見果てぬ夢 ~プラットフォーマーに。予約システム『ユメオト』~『夢見る乙女グループ』岡崎信二社長の回想 #3

2022年12月05日

by松坂 治良松坂 治良編集者・ライター

――コロナ禍を受けて、キャスト面接の2割をオンラインで完結させているという『夢見る乙女』。だが“最先端”はここに留まらないという。最終回、五反田エリアの岡崎社長(48)に、くわしく話を聞いた。

予約システム『ユメオト』。業界版“マッチングアプリ”

前回最後は面接のお話でしたよね。途中で「ならこの話題は避けられないな」と感じたことがあって(笑)。実は営業面、お客様のご予約でも『夢見る乙女』ではデジタル化・オンライン化が進んでいるんです。

もう3、4年になるのかな? コロナ前から開発を進めていた会員限定の予約システムをリリースし、その名も『ユメオト』としました。

もともとはグループ全店を集中管理したいというのと、新しい受注ツールの1つという目論見だったんですね。

システムのメリットに触れると、まずキャストさんにとっては、電話・Web・姫予約(TwitterのDMなどに代表されるキャストさん直の予約)に加えて、4つ目の予約チャンネルができたことになります。

そしてスタッフにとっては、電話応対や、Web予約の折り返しのご連絡、再確認といった手間がなくなるので、取られるリソースを減らせます。予約は仮予約ではなく“完全予約”。基本的には『ユメオト』だけで全てを完結させられるんです。

お客様で言うと、人ではなく機械相手なので、ノンストレスですよね。キャストプロフィールも詳細ですから、お勧めの子を聞く照れも恥ずかしさも煩わしさもなくなるし、時間もリアルタイムで把握できるので、「今この子いますか?」と電話する手間もありません。

キャストさんの“特徴”が細分化されてポイント表示されているので、自分との相性も図りやすい。言わば“マッチングアプリ”の業界版ですね。キャストさん、スタッフ、お客様、3者すべてにメリットがあります。

“便利”がウケ、40万人が会員登録。予約の3割を占める

冒頭で“新しい受注ツールの1つ”と言いましたが、実際にはもうそうとだけは言えなくなってきました。既に40万人のお客様が会員登録。今やグループの3割の予約が、この『ユメオト』からなんです。

要因?(笑) いやもうそれは、お客様からしたら便利だからですよね。通勤の行き帰りやお昼休みでも、アプリでサクッと予約ができるわけですから。

もちろんまだ課題もあって、スタッフの側は理想の使いやすさには届いていません。まず急な予約には気づきにくいので、やはり確認作業は必要。また割引の適用もこちらの手入力で、予約のキャンセルなどで時間調整が必要なこともあります。

ただ最初から完璧なシステムはないし、このデメリットも徐々に解消されていくはずです。それにとにかく、僕ら以外のキャストさんとお客様は、圧倒的に便利なのが大きい(笑)。この先5割6割という形で、更に利用者は広がっていくと思います。

なぜ他社を歓迎するのか。“選択肢は多いほど良い”

同時にここまでの広がりを見せているシステムなので、今僕らはいずれ他店・他社の方々にもこの『ユメオト』に参加していただきたいと考えています。そこまでこのアプリを育てたい。

お話してきたように、キャストさんとお客様のメリットは絶大ですから、集客効果は大きい。後はスタッフの手間の部分さえ解消されれば、人件費削減の観点からも、かなり魅力的なツールになるんじゃないかなと。

正直運用している間に「これをこのまま自分達だけのものにしておくのはもったいない」という気がしてきたんですね。

確かに既に僕らのグループには1,900人に迫るキャストさんがいて、言わばお客様はその中からマッチングを図れます。しかしここに他店・他社も加わり、キャストさんの数が5,000人、1万人となれば、“特徴”は更に細分化でき、マッチングの可能性は無限に広がっていきますよね。

それで『夢見る乙女』の売上が下がるかと言ったら、僕らは逆だと考えています。選択肢は多ければ多い方が、売上増に繋がる。それは『AMAZON』や『楽天』に代表されるECサイトを見れば自明じゃないですか。

いつかこのシステムが業界の標準になって、『夢見る乙女』も参加企業の1つに過ぎなくなる……。これはむしろ歓迎すべきことです。「つくったのは僕らなんだよ」と自慢ぐらいはしたいですけどね(笑)。

