北村一樹、試される。『アインズグループ』東京での戦い #1

2022年08月26日

by松坂 治良松坂 治良編集者・ライター

――コロナ禍を受けて、弊社は実は数年前から完全テレワーク。編集長の新海とライターの僕、松坂が会うことはめっきり少なくなった。

そんな中、新海が大阪に出張に行くというので、久しぶりに顔合わせ。ふとしたことから話題は“関西の雄”、Fenixzineでは今や読者にお馴染みの アインズグループに向いた。

「北村代表どうしてるかな。東京はうまくいってるんだろうか」
「渋谷の ブレンダ? 調子いいんじゃないですかね。Twitterを覗いても、キャストさん達みんな元気いっぱいですよ」
「そっか」
「……気になるなら大阪オフィスに伺ってみたら?」

昨年お目にかかったばかりだし、と新海は気が乗らない。ムリもない。北村代表は見るからにいつも忙しい。なので“ご挨拶だけ”という形で訪問することになったのだが……

年内には新宿にも新店。ただ、当初は結果が伴わず……

こんにちは。どうしたんですか今日は。代理店さん経由で、大阪にいらっしゃるとは耳にしていましたが。

いつも申し訳ないですね。たまにはこちらからご挨拶に伺わなきゃいけないのに。

前回お会いしたのが、昨年の10月でしたっけ。まだそれほど日も経っていないし、提供できる話題があるかどうか……。東京の状況? なんだ(笑)、ぶっちゃけそれが知りたくていらしたんでしょう? 新海さんも人が悪いな。

まあでもちょうど良かったのかな。記事になるかどうかはさておき、これが半年前だったら僕は「今日はお帰りください」と答えていたかもしれません。

長年関西を根城にしていた我々が遂に渋谷にお店を出して。これまでと変わらずに「やっていることは間違っていない」という自信はあったんですが、結果が伴っていなかったんですね。やっとこの3か月ですよ。おかげさまで東京も軌道に乗ったのは。

余勢を駆って、年内には新宿に『ブレンダ』の新店を出す予定です。その次は六本木。個人的には都内で一番好きなのは秋葉原なんですけどね(笑)。女の子の表情がみんな明るくて、歩いているだけでも楽しい。ここはでも出店するとしたら、いつか新ブランドでかな。

キャスト応募毎月60人。しかし、スタッフの実力が

幸いキャスト応募の女の子は多かったんですよ。東京にお店を出すと決めた当初から毎月60人は来てくれて、しかもレベルが高い。

半分の約30人を「今回は申し訳ありません」とお断りしていたんですが、毎回悩むほどでした。在籍数を心配して大阪から応援の女の子を呼ぶのも、結果的には最初の1か月だけで済んで。

ここはやはり、これまで培った『ブレンダ』のブランド力が少なからず良く作用したんでしょう。何より広告費だってめっちゃ掛けましたしね(笑)。

ただ在籍数に対して、スタッフの実力が追い付かなかった。ここが初め、なかなか満足の行く成果を出せなかった要因だと思います。

東京の新人スタッフは今、ちょうど10人かな? 振り返れば無理もないんですよ。新店をオープンしたら想定外な数の女の子がどっと入店してきて、その全てにお客様を付けてあげなきゃいけないんだから。

余裕を持てなかったんでしょう。アドバイスすべき僕にしても東京支社長の上原にしても、ずっと1つの店舗に張り付いているわけにもいきませんしね。店長の国本が奮闘してくれてはいたんですが……。

みんな一生懸命。お店も回っている。それでも“ダメ”

具体的にスタッフのどこを見て不足を感じたかというのは、ズバリ電話です。ときどき向こうのオフィスに顔を出して、後ろからオペレーションを見ている内に「これはまずいぞ」と。危機感を抱いて、久しぶりにマニュアルを書き直したりしました。

関西の場合には、この作業はいらないわけですよ。マニュアルはグループの誕生からノウハウを積み重ねる過程でつくっていったものだし、僕⇒僕の下⇒さらに下という形で、以心伝心で伝わるものもあるし。

でも新しい土地の渋谷では、そうはいきません。スタッフも現地採用でしたしね。

また難しいのは、みんな一生懸命やっていたんですね。お問い合わせの電話に必死に対応している。「ここが悪い」って叱らなきゃいけない何かがあるわけでもないんです。取りあえず回っているし……。

特に10人の新人のうち、半分が業界経験者でした。今までのお店のやり方で充分に頑張っているつもりでいたはずで、ある意味でそれは間違いとも言い切れない。たぶん彼らはこんな風に考えていたはずなんです。

