「大真面目を、貫け!」~スタイルグループ代表 滝健二の信念#3

2019年08月26日

by松坂 治良松坂 治良編集者・ライター

――2010年、AVプロダクションを経営していた滝健二氏は、業界の衰退を予感し、デリバリーヘルス『JKスタイル』をオープン。代表として『スタイルグループ』を立ち上げる。

この時彼が次の業種として選んだものは、なぜ“風俗”だったのだろうか。経緯を聞いた。

風俗での起業の理由は「勝てる」。なぜ確信を持てたか

なぜデリバリーヘルスにしようと思ったのか?

正直、何でも良かったんですよ。以前のプロダクションを人に譲って、自由に始められたわけですから。

実際、業態としてのデリヘルは、できてから20年ぐらい経つでしょうか。10年前にも、AVのプロダクションがデリヘルを出してみたりというのは、結構あったんです。ただ、上手くいかないんですよね。すぐ潰れてしまったりして。

しかも僕は風俗自体にほとんど行ったことがないから、勝手がわかりません。それで、池袋と新宿のお店を2か月ぐらいかけて利用してみたんです。その時点では他の事業も検討しつつ、10ぐらいは回ったと思います。

で、驚きました。当時本当にいい加減で(笑)。

まず横柄なんですよ。電話口で客を客とも思っていないような態度をとるんです。

ホームページと違う料金を言われることもありました。遅刻も多かったですね。1時間ということもあったぐらいです。

さらに写真と違う子が来ることもしばしばでした。部屋に入ったら入ったで、座って煙草をくわえたきり、何もしない女の子もいましたし……。

こんなの絶対に勝てますよね。「何をすれば?」の答えは、簡単です。

“普通に”やることです。当たり前の接客をすれば良いんです。

店長、内勤スタッフ、ドライバー、全員が未経験だった

新宿で『JKスタイル』を立ち上げた時は、僕と内勤スタッフが1人、ドライバーさんが1人の3人ですね。

経験者? いません。みんな未経験ですよ。

……ああ、なるほど(笑)。いきなりでできますか?と、そういうことですよね。

できましたね。僕はそれを、初日で確信しましたよ。電話口で、あるお客様が僕に、こう言ったんです。

「こんなに丁寧なお店、初めてです」

確かに丁寧だったと思います。お話をしっかりうかがって、言葉は選び、おもてなしの気持ちを大切に。

でもそれは、他の風俗店と比べたら、なんですよ。みんながちゃんとしていなかったから、目立てたにすぎません。

そして僕らが掲げた“日本一真面目な風俗店”というのも、当時からめずらしがられましたけど、皆さん誤解しているんです。

僕らは、“日本一真面目なお店”とは言っていないんですよ。

トヨタのショールームやドコモの受付に行けば、同じくらい丁寧な接客を受けられるかもしれません。しかし風俗店に限れば、ウチは日本一になれます。現に『JKスタイル』は、オープンから1年で、某風俗サイトのお気に入りランキング1位に選ばれたんです。

こんな仕事。“こんな”とは何か。誰が言っているのか

真面目は言い換えれば、当たり前、普通ということ。ですが風俗業界では、それができていない。だから、僕らは勝てたんです。

未経験でどうしてそこまで確信を持てたのかと言えば、やはり僕が以前の業界で、いい加減なAVプロダクションを見たからですよ。

僕はスーツを着ました。誰よりも多くのメーカーを回り、名刺を配りました。3年後には独立ですよ。他がやっていないから、やった僕が抜きんでただけなんです。

お店が立ち上がった9年前、風俗業界はもっといい加減でした。僕は当たり前、普通を持ち込むだけで良かったんです。

翌年オープンした『OLスタイル』も、確か4か月で黒字に転換したはずです。大好評と言って良いでしょうね。女の子の接客だって、どこにも負けませんでしたから。

女の子に徹底したのも、真面目、それだけです。

無断欠勤は禁止です。遅刻もダメ。どうしてもの時は連絡してください。これって、当たり前じゃないですか。

怒る? 怒るっていうのとは違いますね。僕は1つのことだけを伝えていました。グループ展開するようになった今でも、思いは変わりません。

「僕はこの仕事に誇りを持っている。誰にもバカにされたくなんかない。同じように、あなた達を僕は、バカにしたくない」

無欠当たり前、遅刻しょうがない。これはおかしな話です。お客様は予定を組んで時間を割いて、女の子に会いに来るんですから。相手に敬意を払えない人は、自分にも払えない人です。

こんなところだからこれで良い。こんな仕事だからこれで良い。この“こんな”って何でしょうね。誰が言ってるんでしょう? そうなんですよ。自分がそんな場所にしてしまっているんです。

それがわかって当たり前の努力をしている方は、スタッフとしてであれキャストとしてであれ、この世界で勝てます。

卒業後の人生だってある。そこまで考えた関わり

逆に言えば、この世界でいい加減に過ごした女の子は、卒業してもいい加減な生活しか送れなくなってしまいます。人生は長いです。そして女の子たちは、全員が僕より若いんです。きちんと送りだしてあげたいじゃないですか。

男性の面接でもはっきり言いますよ。

「当然のことができないと、ウチでは厳しいです」

何人かはこの時点で、ウチで働くことを辞めます。でも何人かは、ウチでこそ働きたいと思ってくれるものなんです。

当たり前に普通に働いてほしい。そう思えばこそ相手に、面接の時からしっかり関わります。この商売、数だけ揃えれば良いんじゃないですから。

“現状維持では、後退するばかりである”

