セックスワーク・サミット2017冬行って見た!『みんなでつくる「適正風俗」:第1回・法律編』前編

2018年01月12日

by赤坂 五郎赤坂 五郎編集者
セックスワーク・サミット2017冬行って見た!『みんなでつくる「適正風俗」:第1回・法律編』前編

2017年12月3日、性風俗産業の進むべき方向性を議論する『セックスワーク・サミット2017冬』が開催されました。本稿では、主催者である坂爪氏と3人のパネリスト、岩切氏、大崎氏、浦崎氏を迎え、「適正風俗」をテーマに議論された様子を前編、後編に分けてお届けします。

坂爪氏が、「適正風俗」というテーマを挙げたきっかけは、2016年にAV出演強要が社会問題化して、「適正AV」という表現が生まれたことにあるそうです。「適正AV」とは、出演者と制作者とが互いに問題を生じないよう同意して作るAVのこと。

このイベントでは、道徳論ではなく、現場で働いてる方の安心と安全を守っていくにはどうしたらいいのかという観点から議論がなされました。

セックスワークサミット

セックスワークサミット

これからの性風俗産業の進むべき方向性を議論するべく、2012年より全国で開催。毎回多彩なゲストと共に、セックスワークに関する熱い議論が繰り広げられている。主宰は、一般社団法人ホワイトハンズ(代表:坂爪真吾)
紹介ページ:セックスワークサミット:公式サイト

風俗で働いている方のつながりづらさを是正する法的手段とは

風俗で働いている方のつながりづらさを是正する法的手段とは

坂爪:浦崎さんとは、風俗店の待機部屋に訪問して、生活や法律の相談を行う『風テラス』という活動を一緒にさせていただいています。そうした活動で感じる風俗業界の問題点をお伺いしたいのですが。

浦崎:主な相談事は、「生活費が足りない」「朝起きられない」「借金の問題」といったもので、一般の町の法律相談で出てくるような内容です。風俗店で働いているから、何か特別なトラブルに巻き込まれてるというわけではありません。

でも、彼女たちの話を聞くと、風俗の仕事のことを話しづらいとか、怒られるんじゃないかと思っているようなんです。実際に役所へ相談しに行って、思い切って風俗のことを話したら、「そんな仕事は辞めなさいと怒られた」という話もあります。

風俗の仕事をしていると、抱えている問題を誰かに相談しづらい、周囲とつながりづらいというのが背景にあります。それは、風俗で働いてる方のポジションが社会的にフワッとしていて、風俗で働いているとを打ち明けたときの不利益がよくわからない。そうしたことが、専門家である我々、弁護士に相談することをためらわせてるように感じます。

しかし、それでは専門性のある弁護士が育たないということになりますし、専門家の見つけづらさにつながります。このことは、風俗業界で働いてる方にとって決していいことではありません。

坂爪:風俗で働いている方の周囲への言いづらさ、つながりづらさを法的な視点から改善できないものでしょうか?

岩切:法律が原因で問題が生じるわけではないのでしょうが、いろんな要素のひとつとして法律があるなら、その法律を変えた方がいいと考えます。法律の中で特にベースとなるのが、『売春防止法』の3条だろうと思います。

売春防止法3条 何人も売春をし、またはそれの相手方となってはならない。

法的には「してはいけない」「違法」なのですが、違法だからといって、すべて犯罪になる、あるいは制裁が科されるわけではありません。

ここで大事なのは、「道徳的にけしからん」という趣旨ではなく、「人身売買や搾取の問題につながる売春はいけない」という考えを再確認することだと思います。そして、条文を改善するまででなくても、「これはやってはいけない」という訓示規程とし、「法的な規定ではない」という位置付けを解釈的にするのです。

このような手法を取ることで、「法的にはスティグマ(犯罪者としての刻印)にはならない」とすれば、社会的なスティグマを作る要因をなくすことができる。結果として、言いづらさ、つながりづらさを是正できるのではないかと思います。

健全営業している店舗ほど性病に悩まされるというジレンマ

坂爪:適正風俗であるために、店舗は健全営業である必要があるかと考えます。店舗が健全営業をする上で、不都合や問題が生じることはないのでしょうか?

健全営業している店舗ほど性病問題に直面するというジレンマ

大崎:まじめに申告して納税すれば、手元に残る利益が減って損かもしれませんが、これは一般企業も同じで、風俗業界に限った話ではありません。

しかし、最近、風俗業界が直面してる問題と言えば、性病ですね。これは、女性も店舗も死活問題であり、真っ当な経営をしているところほど大打撃を受けてます。業界健全化のために性病検査をする店舗が増えているのですが、一方で感染数は増加傾向で、仕事をすればするほど女性の感染リスクが高まります。

性病に感染してしまうのが悪いという話ではありません。しかし、お店側が一生懸命に対策を講じて女性に性病検査をさせているのに、感染がわかると互いの売上がマイナスになるのは、間違いなく不利益です。

坂爪:性病問題を解決し、健全営業をする店舗やそこで働く女性が損をしない仕組みをどのように作ったらいいのでしょうか?

