“生電話”は、東京で勝つため、全国展開のための差別化 ~『熟年カップル』代表 伊藤氏#2~

2017年09月21日

by赤坂 五郎赤坂 五郎編集者

――大手風俗グループの役員という栄光を捨て独立したものの、転落の人生を歩むことになってしまった伊藤氏。これまでの経験から学んだことは、スピードと差別化が勝負の要であるということ。

これらの課題解決のために、伊藤氏は、2017年の冬の終わり、『熟年カップル』を名古屋で開業。半年も経たずに横浜に進出した。こうしたスピード経営については、初回『失敗と挫折がスピード経営の教訓となった』を参照されたい。

連載第2回では、伊藤氏がスピードのほかに重視する“差別化”にフォーカスする。供給過多と言われる風俗業界にあって、なぜ人妻・熟女店なのか。よそにはないユニークなサービスとして全国展開をもくろむ“生電話”の実情とは?

『熟年カップル名古屋』に在籍する女性は40代から60代で、人妻・熟女をコンセプトとしている。市場を見れば明らかにニッチだ。しかし、そこにはただ市場に迎合するのではなく、ビジネス的見地から考え抜かれた伊藤氏の確かな目的があった。

ニッチな人妻・熟女店で働く女性の意識から勝機を見出す

若い女の子のお店を運営していたこともあるんですが、人妻・熟女店で働く女の子は、仕事に対する意識が若い子と違うんですよ。

彼女たちには、「仕事とはこういうものだ」というベースがあるので、ビジネスとしてやりやすいですね。

確かに人妻・熟女店のニーズは高くありませんよ。でも、逆に若い子のお店、ビジュアル重視のお店は、競合が多いので体力勝負になりますし、稼ぎ頭が辞めてしまうと売上が激減してしまいます。

この年齢層を選んだのは、若い女の子に振り回されたくない。お店のナンバー1、ナンバー2が辞めても売上が変わらないお店作りをしたいというのもあるんです。

――「いい店の条件は、女の子が集まること」と言う伊藤氏。『熟年カップル』では、どんな方法で女性を集めているのだろうか。また、働く女性のモチベーションをどのように維持しているのだろうか。

時給保証で求人効果と女性の働く意識を高める

新規店は、何か強みがないと女性が集まりにくいんです。

熟年層と呼ばれる方に保証がつく店は、めったにありませんから、生電話というシステムを作つくって「時給保証」を付つければは訴求効果があると踏んだんです。

それに、どんなに繁盛しているお店でも、どんなに待機時間が長くても、無報酬で帰る女の子はいますからね。それをできるだけ何とかしてあげたいなと。

反面、お店側としては、運営コストを圧縮しなくてはいけないので、『熟年カップル』にはドライバーがいませんし、待機所もありません。お客さんからの電話は、ビジネスフォンではなくて、IP電話にインカムです。そこは、いかに効率よく回すせるかにこだわっていますね。

一方、女の子は待機時給が発生するので、“生電話”に出ることやブログの更新も仕事の一環として見てもらってます。これは女性の年齢によるところが大きいです。きっと20代の子だと全然違う状況でしょうね(笑)。

時給保証があるおかげで、出勤率は上がっています。開店当初の名古屋では、女の子の出勤率に対し集客が追い付かず、出勤をセーブしてもらうことがありました。また、「掛け持ち店を辞めてきます」と言う女の子がいて、「ちょっと待って」みたいなこともあったりするくらいでしたよ。

時給保証のアイディアは、思い付きと言われれば、思い付きかもしれないですけど、めっちゃ悩んで実行するので、やっぱり狙いどおりですね!

