夢の途中 ~適材適所。キャスト面接官~『夢見る乙女グループ』岡崎信二社長の回想 #2

2022年11月28日

by松坂 治良松坂 治良編集者・ライター

――スタートダッシュの成功に奢ることなく、1999(平成11)年の設立当初から事業の拡大を視野に入れていた『夢見る乙女』。そのために業務効率化と適材適所を図ったという。今回はその具体策のほか、グループが福利厚生の充実を進めてきた理由、更にキャスト面接の“最前線”にまで話が及んだ。

一般企業並みの福利厚生+稼げる。広く人材を募れる

事業拡大に向かう中で、僕に限らず『夢見る乙女』各エリアの社長が考えてきたのは、まず“福利厚生を一般企業並みに”ということでした。

驚く読者の方もいるでしょうが、この業界は送迎ドライバーさんにガソリン代が出ないとか、内勤スタッフの交通費がゼロとか、社会保険なしが“フツー”だったんですよ。

確かにそれでも良かった時代はあったと思うんです。僕ら世代ぐらいのスタッフさんだったら、「オレもそうだったよ」って全然言うと思います。僕もそこを見て業界に入ったわけじゃないですからね(笑)。

でも組織を大きくしたい。それこそ僕らのように、横浜から関東、全国を狙う組織になっていきたいとなったら、同じ業界だけで人材をぐるぐるたらい回しするわけにはいきません。

「交通費も出ないんですか?」
「社会保険がない企業ってあるんですか?」

業界外の方々にこう思われるだけで、どれだけの人材損失になるか……。なので、交通費全額支給、社会保険完備、残業代支給、完全週休2日、年次有給休暇付与という形で、制度を充実させていきました。

同時に、“しかも稼げる”となれば、逆に他業界からの大きなアドバンテージになると考えたんですね。おまけにウチは、18歳以上であれば年齢も学歴も職歴も、性別さえ不問にしています。

新入社員さんは18歳もいれば40代もいて、元営業マン、事務員、元キャストさん、主婦までが集う。中卒も大卒も分け隔てなく歓迎して完全実力主義となれば、裾野は無限じゃないですか。広く良い人材を募れますよね。

マルチタスクでは、「もったいない」。適材適所に舵

次にいよいよ前回から話題に上がっていた適材適所。実は初めはウチもマルチタスクだったんですよ。僕もバイトで内勤スタッフを始めた頃は、ドライバーに電話応対、キャストさんのシフト管理から面接まで、全ての業務をこなしていました。

しかし正社員となり、やがて社長として数年を過ごしている間に、前回述べたように、創業の先輩と自分との実力差を痛感したし、何より「これではもったいないな」と感じるようになったんですね。

例えばウチの宮本君なんて、お客様の電話を取るのはできなくもないけど、どうも歯切れが悪いし、楽しそうじゃない(笑)。

ところがキャストさんの面接となると、担当した女性は誰よりも入店率と定着率が高いし、しかも揃って大活躍してくれていたんですね。ならいっそ、面接をメイン業務として任せない手はないじゃないですか。

優れたキャストさんの確保は、集客戦略の一番の“かなめ”です。このため今では、彼のように“キャスト面接官”として勤務するスタッフが多数います。正式に“面接の部署”をつくったわけです。

役割の徹底。キャスト面接官は、面接だけに集中できる

部署分けで心がけているのは“徹底”です。面接部署で言えば、役割は本当に“面接以後”なんですね。

昨今は同様に店舗運営と総務・人事を分けている企業も多いようですが、その場合でも、業務は“応募受付⇒メールやLINE、電話のやり取り⇒面接”という一連の流れを担当するのが一般的でしょう。

ウチは違います。女性にお会いするまでは“求人企画部”の担当で、日時のセッティングさえいりません。キャスト面接官は煩雑な事務に忙殺されることなく、面接に集中できるんですね。

