「代表は、25歳。躓きと、成功と」~なぜ“やれた”のか。プレジャーファクトリーグループ代表 斎藤義之#03

2020年01月28日

by松坂 治良松坂 治良編集者・ライター

――「斎藤、代表をやってくれないか?」

8年前、『プレジャーファクトリーグループ』を託す言葉を投げかけられた時、斎藤青年は予想もしない言葉に驚いたという。

実際彼は、経営者になりたいと思っていたわけではない。考えたことを“やってみたかった”だけなのだ。断るという選択肢は、なかったのだろうか?

若干25歳のグループ代表。なぜ、逃げなかったのか

前回もお話しましたけど、自分自身では僕は、ここで経営学の基礎を実践しただけだと思っています。ただサンキューレターも業務のシステム化も、業界で、かつ埼玉では新しかったということなんでしょうね。グループ前年比にして2,000万円、100%の売上増を叩き出しました。

だからこそ、兄も共同経営者の代表も、僕を放っておかなかった。経営的な実践力だけじゃなくて、人をまとめたというところでも、「使えるじゃないかこいつ」と思ってくれたんでしょうね。僕に任せることができれば、2人は2人でまた、新しい事業に没頭できるでしょうし。

最後はそれこそ三日三晩共同経営者にお願いされ続けて(笑)、でもそれだけで代表を引き受けたわけじゃないんです。思いは、業界入りした時と同じですよね。

「自分のやりたいことを実践できるのに、そこから逃げて良いのか?」

やってみようで来た自分。まだ25歳の自分でした。能力がないのに頼むはずはないんだから、やってみようって……。

昨日まで、笑い合っていたのに。“立場”の重み

ただこの時僕は、苦い経験をするんです。人が離れたんですね。

まず“立場”というものが、こんなに大きいんだということを思い知らされました。昨日まで笑い合ったり、飲みに行ってプライベートの話だってしていた店長達が、僕が1つ上の代表として立った時に、やっぱり態度が変わったんです。すごくやりづらくなって……。

野球選手が監督になった時に、苦労したりしますよね。あれが立場の変化の、わかりやすい例なんだと思います。自分より歳が下でとか、入ったばかりのくせにっていうやっかみだけではなかったはずです。意外とみんな、どう接したら良いのか、わからなかっただけなのかも(笑)。

もう1つは、まったく僕個人の問題です。若さもあって、未熟でした。

「代表の当たり前は、僕の当たり前じゃない」

店長時代と同じことをやろうとしたんです。組織のシステム化、業務のマニュアル化、そうすればマンパワーに頼らない事業運営を加速させられるって。

ところがやり過ぎました。例えば「1秒間にこれぐらいの文字数をタイピングできるようにしてください」とか言って、時間を計ったりしていたんですよ。ぜんぶがこの調子で。

「代表の当たり前は、僕の当たり前じゃないんです」

僕もお馬鹿さんだったんで、言われた時にはとても驚きました。当然ですけど、僕はそんなつもりじゃない。効率化は仕事の質も高められるし、時間も増やせる。みんなだってハッピーになる。そのためなのにって……。

まず、押しつけない。そして“No.2”を置くこと

スタッフの退社が続き、僕も考え方をあらためました。

まず柔軟にということ。もともとシステム化だって、得意不得意があるのに、ぜんぶの仕事を1人のスタッフがやるのは非効率だというところから始まったはずです。個々のスキル向上を望むのは変わらないですけど、もっと長い目で見たり、それぞれのできる幅を認めるべきだなと。

少なくとも時間を計るなんていうプレッシャーは、ゼッタイかけない(笑)。求めるレベルを押し付けちゃダメなんですね。

もう1つは、シンプルですけど、僕が現場に顔を出さない、口を出さないということですね。僕とは別に、No.2となるべき人を置いたんです。

指示やお願いは、このNo.2の方に出すようにしました。僕は結果、つまり数字だけを見る感じですね。で、そこから気になったら話を聞いて、「こうしてみて」と判断を下します。