――女性求人という最重要課題を生電話という型破りのシステムで解決した伊藤氏。では、集客に対してはどのように考えているのだろうか。

一般的に風俗業界では、集客において費用対効果が高いとされる風俗店のポータルサイトがある。しかし、伊藤氏は、その存在に否定的だ。同氏は、そこでも、よそとは違う何かを求め、自社サイトでの差別化を強く訴える。

風俗ポータルサイトに依存しない。差別化しなければ成功しない

前々から風俗ポータルサイトに対する依存するという風潮が気になっています。正直、あの中で競争はしたくないですね。むしろ、そこから脱却したいというのが本音です。

お店や女の子のランキング、アクセス数で一喜一憂するのは、本来の目的とは言えない。大切なのは、お客さんや女の子に喜んでもらうことですよね。だから、僕は、ポータルサイトでのランキングやアクセス数を上げようなんてことは、スタッフにも女の子にも言いません。

本来はポータルサイトに広告を出さなくても、SEOや口コミで評価されて、自分たちのサイトに誘導できるか、依存してもらえるかが重要なんですよ。だから、オフィシャルサイトに、会員登録すると女の子に直接電話が利用できる“生電話”や口コミでキャッシュバックがあるといったアイディアを盛り込むんです。

大切なのは、ほかとの差別化です。どこともかぶらないキャッチコピー、これを売りにしよう! という機能やサービスがないと、経験上、うまくいかないですね。

――伊藤氏は『熟年カップル』の前身の店舗で、SNSを使って女性とお客が交流するサービスを提供していた。それは、他店がこぞってまねするほどだったが、一方で在籍の女性からはクレームが発生していた。

そこで、伊藤氏は、『熟年カップル』の“生電話”というサービスによって、この問題解決を図った。これには、全国に先駆けたユニークなサービスというだけでなく、実によく練られた伊藤氏の戦略があった。

ユニークなコンセプト“生電話”がもたらす効用

元々『熟年カップル』というキャッチーな名前を使いたくて、何年も前から寝かせていたんです。

でも、それだけでは面白味がないので、きっとうまく行かない。それに付け足せる何か、よそにはない何かを探していました。

ある日、当社のエンジニアから、IP電話で紐付けされた携帯電話に転送できるサービスについて教えてもらったんです。

これをお客さんからの電話で使えないだろうか、新店のセールスポイントとして合わせたら面白いだろうといろいろ考えて、今の形になりました。

仕組みは、在籍している女の子の携帯電話にIP電話の番号を割り振って、会員登録したお客さんが、そのIP電話の番号にコールすると、女の子の携帯電話に転送されて通話ができるというものです。

『熟年カップル』の前身のお店では、会員登録したお客さんと女の子が交流できるSNSを提供していたんですが、女の子からすると、何通も来るメッセージに返信、写メ日記を書くことがストレスになって嫌がられていたですよ。

でも、生電話なら通話時間が1、2分で自動的に切れるようになってますし、対応は勤務時間だけなので、クレームは全然ありませんね。

お客さんにとっては、スタッフに聞きづらいオプションの可否を女の子に直接聞けますし、「今どこにいるの? じゃ、すぐそこに行って予約するね」という話ができるようになったのは大きいですね。「ダミーがない」「ごまかしがない」というのがセールスポイントでもあるので、そういう意味でも大きい。

また、「しゃべった感じがいいから、その子で予約!」というケースもありますし、女の子選びのツールとして非常に手ごたえを感じています。

中にはビジュアルがそんなにいい子じゃなくても、トーンを高くして愛想よく話せば、指名につながることがありますので、まさに狙いどおりですね。

――インタビュー中に、伊藤氏は何度も「狙いどおり」と言う。それは、数多くの失敗と“めっちゃ悩んで”導き出した結果なのだ。

連載最終回は、伊藤氏が考える人材と組織、の仕事観や風俗業界に対する思いを語ってもらう。

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全国展開を目指す風俗店経営者のビジョン「人と組織と業界」 ~『熟年カップル』代表 伊藤氏#3~

伊藤

1982年生まれ。風俗業界歴15年。全国規模のデリヘルグループにて役員まで昇り詰め、独立。名古屋を中心に数々の風俗店をプロデュースし、全国展開を画策中。かつては、小中高と野球に明け暮れたスポーツマン。今も体を動かすのが好きでトライアスロンに参加するほど。そのトレーニングの追い込みようは、本人曰く「ちょっと変態」。

執筆者プロフィール

赤坂 五郎

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3人姉弟の長男として生まれたが、なぜか五郎と命名される。生まれながらにして、人生に疑問を抱きつつ、「all that jazz」に生きたい40代。落ち込んだときは、映画『ミニオンズ』に涙して復活。好きなキャラクターは、顔の長いケビン。

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