“動く経営者”の本領。緊急事態宣言下の奮闘劇~遂に東京上陸!『アインズグループ』北村一樹 再び #2

2021年11月12日

by松坂 治良松坂 治良編集者・ライター

――「とにかくみんなを盛り上げないと」。1回目の緊急事態宣言に入る4月7日。アインズグループを率いる北村代表(41)は、そんな気持ちだったという。

そしてその思いは現場へと足を向かわせ、結果的にこの時期、各店は“業務の見直し”を行うことになる。更に「元気いっぱいで行ってくれ」という女の子への言葉が、代表にとってもアインズにとっても、想定外の展開を招くことに……。

サイトアクセスに変動なし=アインズへの関心は不動

1回目の緊急事態宣言の時、他社さんは3割ぐらいが店を閉じていましたかね。前回お話したように、そんな中で僕らは開けていた。女の子は7割ぐらいが出勤していたのかな?

そう……意外に多かったんですよ。「開けて」「閉めて」「わからない」の3つの意見に分かれていたから、もっと少ないかと思っていたんですけど、結局「本当は出たかった」という子も多かったのかもしれません。

後は僕らが電話口で検温や感染症対策の徹底を呼びかけているのを見て、安心したのかもしれないですよね。この時期は例外的に、自宅待機もあり、ドライバーがオフィスに戻らないのもありとしました。

結果的に何とか彼女達の収入は確保できたので、良かったかなと思います。声を掛けてみると、「家でじっとしているより」という子も多かったようです。確かに一時客足は鈍ったんですが、そこも僕は「前向きに捉えよう」と伝えるようにしていました。

例えばこれはブレンダを統括する上原ともよく話したんですが、せっかく時間ができたんだから、Twitterや写メ日記なんかの集客ツールを振り返ったり、それこそいつもより書くことや撮影を丁寧にしてみようよと。

と言うのも、各営業媒体やオフィシャルサイトへのアクセスは全く減っていなかったので、お客様がウチの女の子に関心があるのは、わかっていたんです。現状のCMにもなっていたし、「いつかコロナが落ち着いたら」と思うお客様へのメッセージとして、充分に機能していたんですね。

あの状況です。“何が正解か”というのは、僕達にもわかりませんでした。ただ“止まっていない”という姿勢ですよね。ここが内に向けては女の子達の安心に繋がったし、外に向けては、お客様への“アインズは今日も動いている”というアピールになっていたんだと思います。

集客に必要なのは、シンプルに2つ。わかっているか

そして僕自身にとってとても良かったのは、女の子達を見ていて「ああ。意外とわかっていないんだな」というのと、「それじゃ苦しいよ」というのを、方々で感じられたことですね。

ウチの子達はね、本当に一生懸命だと思いますよ。そりゃもちろん僕らが言うからというのもありますけど(笑)、それだけじゃありません。“最高のキレイ・かわいいを届ける”のコンセプトに共感し、プロ意識が高いからですよ。だからみんなとことんやる。

ただ眺めていると、

写メ日記を上げて、Twitterを更新し、少し鳴らなければパネルを撮影しなおし、“太客見込み”のお客様にLINEを送り、くるくる化粧を変え……。「おいおいおい」と。たまりかねて僕、ある子に言ったんです。

「倒れてまうぞ」
「え?」
「効率が悪い!」
「ヒドい。社長、私結果出してるやん」

それはわかるんです。確かにこの子は結果を出していた。でも無目的に闇雲に走っているように見えました。

「あのね。今自分がやっていることの“目的”って何だかわかってる?」
「集客やん」
「そう。集客。集客のためには何が必要?」
「だから写メ日記やってるやん」

いや、そうだけど、そういうことを僕は言っているんじゃない(笑)。女の子が集客のためにすべきことって、2つだけなんですよ。

① 知ってもらうこと
② また来てもらうこと

本当にもうシンプルに“これだけ”で良い。要は全部しゃかりきにやるのでは、ムダが多すぎるんです。下手したら潰れます。

戦略、接客+臨機応変。24時間は限られている

例えば①。“知ってもらいたい”となったら、“自分をどう知ってもらいたいか”で戦略を立てる。知的が向いているのか、人懐っこさが良いのか、キレイ系かかわいい系か、大人っぽいのか清楚で推すのか。