パイオニアに。プラットフォーマーに。ここまで来た

もともと創業の先輩達が、自分だけでノウハウを抱え込むというタイプではなかったんですよね。むしろ「業界をもっと良くしたい」「自分達がパイオニアになれたら」という思いのある方々でした

性別不問のスタッフ採用や、前回触れた社会保険制度の整備。結果論的な側面もありますが、ウチがこれらを業界でいち早く取り入れてきたのは、紛れもなく事実です。そして『ユメオト』こそ業界標準、プラットフォームにできるものじゃないかなと……。

気前が良い?(笑) いや、決してそんなことはないんですよ。下心もちゃんとあります(笑)。このアプリに1人でも多くの賛同者が現れれば、そこからまた交流も生まれるし、「これは」というおもしろい意見も聞けるでしょう。斬新な企画に出会えるかもしれないじゃないですか。

業界が発展すれば、共存共栄で僕らも更に豊かになる。誕生から23年を経て、僕らは遂に、そんな夢まで見られるようになったのかもしれません。

“情けは人のためならず”。僕らは創業の志を胸に……

いや、楽しかった(笑)。今日は本当にありがとうございました。

こうして入社時からのグループの歴史を振り返らせていただいて、すごく不思議だなと感じます。最初の回で触れたように、そもそも僕らが業務効率化を推し進めてきたのは、創業の先輩のようには、お店を舵取りできないと考えたからでした。

あのパワー。あの人への愛。何事にも本気で相手に真剣で、他人の人生さえ背負ってしまうんじゃないかと、見ていてハラハラする……。

みんながあんな風にはなれないから、制度を整え、適材適所を図り、個人商店から企業への脱皮を成し遂げたのが『夢見る乙女』だったわけですよね。そんな僕らは今や、業界のプラットフォーマーにさえチャレンジしようとしています。

ところがここで蘇るのは、やっぱり“創業の志”なんです。“情けは人のためならず”を先輩が地で行ったように、僕らも現在、編み出したシステムを広く他企業にまで開放しようとしている。業界が良くなれば、僕らもその恩恵を被ることができるからです。

おもしろいですよね(笑)。ある意味で先輩から逃げ出した僕らが、気がつけば先輩と同じことをしている。成長と躍進の果てに、結局僕らは原点に返ってきたということなのでしょう。彼のあの言葉を思い出すんです。

「ここは“夢見る”乙女だぞ」

かつてとは時代が異なるし、規模も違います。描く未来像だって、変化したかもしれない。でも恐らく僕らはこれからも、“夢を見る”ことだけは忘れません。

――俗に“名は体を表す”という。取材の終わりに筆者が感じたのは、1999(平成11)年に誕生した時、『夢見る乙女』というネーミングには、大きな願いが込められていたのだろうということ。

横浜の1店舗の時代、「関東に。全国に」と言えば、冗談に思われたかもしれない。「何夢みたいなことを」と笑う人もいたかもしれない。

だが23年が経ち、実績を残し続けた彼らを、もう誰も笑っていない。同様に「このシステムを業界標準に」と新たな夢を語っても、今や誰も笑えはしないのだ。

「彼らなら、やるかもしれない」

あの時描かれた夢は、こうして更に大きくなって、続いていく……。

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始まりの夢 ~事業拡大の野望。トップの“脱”属人化~『夢見る乙女グループ』岡崎信二社長の回想 #1

岡崎 信二(おかざき しんじ)

三重県出身。風俗業界歴は22年を数える。大学中退後、2000年に26歳で『夢見る乙女』に入社。送迎ドライバーのアルバイトを経て3年目には社員に、5年目には『品川夢見る乙女』の社長となる。その後『人妻セレブリティ』ほか、数々の店舗運営改革に成功し、新規店立ち上げにも尽力。2022年現在11ブランドを統括する。48歳

執筆者プロフィール

松坂 治良

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小さな出版社などを経て、”誠実に求人広告をつくろう“という姿勢に惹かれ、現職に就く。数年来クラシック音楽と仏教に傾倒中で、最近打たれた言葉は「芸者商売 仏の位 花と線香で 日をおくる(猷禅玄達)」。……向き合った相手の“人となり”や思いを、きちんと言葉にしたいと願う、今日このごろです。

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