「ここにこんなに時間が掛かっているのは、単純にタイピングとかの入力速度じゃないかな」

これぐらいで良いんですよね。あとは現場がその人に努力を促したり、適任じゃないと思ったら別のスタッフが代わったり、そこは任せる感じ。

システムはあります。マニュアルもあります。だから僕は現場にどうこう直接は言わないから、やってみて……。

越谷店の会員数は延べ約6万人。この数字の意味は何か

次第にまた、売上も堅調に伸びるようになりました。人の定着率も上がりました。これは実は、スタッフばかりじゃないんです。僕が代表に就任したのが2011年。そこから8年経ちますけど、『内緒の関係』には、それ以前から未だに在籍しているキャストさんがいるぐらいです(笑)。

そして現在店舗数は……。フランチャイズ(FC)も入れると、埼玉県と千葉県に15店舗ですか。各店のリピート率は82%と高く、利益は上がっていて、体力だけではなくノウハウがあります。おかげさまで2019年も、成田市にFC店がオープンしているんですよ。

最初に店長をしていた越谷店がわかりやすいんですが、ここは会員数が延べ約6万人なんですね。越谷市の男性人口が約17万人ですから、単純計算で言えば、1/3の方が登録していることになるわけです。

ありがたいのと同時に、何か特別なことをした、という意識もないんですね。学びの実践の延長で、ここまで来たという意識があります。

新たな学びは途絶えず。“コーチング”をグループに導入

経営の勉強、新たなことの吸収は継続しています。初期にスタッフが辞めた反省もあって(笑)、今僕は“コーチング”を、学びつつ実践しているんです。

この場合のコーチングというのは、簡単に言ってしまえば、対話の中で組織や個人の課題を見つけ、解決に向けたアプローチを示して、成長や発展を促す……ということなんですが、これをデリヘルの現場に落とし込んでみたんですね。月に2回の日を設けて、スタッフは誰でも僕のコーチングを受けられるという風にしてみたんです。

内容は何でも良いんですよ。“新人としての行き詰まり”であるとか、“業務はこなせるんだけどこれで良いのかと不安だ”とかですね。“家庭にトラブルがあって、どうしたら良いのかわからない”という子だっています。

プライベートのことまで聞いてあげるのか?(笑) その疑問はちょっと違いますね。だってプライベートで悩みがあったら、仕事には悪い影響しかないでしょう。角度を変えれば、プライベートの悩みこそ、真っ先に解決しなければいけない課題だとも言えるんです。

それにね、コーチングというのは、直接こちらが答えを示す、ということはほぼないんですよ。課題を見つけること、解決に向けてのアプローチを示して、“自分で考える力”を付けてもらうことこそが要点なんです。

誰でも、と僕自身が言ったこともあって、なかなか予約が取れない。なので申し訳ない思いもあるんですが、考える力、解決能力が身に付けば、後に立場が上になったりだとか、新しい事業を自分で起こすとなった時に、必ず役に立つはずなんです。

よく言うんですけど、僕自身がみんなを幸せにすることなんてできないんですよ。でも“幸せになるための方法を、自分で考える力”。これだったら僕は、何か示してあげられる気がするんです。

自分の部下は、7人まで。全員を見るなんて不可能

「みんなを幸せにはできない」

繰り返しになりますけど、だからこそ僕は、直接自分の下に置く部下も、7人と決めています。単純に僕のというか、人のかな、見てあげられるのは7人が限界という能力の問題ですね。この7人の下にまた7人がいて、また……という形で組織を構築できれば、まだまだウチは大きくなっていけると思います。

現に事業は、不動産、飲食、運送、一般の職業紹介事業から、BPO(ビジネスアウトソーシング)サービス事業、エステ事業と、幅広く展開しているんです。僕としてはスタッフ1人ひとりに事業を起こせるぐらいの力を付けさせてあげたいという思いがあります。だから企画も提案も「思いついたら何でも持ってこい」という感じなんです。