そこに沿って写メ日記でもTwitterでもインスタグラムでもやれば良い。もちろん“自分らしさ=自分の動きやすさ”も考えた上でですよ。

もう街でおもしろそうなもの見つけたらすぐ写真を撮ってTwitterに上げて、なんてね(笑)。脅迫されているみたいにそんなことしなくて良いんです。言い方はあれですけど、承認欲求に偏るのも良くない。ゴールを見失うし、疲れます。

②。“また来てもらう”の一番は、何を置いても接客に尽きます。

ドアが開いたら丁寧にお辞儀するのかいきなり抱きつくのか、手を取ってお話を聞くのか相手の膝の上に座っちゃうのか。それは個性で良いけれど、“おもてなし”を大事にする。“最高のキレイ・かわいい”は、容姿だけではない。ここがアインズのアインズたる所以ですからね。

また臨機応変も大切です。まず①の認知ができたならね、とりあえず②のリピーター獲得に集中するでも良いんですよ。休んでしまったり、少しゆったり仕事をしたって構わない。逆に「よし固定客が今これだけになった!」となったら、そこは一旦置いて①に戻っても良い。24時間は限られているんですから。

そりゃね、僕が15年前に『ブレンダ』を立ち上げた時には不眠不休でやりましたけど(笑)、もうグループにはノウハウもちゃんとあるんだから、そこまでやらなくて良いんです。

プロデュースは適切か。“自己満足”で仕事をしない

最もわかりやすい例は、手前味噌で恐縮ですけど、僕のTwitterです。お気づきですよね? 僕あれBotも使っているんですよ。

①の知ってもらうという意味で、自分の仕事や経営、業界や人生についての思いを、登録しておいて自動で定期的に発信している。まあ『すべらない話』みたいなもんです(笑)。初めての方には、あれでアインズに興味を持ってもらえれば良い。

でも僕をフォローしてくれた方々は、いつもBotの呟きじゃ飽きちゃうでしょう。なので②ですよね。また来ていただくために、合間にときどき僕の近況や生の気持ちを混ぜるわけです。

僕だって暇じゃない(笑)。そうそうツイートに関わってられないですからね。せっかくBotという便利なツールがあるんだから、戦略的に使わないと。

「そんなん急に言われてもわからんわ」
「だからオレらがおるんやん」
「あ、そっか」

女の子との会話の中でね、「そうかあ」と反省するところもありました。スタッフが手を抜いていたってことはないですよ。むしろ彼らだって一生懸命だったと思う。おかげでこんなに大きなグループになれたんだから。

しかし女の子と同じように「これは今何のためにやっているのか?」という部分が抜け落ちちゃって、一緒になってただ闇雲に働いていたところもあったんじゃないかなと。業務には選択と集中が必要。その意味で言えば、適切なプロデュースになっていなかったのかもしれませんよね。マンネリもあったのかもしれないし……。

だからスタッフとも女の子とも、あの時期よく話し合いました。「意味を考えような」「自己満足で仕事をするんじゃないぞ」って、よく言ったものです。振り返れば僕にとってもアインズにとっても、すごく貴重な時間を頂けた気がします。

「最近顔色ええやん」
「……余裕ができて、よく眠れているから」
「寝るのも仕事やぞ」
「うん。社長ありがとう」

嬉しかったですねえ。女の子に感謝されるって、僕にとっては今でも一番のご褒美です。

「さっき利用した者やけど」。お客様からの意外な言葉

お客様に対してはね、この時期女の子に「いつもより更に明るく接してみてくれ。元気いっぱいで行ってくれ」とお願いしました。何で? いやー、だって街に人は歩いていないし、暗いニュースばかりだし、お客様も下手したらウチだけが唯一の楽しみ、息抜きかもしれないじゃないですか。