何をすれば利益になるのかというのは、実は皆さんご存知だと思うんです。

なのにやらないですよね。正直、不思議です。

ウチみたいに真面目や誠実をうたうお店は、確かにこの9年で増えましたけど、やはりまだまだですよ。だからこそ、僕らが伸び続けているとも言えますし。

一時成功しても、ダメになってしまう経営者もいますね。お金を持つと使う時間が欲しくなり、仕事をほったらかしにしてしまう方が多いんです。

そのうち変化に気づけなくなり、衰退していく……。

ウォルト・ディズニーの言葉に“現状維持では、後退するばかりである”というのがあるんです。

現状に満足してほったらかしにしてしまうと、時代の変化、お客様の変化、そんなに大きなものではなくても、スタッフや女の子の変化にも、気づけなくなってしまうんです。知らなければ、あらゆる局面で、策を打つことができません。

贅沢をするのは構わない。でも、私利私欲だけではダメ

お金を使って贅沢することはいけないか? いえ、それ自体は構いません。ただ私利私欲だけではダメです。スタッフも女の子も、平気な顔はしていても、「あいつだけが」と思うものですから。取引先となれば、なおさらですよ。

時計を何本持っていようが、腕には一本しかつけられませんし、服も車も……。次から次へと買い替えて散財するような経営者もいますが、足るを知る、ということが僕は大切だと思っています。

この辺りも、AVプロダクションの時代に、ダメになっていく方を僕は多く見ましたから、それが活きているのかなと思います。もっと言えば、小さい時に家がバブルに飲み込まれて、良かったとさえ思うんです。

“若いうちの苦労は買ってでもしろ”

もちろんそんなことは意識していませんでした。でも、結果的にそうなっているのかなと。

人生のすべての経験が、成功の糧になる業界

僕らはまだまだ成長過程ですよ。入社してきた方たちには、全員豊かになってほしいですし、希望するなら、お店を持って社長になれる道も用意しています。

レールは常に敷いておいてあげたいんです。

スタイルグループも、来年の4月で創業から10年になります。そうなってあらためて感じるのは、風俗業界は決して楽なんかではありませんということ。

他の業界と同じように、トヨタやドコモや……まあどこでも良いんですけど(笑)、企業として当然の“真面目”は、やはり必要です。立ち上げの時からのこの思いは、変わりません。

同時に、それさえ貫けば、必ずと言って良いほど利益になるんです。利益になるだけではなくて、お客様の単価が高いですから、早く結果も出ます。効率は、どこよりも良い業界。特に若い野心のある子には、とても魅力的なフィールドだと思います。

“不真面目”がまかり通っていた業界ですから、反対に“真面目”を貫くのは大変でしたけどね。誰もやらないことをやるのって、キツいですから。妨害とは言わないですけど、まあ周りから良い顔はされませんでしたよ、9年前。

ただうまく言えないんですが、小さい頃に貧しさも豊かさも経験したこと、AVのプロダクションでだらしなさや、だからこそ当たり前にやれば成功できると知ったこと、全部活きているんですよ。風俗業界って、未経験で始めたとしても、これまでのことを全て活かせる業界なんです。

現にスタッフの経験さえなかった自分が、いきなりお店を経営できたんですからね。

自分にしかできないのか? いえ、誰だってできますと僕は言いたいんです。

ウチの社員の誰にだってできます。実際僕は、そう信じていますよ。

――『JKスタイル』の早くからの好評にも、その後のスタイルグループの躍進にも“マジック”はなかった。あったのは“真面目”だった。

この業界は“濡れ手に粟”なんかではない。いや、仕事というものはそもそも、そういうものなのだろう。簡単には稼げない。効率はあっても。

一方で“真面目にやりさえすれば”と、声を大にして言える業界が、今どれほどあるだろう? 滝代表の言葉は、風俗店員だけではなく、求職者にさえ心強く響くだろう。

進学率100%の高校で、たった1人進学を拒んだ滝青年。「誰もやらないことをやるのって、キツいから」と語りながら、彼は昔からそれをやって来たのだ。

まだ41歳。彼が人生経験を活かし、成功を手にする場面は、これからもたくさんあるに違いない。

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「振り続けたシェイカー」~スタイルグループ代表 滝健二の信念#1

滝 健二(たき けんじ)

関西出身。風俗業界歴は9年。進学率100%の高校に通いながら、その年ただ1人社会人の道へ。20歳でバーテンを“天職”と定めるものの、話のタネのつもりで上京したはずが、やがてAVプロダクションの代表を務めることになる。その後、32歳で風俗業界へ。未経験で『スタイルグループ』を立ち上げ、『JKスタイル』を始めとした大ヒットブランドを、数多く誕生させる。

執筆者プロフィール

松坂 治良

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小さな出版社などを経て、”誠実に求人広告をつくろう“という姿勢に惹かれ、現職に就く。数年来クラシック音楽と仏教に傾倒中で、最近打たれた言葉は「芸者商売 仏の位 花と線香で 日をおくる(猷禅玄達)」。……向き合った相手の“人となり”や思いを、きちんと言葉にしたいと願う、今日このごろです。

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