また、大きな裁量も与えています。面接官がご応募の方とお話をして、グループ各ブランドとのマッチングを図る。この時点で「ご活躍いただける」と感じたら、その場で即採用⇒体験入店の手続きを始められるんです。

写真を撮ってプロフィールを作成、担当者に引き継いだら、すぐお店に在籍できます。再度各店の責任者に「どうでしょう?」と相談が必要だったり、二次面接が用意されたりということはないんですね。

面接時のアンケートやご要望、申し送りだってiPadへの入力ですから、情報共有もスピーディーです。「1日も早く稼ぎたい」という方は少なくないですから、キャストさんも喜んでくれていますよ。

個人商店が企業に。裁量を与えなければ、前に進めない

徹底、そして裁量付与の理由は繰り返しになりますが、僕らが創業時から“事業の拡大”を目標に置いていたからです。

今や僕が任せられているエリアだけでも、月に70人の新人さんがデビューしているんです。予算や売上の管理をして、スタッフの指導をしつつ、一々キャスト入店の最終判断をするのは、時間的に苦しいですよね。

そもそも店長という役職さえ、ウチにはもう長い間ありません。僕が11ブランドを見ていると言いましたけど、この11ブランド個々に店長がいて、僕がその上に立っているというんじゃないんですね。

文字通り全部僕が直轄している……そう(笑)、仰る通り、逆に言えば、苦しいどころかマルチタスクでなんてとてもやれません。個々に役割と大きな裁量を与えないと、前に進めないし、同時にそれができたからこそ、現在のグループの成功があるんですね。

個人商店が企業になった。そんな風に考えてもらうと、一番わかりやすいかもしれません。

やがて組織は“自走”してくれる。時代にだけは敏感に

後はもう何と言うのかな、ここまで大きくなると、組織が自走してくれるようなところもあるんです。

最先端の部署なので、またキャスト面接を例に上げると、コロナ禍を受けて、最近は“オンライン”での入店が急速に増えているんですね。採用から入店の流れが全て画面越しで完結されて、もうその場でご在籍いただけます。

現在既に2割のニーズです。Webツールの進化と一般化は、今後止まることはないでしょう。僕らが進めてきた業務効率化も更に加速されていく。まさに“自走”。僕らはただ、時代にさえ敏感でいればいいのかなと……。

――個人商店は企業となり、キャスト面接官に代表される適材適所も進んだ。今や組織は“自走”してくれるようにさえなった。

そして「時代にさえ敏感でいれば」と語る通り、グループは現在、店舗運営に自社で開発した新たなシステムを導入しているという。次回最終回、そのシステムと今後の展望について、岡崎社長に訊ねた。

次の記事>>
見果てぬ夢 ~プラットフォーマーに。予約システム『ユメオト』~『夢見る乙女グループ』岡崎信二社長の回想 #3

岡崎 信二(おかざき しんじ)

三重県出身。風俗業界歴は22年を数える。大学中退後、2000年に26歳で『夢見る乙女』に入社。送迎ドライバーのアルバイトを経て3年目には社員に、5年目には『品川夢見る乙女』の社長となる。その後『人妻セレブリティ』ほか、数々の店舗運営改革に成功し、新規店立ち上げにも尽力。2022年現在11ブランドを統括する。48歳

執筆者プロフィール

松坂 治良

松坂 治良編集者・ライター記事一覧

小さな出版社などを経て、”誠実に求人広告をつくろう“という姿勢に惹かれ、現職に就く。数年来クラシック音楽と仏教に傾倒中で、最近打たれた言葉は「芸者商売 仏の位 花と線香で 日をおくる(猷禅玄達)」。……向き合った相手の“人となり”や思いを、きちんと言葉にしたいと願う、今日このごろです。

このエントリーをはてなブックマークに追加

連携NPOのご紹介

一般社団法人ホワイトハンズ様

一般社団法人GrowAsPeople様