先日FENIX JOBさんで『転職フェア』を開催されたでしょう? 1度目も2度目もありがたく参加させていただきましたけど、これもスタッフのみんなが「ぜひ参加したい!」って(笑)。

熱意に負けた感じですね。ここからまた1人でも2人でも良い人材を獲得できたらという思いも、もちろんあります。

業界の土壌は、まだまだ肥沃。僕らは止まらない

ただ、他の事業も展開しているとは言え、風俗業界の土壌というのは、未だに肥沃なんですね。特に地方の場合はリターンが大きいですよ。さきほども言った、越谷市の会員数が如実にそれを示していますよね。ウチの核は依然としてデリヘル事業です。

なぜ肥沃なのか?という答えは、お話してきた通りで、もう明白でしょう。サンキューレターにシステム化、コーチング、どれも僕が高校時代から学んできた経営学の実践なんですよ。僕らが成長できたのは、この土壌には、それをやる方たちがいなかったというだけなんです。他業界の方には、僕の話は当たり前とさえ感じられるかもしれません。

そして最後は、僕がなぜスタッフの事業提案に常に耳を貸すのか、ということにも繋がるし、自分自身でコーチングを学ぼうと思ったことにも繋がるんですが……。

「思いついたら、やろう」

これに尽きると思うんです。前回も言いましたけど、「この業界でなら」と考えた方は、他にもいたはずですよ。それこそ大手企業が覇権を握っているという業界ではないんですから。でもどこの世界でも同じ。思うだけでやらない方がほとんどです。“やれない”のではなくて、“やらずに”終わってしまう。

「代表、東京ドームでグループの運動会やりたいです」
「ディズニーランド、みんなで貸し切りたいです」

事業だけじゃないんです。例えばウチのスタッフはこんなことを言うんですよ(笑)。その時に僕は、ゼッタイに「やれない」とか「バカ言ってんな」なんて返さないですよ。だって東京ドームで企業の運動会やってるじゃないですか。マイケル・ジャクソンが、ディズニーランド貸し切ってましたよね?

すでにやっている人がいる。だから僕はこう言うんです。

「幾ら掛かるか調べといて。すぐだよ」

そして立てるのは、実行計画。一事が万事ですよね。風俗じゃなくたって良い。僕らはこれからも、まだまだ“何か”をやり続けます。ウズウズしている連中が、下に大勢いますから(笑)。

――思いつくことは、あんがい誰にでもできる。真に困難なのは、まずやってみること……。

月並みな結論かもしれない。だが今こうして、18歳でバーを立ち上げてからの斎藤代表の“物語”を聞くと、やはり驚く。やれていない者が、ほとんどなのだから。

そして幅広い意見の取入れやコーチングを通じて、今彼が行っていることは、下の者たちにやってみようと思える“土台”をつくり、何より“自信”を付けさせることなのだろう。ディズニーランドでスタッフみんなの笑顔を見る将来は、もうすぐそこなのかもしれない。

(インタビュー:新海亨)

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「15歳。手にした本は……」~なぜ“やれた”のか。プレジャーファクトリーグループ代表 斎藤義之#01

斎藤 義之(さいとう よしゆき)

東京都出身。業界歴は11年。中高生時代から経営に興味を持ち、大学に進むものの、退屈さから18歳でバーの経営に携わる。その後21歳で『プレジャーファクトリーグループ』に入社すると、2011年、若干25歳で代表に。2019年現在FC含めて15店舗のデリバリーヘルスを運営するだけではなく、不動産ほか、多角的な事業展開をする企業体にまで、グループを育てている。33歳。

執筆者プロフィール

松坂 治良

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小さな出版社などを経て、”誠実に求人広告をつくろう“という姿勢に惹かれ、現職に就く。数年来クラシック音楽と仏教に傾倒中で、最近打たれた言葉は「芸者商売 仏の位 花と線香で 日をおくる(猷禅玄達)」。……向き合った相手の“人となり”や思いを、きちんと言葉にしたいと願う、今日このごろです。

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