休業中にそのままお店がなくなってしまったり、意見の相違でグループが空中分解したりね。あの時期そういうお話を、こちらでもよく耳にしました。胸が痛みましたよね。決して他人事じゃない。

何だかんだ言ったってビジネスですから。キレイゴトじゃなく結果が全てなんです。そしてビジネスの結果とは利益を出せるか出せないか。僕の真の仕事は決断ではなく、決断によって売上を伸ばし、みんなをハッピーにすることのはずでしょう。

「さて動くぞ。何から始めよう?」

そう思った時、僕が立ったのはやはりまず現場でした。とにかくみんなを盛り上げないと、鼓舞しないとというつもりでしたね。

――「結果が全て」
この言葉だけで、“店を開け続ける”という決断が、いかに重かったのかがうかがえる。次回の舞台は、その緊急事態宣言下の“現場”。北村代表とアインズの奮闘を見ていこう。

(インタビュー:新海亨)

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“動く経営者”の本領。緊急事態宣言下の奮闘劇~遂に東京上陸!『アインズグループ』北村一樹 再び #2

北村 一樹(きたむら かずき)

大阪府堺市出身。風俗業界歴は15年を数える。18歳で水商売の世界に飛び込み、20歳で早くも店長に。2006年に風俗業界に身を転じると、代表として『ブレンダ』を中心に高級店を次々と成功させ、アインズを関西で押しも押されぬ大グループに成長させる。含蓄あるツイートにはファンが多く、フォロワー数は1万9千人を超える。趣味はピアノで、目覚めには必ず鍵盤に向かう。

執筆者プロフィール

松坂 治良

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小さな出版社などを経て、”誠実に求人広告をつくろう“という姿勢に惹かれ、現職に就く。数年来クラシック音楽と仏教に傾倒中で、最近打たれた言葉は「芸者商売 仏の位 花と線香で 日をおくる(猷禅玄達)」。……向き合った相手の“人となり”や思いを、きちんと言葉にしたいと願う、今日このごろです。

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