「やー忙しい。何とかこの鳴り続ける電話さばかなくちゃ」
「とにかくいる子に万遍にお客様付けよう」
「キレイな子? OK。ウチの子みんなキレイだからな。助かる」

だけど僕は、その様子を見て思うわけです。

「これじゃダメだ。マニュアル改定だけじゃ、とても追いつかない」

無数にある高級店。“こなす”ではいつか成長は止まる

なぜダメかというのは、これでは“目の前の業務をこなしているだけ”なんですよ。機械的にいる女の子を付けるだけなら、“パネル写真を見てお客様がなんとなく選ぶ”という、デリヘル誕生以前のギャンブルみたいな方法と、何も変わりません。

恐らく業界経験者のスタッフはそれでずっとやってきたんでしょう。いたお店の売上も悪くはなかったのかもしれない。だけどそれでは“そこそこの人気”という以上には行かないんですね。

せいぜい1年は新店の珍しさが生きるでしょうけど、やがては飽きられて終わります。今や高級店なんて、星の数ほどあるんだから。

つまりこのままではリピーターが付かない。差別化が図れず、どこかで集客の頭打ちが来ます。“じゃあどうすれば良いのか”というのは、実は以前お話しているんです。新海さん覚えていらっしゃるかな。

そうして丁寧に丁寧に接客している内にね、自分の顧客が、北村一樹の顧客がどんどん付くようになったんです。

電話もね、「北村君おる?」とか、「ええ子入ったら言ってや」とかね。口コミの力も本当に大きかった。「良い店知ったわ」ということでご紹介いただいたり、出張中の方からもよく電話をいただきました。

「あ、連れから聞いたんですが、北村君います?」
「はい! ありがとうございます! 北村は自分です」
「〇〇から聞いて……」
「そうでしたか! ありがとうございます。〇〇様にはいつもお世話になって」

僕は何も特別なことなんてしていません。最高の女の子が最高の仕事をしてくれているブレンダ。だから僕もそれに思いっきり応えて、最高の接客をしただけです。“風俗はそこまでしなくていい”という普通を、僕らは壊していたんだと思います。

「ここへ、何のために。発展の礎となった、女の子の意識改革」
~アインズグループ代表 北村一樹の冒険#2(2019年1月)

要は電話とは言え接客しなきゃいけない……いや、いけないというのはちょっと違うか。電話接客した方が、リピートが付きやすくお店の成長が早い。評判になって売上が伸びて、みんな稼げて結果万々歳ということです(笑)。

電話対応✕、電話接客〇。……どうやって教える?

渋谷のみんながやっているのは、接客じゃなくて“電話対応”でしかない。僕にはそう見えました。

そして正直に言うとね、「あ。ここから教えなきゃいけないのか」と思いました(笑)。だってさっきのエピソードは、第1号の『ブレンダ』ができた時。僕が26、7歳の頃の話ですからね。僕は今年42歳ですよ。

でもまあそんな簡単に行ったらおもしろくないとも言えます。“阿吽の呼吸”で伝わる関西じゃなく、ここは関東。知らない土地でアインズグループのやり方をわかってもらってこそ、これまでの僕らの正しさが証明できるはずですよね。

ある意味で僕は試されているんだと感じました。どうやってスタッフに接客を教えるのか。なにわの商人の腕の見せどころです(笑)。

――“ご挨拶”のはずが、取材の流れ??? でも恐らくきっと、これが北村一樹という経営者の“人を巻き込む力”。次回、東京のスタッフに“電話接客”を伝える様子もまさに……。

(インタビュー:新海亨)

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北村 一樹(きたむら かずき)

大阪府堺市出身。風俗業界歴は16年を数える。18歳で水商売の世界に飛び込み、20歳で早くも店長に。2006年に風俗業界に身を転じると、代表として『ブレンダ』を中心に高級店を次々と成功させ、アインズを関西で押しも押されぬ大グループに成長させる。含蓄あるツイートにはファンが多く、フォロワー数は2万人を超える。趣味はピアノで、目覚めには必ず鍵盤に向かう。

執筆者プロフィール

松坂 治良

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小さな出版社などを経て、”誠実に求人広告をつくろう“という姿勢に惹かれ、現職に就く。数年来クラシック音楽と仏教に傾倒中で、最近打たれた言葉は「芸者商売 仏の位 花と線香で 日をおくる(猷禅玄達)」。……向き合った相手の“人となり”や思いを、きちんと言葉にしたいと願う、今日このごろです。

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