北村一樹、大いに動く。『アインズグループ』東京での戦い #2
2022年09月09日
――2021年11月、大阪を拠点とする アインズグループは、フラッグシップブランド ブレンダを擁し、念願の関東進出を果した。
ところが代表の北村(42)は、スタッフ達の電話を取る様子から、早々に実力不足を痛感したという。
「接客になっていない。これではリピーターは付かない」
だが“対応”と“接客”の違い。彼から見れば大きな違い。これを部下にわからせるには、どうすれば良いのだろう?
ホテルではなくディズニーランド。一緒に楽しんでくれ
結局取材になっちゃいましたね(笑)。どこまで話しましたっけ? ああそうか。「なにわの商人の腕の見せどころ」なんて言ったんでしたね。相変わらずエラそうな台詞で終わってますが(笑)、そう大したことでもないんですよ。
まずせっかく何度か『Fenixzine』さんの取材を受けていましたから、これまでの記事を新人スタッフのみんなに見せました。ありがたいことに、もともと東京の10名の内2名が、僕の記事を読んでの入社だったんです。
そしてよく言っていたのは、「ディズニーランドで行ってくれ」と。“一流ホテルの受付のように”なんて、今やどこのお店でも行っていること。そうではなく、僕らが目指しているのは“一緒にハッピーになる”ということなんですね。
ディズニーランドのキャストさん達って、みんな笑顔で楽しそうでしょう? あれはディズニーランドが好きなんですよ。やらされていない。「この仕事をしたい」と思ってやっているからこそ、客として訪れた時こちらまで笑顔になるんです。
僕も一緒ですよ。『ブレンダ』が好きで、この仕事がおもしろい。「一緒に『ブレンダ』を楽しみましょうよ。何でも聞いてください」というつもりでやっています。
スタッフの反応?(笑) みんな「仰ることはわかります」という感じでしたね。でもこう答える時って、本当にはわかっていません。身には付いていないんです。
なので僕も渋谷に行った時には、自ら電話を取ってみたいなこともしましたよ。ほかにも彼らを食事に誘ったりね。
なぜ“一緒に飯を食う”のか。対照的な2軒の寿司屋
一緒に食事するというのは実は、接客を見せるためなんです。例えばお寿司屋さんに連れて行く。トロならトロ、ウニならウニを食べさせます。
「どうだった? 今の店」
「ウマかったです。最高です」
まあこれは当然なんです。僕の行く店ですからね(笑)。で、機会があればまた別のお寿司屋さんに連れて行きます。そしてまた同じようにトロならトロ、ウニならウニを食べてもらう。
「どうだった? 今度の店は」
「ウマかったです。最高です」
「おとといの店とどっちがウマかった?」
「いや、比べられないですよ。同じくらい」
「そうか。じゃあどっちが楽しかった。どっちにまた来たい?」
「……こっちです」
もうおわかりでしょう。社長クラスが行く値の張る寿司屋なんて、言ってしまえばどこだって美味しいんですよ(笑)。でもこの彼がどうして後者のお店の方に「また来たい」と思うのかと言ったら、これこそが接客の力なんです。
のれんをくぐればまず「いらっしゃい!」と威勢のいい挨拶が届く。マスク越しでも大将の目から笑顔が伝わって、「北村さん? お久しぶり」と声が掛かる。僕の部下の若いあんちゃんにだってしっかり目が配られて、粋な寿司のいただき方まで教えてくれるわけです。
この大将は賢いですよ。こうして若い子に親切にしておけば、エラくなった時に贔屓にしてくれるかもしれない。それがちゃんとわかっているんですね。だからこの寿司屋は過去と今だけじゃない。10年20年とリピーターが付いて、繁盛し続けるんです。
「最初に行った寿司屋がお前達なんだ。ただの電話対応」
「はい」
「今日の寿司屋が、まあ言っちゃえばオレやな(笑)」
「はい。電話接客?」
「……そう。なんや、もうわかってるやん」
一例ですが、こうして共に飯を食う中での気づきって、やっぱり“身になる”んです。マニュアルの改定や業務中のアドバイスと合わせて、みんな少しずつ僕や上原の言うことを理解して、かつ実践してくれるようになっていきました。
背が高い子のほとんどが猫背。ところが誰も注意しない
女の子の方はね、この前も少し言いましたけど、最初から粒揃いでした。ただだから問題がないかというと「見せ方がわかってないな」とよく感じました。例えば背が高い子のほとんどが猫背だったんです。
これは何でなのかな? 高い子は高い子で、小さい時にコンプレックスを感じて背中が丸くなるのか、上背がある方が姿勢の悪さが目立つのか……。僕もそこまではわからないんですが、とにかくもったいないなと。
でも意外と通じないんですよ。
「せっかく映えるのに。背中伸ばしてごらん」
「はぁ……。曲がってますか?」
なるほど、と思いましたよね。この子のプライドと言うより、なんとなく関東って遠慮の文化じゃないですか。僕みたいにズケズケ指摘する男性は少なそうですよね(笑)。