大崎:この問題は、働く女性以上にユーザー側にも性病検査を勧めないと解決しません。女性が検査の結果、陽性反応が出て治療しても、ユーザーがかかっていれば感染を繰り返してしまいますから。

そこで、ユーザーに義務付けることは無理でも、検査結果を持ってきたら料金を割り引くとか、逆に検査をしていないユーザーには料金を倍額にして、女性の検査代を相殺するといった発想があってもいいように思います。また、検査費用の保険適用も実現してもらいたいですね。

法律が風俗店や働く女性の立場を強くして、守らねばならない

坂爪:今度は、法律の側面から話を聞かせてください。健全な風俗店やそこで働く女性に対して、現行法がもつ問題点を教えていただけますか。
法律が風俗店や働く女性の立場を強くして、守らねばならない
浦崎:法律家の立場からすると、現状は行政の裁量権が強すぎて、風俗店の立場をすごく弱くしていると思うんですね。まじめに営業していても一部の業者の凡ミスで大事になってしまったら、それまでのことがすべて消し飛んでしまう。

お店側は、何かあったときに弁護士や警察につながろうとしても、その立場の弱さから、「自分たちが目立つことをして、業界から消されたらどうしよう。営業ができなくなったらどうしよう」って思ってしまう。だから、店舗が外とつながる、女性とつながるっていう仕組みを作りづらくしてるんじゃないかと思うんです。

先ほど性病の話が出ましたが、風俗店で性病が広まったら、お店の自助努力や女性の自己責任の問題になってしまいますよね。飲食店で食中毒事件が発生したら、大きなニュースになって、店舗の責任だけではなく、行政や保健所など仕組み全体の問題になるのに。この違いも風俗店やそこで働く女性の立場の弱さが原因だと思うんですね。だとすれば、彼ら彼女らの立場を強くして、法的に守られた形を作らないといけないと考えています。

デリヘルを許可制にすることで健全化を促させられるのか

坂爪:健全化のために、デリヘルもキャバクラのように営業を許可制にすればいいのでは、という意見が一部でありますが、これに関してどう思われますか?

デリヘルを許可制にすることで健全化を促させられるのか

岩切:行政法学では、許可制のほうが取締や規制が多いので、届出制は面倒が少ないように考えられます。では、どうしてデリヘルが許可制ではないのかと言うと、日本語の語感の話になりますが、許可制にすると国がデリヘルにお墨付きを与えているようですよね。

しかし、デリヘルなど性風俗店は届出制であっても、立地規制を始め、非常に重い規制がかかっていて、許可制に近いものです。実際のところ、両者の違いは名前の付け方だけで、そんなに変わらないだろうと思います。しかし、そもそも適正営業のために、国や警察が旗振りをして、事細かに規制する許可制が望ましいものかというのは議論のあるところです。ですので、デリヘルなど性風俗店を許可制にすることがハッピーな結果になるとは必ずしも言えないかもしれませんね。

大崎:法律でガチガチにすることで世の中が良くなればいいですが、自動車のアクセルやブレーキのように多少遊びがあることで、事故を防いだり、操作性が良くなったりと、うまくいくことがあります。

風俗業界も同じで、遊びがあることでうまく立ち回れて、その中で経営者や運営側が工夫するほうが、利益と生産性を上げられるわけです。だから、警察関係者は風俗店側にある程度の猶予をもたせてやって、ちょっと目につくことをしたら摘発しますよっていうスタンスなんだと思います。

警察に「未必の故意」を追求されれば、デリヘル店に弁解の余地はない

大崎:警察の裁量については、とても気になるトピックがあって、先日、ある風俗店に対し、「未必の故意」という判例が下ってしまったんです。これは、行為者が、罪となる事実の発生を積極的に意図したり希望したりしたわけではないまま、その行為からその事実が起こるかも知れないと思いながら、そうなっても仕方がないと、あえてその危険を冒して行為する心理状態のことです。この判例が出た以上、風俗業界は警察側の裁量で摘発対象になりえるんです。

坂爪:ざっくり言うと、デリヘルは密室に女性を派遣した時点で、本番行為をしていると解釈されるということですね?