それに緊急事態宣言で閉じているお店もあるのに来てくれている。「コワさゼロか?」と言ったら、そんなはずはないですよね。多少不安はあったでしょう。なのでできる限り心を尽くして「盛り上げ、盛り上げ」と。

そしたらね、もう本当にたまたまですよ。スタッフが全員出払ってしまって、オフィスに僕1人。電話を取ったら「さっき利用した者なんやけど……」と。

こういう時業界の方ならわかるでしょう。もう“心臓ドキーッ”ですよね(笑)。「誰か何かやらかしたかな?」と思うものです。ところが違って。

「頑張るなあ。あんたんとこの子は」
「頑張る?」
「何か一生懸命やったで。ちょっとのことでも笑ってくれてん。あんなキレイな子が精いっぱいちやほやしてくれると、なんや王様みたいな気持ちになるな(笑)」

もう僕「ありがとうございます!」って、叫んだんじゃないですかね(笑)。電話を切ってからも体が熱くて、たった1人のデスクで、ジーンて全身が痺れるような感覚がありました。

お客様がハッピーになってくれたのも嬉しいし、僕の気持ちを汲んでくれた女の子も嬉しいし……何て言うんだろう? 『ブレンダ』をつくった頃の感覚に似ています。もう全部に感謝という思いでした。原点に帰れたのかもしれませんね。

「いっちょやったるか」。一大イベントを決意

気がつくと、女の子が1人帰ってきてね。

「ただいま戻りました。疲れたあ」
「こら。疲れた禁止や」
「あ、そっか。ごめんなさい」
「(笑)。ウソや。たまには疲れたぐらい出るわ。頑張ったな。ありがとう」
「ホンマやで。ホンマに今日は頑張ったで(笑)」
「わかってるよ。ホンマにありがとう。ありがとうございます」

実はこの子は、電話で褒められた子とは違うんです。でもね、僕はまずこの子に感謝を伝えた。なぜってこの子だって必ず頑張っているのを、僕は知っていたからですよ。

たった1本の電話ですけど、ウチの子みんなへの言葉だと僕は受け取りました。実際その通りだと僕は信じているし、これはわかる方にはわかっていただけると思うんですが、この信頼関係があるからこそ、ウチの女の子は頑張ってくれるという気がするんです。

で、これはナニワの商人としての性分でしょうかね?(笑) 僕はどうしても何かをやりたくなった。こんな風にアインズを愛してくださるお客様に、何か還元したくなったんです。

「いっちょやったるか」

1回目の緊急事態宣言が明けた2020年5月22日の金曜日。アインズグループは、総出である一大イベントを決行したんです。

――緊急事態宣言下、アインズグループは図らずも業務の見直しを実行し、更に現場で指揮を執る代表のもと、一致結束して“おもてなし”に努めた。振り返ればその後大回復と再成長に転ずる“布石”が、この短期間にしっかりと打たれていることに気づくだろう。

そして次回、最終回で描かれるビッグイベントこそ、その布石が“花”として結実する瞬間なのだ。だがこの2020年5月の当日、北村代表自身でさえ、そのことに気づいていない……。

(インタビュー:新海亨)

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北村 一樹(きたむら かずき)

大阪府堺市出身。風俗業界歴は15年を数える。18歳で水商売の世界に飛び込み、20歳で早くも店長に。2006年に風俗業界に身を転じると、代表として『ブレンダ』を中心に高級店を次々と成功させ、アインズを関西で押しも押されぬ大グループに成長させる。含蓄あるツイートにはファンが多く、フォロワー数は1万9千人を超える。趣味はピアノで、目覚めには必ず鍵盤に向かう。

執筆者プロフィール

松坂 治良

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小さな出版社などを経て、”誠実に求人広告をつくろう“という姿勢に惹かれ、現職に就く。数年来クラシック音楽と仏教に傾倒中で、最近打たれた言葉は「芸者商売 仏の位 花と線香で 日をおくる(猷禅玄達)」。……向き合った相手の“人となり”や思いを、きちんと言葉にしたいと願う、今日このごろです。

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