またキャストに何か注意して気分を害するより、“良いところだけ見て、おだてていてもらおう”というお店も少なくないのかもしれません。あとはそもそもスタッフ自体もそこに気づけていないとかね(笑)。何で10人なら10人いるスタッフが、みんな教えてあげないんだろうと思いましたから。
助けになったのは“カッコよくノリのいい”関西の女の子
この点は、最初の頃大阪から来てくれた、応援の女の子達が助けになりました。
「見てみ、あの子」
「……」
「めっちゃカッコええ思わん?」
「はい、まあ、思います」
「あの子の方が自分よりちっちゃいんやで」
「ウソ?! そうですか?!」
で、せっかくなので応援の子に側に来てもらう。オフィスには鏡もありますから、一緒に立ってもらったりしてね。
おっかなびっくりの東京の子の背中をトンと叩いて、アドバイスを交えて姿勢を正していくわけです。応援の子は応援の子で、僕とはツーカーでノリがいいですからね(笑)。ステキなリアクションしてくれますよ。
「わあ! ちょっとのことで見違えるなあ。ウチもう負けてるわ」
「そんな。そんなことないです。全然です」
「かわい気もあるなあ。さすが東京の子や(笑)。ええやん北村さん、この子ゼッタイ人気なるで」
男も女も褒められて気分の良くない人間はいないですから、この先は大概スムーズです。せっかくなので一緒に歩いてもらったり、他の子も入ってメイクの仕方も話し合ったりね。最後の最後にこの子に言われた言葉が、今も忘れられません。
「ここまでしてもらえたの、私はじめてです」
“体で教えていく”に当初は戸惑い。結果的には大成功
思えば女の子の場合もスタッフと同じだったということですね。大阪に最初の『ブレンダ』ができた時、僕は女の子達に「お前ら安ないねんぞ」「プライドを持て」と言い続けた。
場所が変わって渋谷でだって同じです。ここで採用になった以上、女の子は“最高”なんですよ。その自覚を持って自分を磨いてくれれば、必ず評価は付いてくる。そしてここが重要ですが、僕らはその磨き方をよく知っています(笑)。
心では戸惑いつつではあったんですけどね。既視感があったというか……。「うん? この台詞どこかで言ったような」とか「昔もこんなことあった気がする」とか。
つまり何と言うか、もう少しこう、関西のシステムを関東にスッと持ってくればいいとか、逆に関東の女の子やお客様に合わせていこうみたいな意識が、当初あったんです。
ところが泥臭くと言ったらあれですけど(笑)、やはりこんな風にコミュニケーションを図って、体で教えていくみたいな感じになるんだなって。
スタートアップって、そもそもそういうものかもしれないですよね。前回も触れましたけど、もう大阪の子の応援はないし、東京での僕の出番もほぼなくりました。スタッフも育って、この3か月は売上も上々。年内にまた新規出店となっているわけですしね。
「北村さんじゃもうダメだ」。負けてバトンを渡したい
もしかしたら、スタートアップと言うより、“北村一樹が手掛ければそうなる”ということなのかもしれません。御社の松坂さんが、僕のことを“動く経営者”と形容してましたけど(笑)、うまいこと言うなと思いましたもん。きっと僕の性分なんでしょう。
ただパワフルに仕事すると言われている僕も、42歳ですからね。こんなやり方ができるのも後10年か15年かなと思っています。早過ぎる? いや、僕は死ぬまで風俗屋のつもりではいますが、その頃には「50歳55歳なんてジジィや。どけ」と下のスタッフ達に言われたいんですよ。
じゃなきゃ組織は停滞します。“元気のない大きな会社”が、この業界に限らず日本には多いじゃないですか。それは上がどかないからですよ。最後は「北村さんじゃもうダメだ」と言われて負けてバトンを渡したい。僕は本気でそう思っているんです。
――ディズニーランドのサービスを理想とし、接客を教えたくて新人を2軒のお寿司屋さんに連れて行く……。“楽しく”を本気で追及する北村代表から最後に飛び出したのは、まさかの引退カウントダウン?! 次回最終回、今後のアインズグループについて、あらためて話を聞いた。
(インタビュー:新海亨)
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北村 一樹(きたむら かずき)
大阪府堺市出身。風俗業界歴は16年を数える。18歳で水商売の世界に飛び込み、20歳で早くも店長に。2006年に風俗業界に身を転じると、代表として『ブレンダ』を中心に高級店を次々と成功させ、アインズを関西で押しも押されぬ大グループに成長させる。含蓄あるツイートにはファンが多く、フォロワー数は2万人を超える。趣味はピアノで、目覚めには必ず鍵盤に向かう。
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