大崎:お店が「本番行為はダメ」と女性に指導しても、もしかしたら、そういう行為が行われてるかもしれないという心理状態で運営してる以上は、罰則対象になってしまう。つまり、警察側に摘発されて「未必の故意」を追求されたら、弁解の余地がないっていうことなんです。

坂爪:それは権力の乱用のように思うんですが、岩切さん、いかがですか?

岩切:おっしゃるとおりで、法が規制していない「空白地帯」と言えるでしょう。さらに、風営法で言う適正というのは、警察がイメージするような適正さであって、一般的な考え方とはかけ離れているというのも問題です。例えば、ダンスクラブですね。フロアの広さは何十平米でなくていけない。そうでないと、体が密着しておかしいことになるから許可しない。これが風営法の考える適正さです。このように、風営法というのは警察の裁量が大きく、非常に特殊なのです。

風俗の現場から声を上げ、社会的ムーブメントに!

坂爪:風俗業界は、行政の裁量によって勝手に決められてしまうわけですね。そのような状況で、風俗業界を取り巻く問題に法はどうあるべきなのでしょうか。

浦崎:法律ですべて規制化することがいいわけではなくて、現場の人たちが何に困っているのかをもっと発信していかないといけないと考えています。

例えば、外国人の難民問題、あるいは外国の方の生活の権利の問題です。これらは今、弁護士のネットワークがかなりできていて、その背景には、当事者の方たちが自ら声を上げてきた歴史があります。最近では、LGBTの問題ですね。こちらは、当事者がメディアに出て問題を訴えたことで、十年、二十年前に比べれば、今の状況は全然違っていると思うんです。

ここで大事なのは、当事者たちが声を出してネットワークを作るだけでなく、専門家や支援者とのネットワークの両方をうまくリンクさせ、社会的なムーブメントにすることです。

前編まとめ

大崎氏から、風俗業界は、性病問題で健全営業をしている店舗ほど損をしているというショッキングな話題がありました。しかし、これは風俗業界に限った問題ではないはずです。性病検査を義務付けるまっとうな店舗の存在があるから、性病の実態の一部がデータとして残るのであり、むしろ、問題なのは実態データとして把握されない、検査をしない、それ以外の人たちでしょう。そうした問題提起がされる『セックスワーク・サミット』は非常に意義深いです。

また、本議論でおもしろいのは、問題を抱えている当事者だけでなく、相談や支援を求められる専門家、有識者や法律家を交えて、意見交換を行うことです。このことは、浦崎弁護士がおっしゃる「当事者が声を上げ、専門家や支援者とのネットワークの両方をうまくリンクさせる」ことに見事につながっていきますし、回を重ね、さらに規模を大きくし、大きなムーブメントになっていければと思います。

岩切大地さんプロフィール

岩切大地さん

立正大学法学部教授。1979年生まれ。宮崎県、福岡県出身。慶應義塾大学大学院前期博士課程修了、同後期博士課程単位取得退学(修士)。東北文化学園大学非常勤講師、東洋英和女学院大学非常勤講師等を経て、2009年立正大学法学部講師、2012年より現職。主な研究テーマは、憲法・イギリス憲法比較研究。『性風俗と法秩序』共著者。

大崎柳也さんプロフィール

大崎柳也さん

風俗プレナーチーフコンサルタント、一般社団法人風俗等健全化育成機構の代表理事。キャバクラを始め、デリバリーヘルス、SMクラブなど風俗営業店の起業支援から年商五十億円のグループに至るまで、五十店舗以上の運営に携わっている。業界で培ってきた専門の弁護士や税理士、広告代理店、警視庁OBなどの人脈ネットワークを駆使して、風俗業界の刷新と健全化を目指し、活動している。

浦崎寛泰さんプロフィール

浦崎寛泰さん

弁護士、社会福祉士。『PandA法律事務所』代表。『風テラス』メンバー。1981年生まれ。長崎県で離島弁護士として3年間、法律相談を担当し、その後、千葉で刑事裁判、特に裁判員裁判を数多く担当。現在はこれらのご経験を活かし、司法と福祉が連携する「司法ソーシャルワーク」の実践を通じて、刑事事件から一般民事事件まで幅広く取り組んでいる。

執筆者プロフィール

赤坂 五郎

赤坂 五郎編集者記事一覧

3人姉弟の長男として生まれたが、なぜか五郎と命名される。生まれながらにして、人生に疑問を抱きつつ、「all that jazz」に生きたい40代。落ち込んだときは、映画『ミニオンズ』に涙して復活。好きなキャラクターは、顔の長いケビン。

このエントリーをはてなブックマークに追加

連携NPOのご紹介

一般社団法人ホワイトハンズ様

一般社団法人GrowAsPeople様