思いは、この地とともに~“境界”を繋ぐ人。『夜遊び情報館オアシス』タカムラ #3

2019年07月05日

by松坂 治良松坂 治良編集者

――新生『オアシス』が誕生したのは、ちょうど10年前。タカムラ代表はまだ20代だった

これだけ長く続けられ、令和の時代を迎えられた。きっと何もかもうまく行ったのだろうと思いがちだが、実際は逆だったという。

後一歩で自分を見失う。かつての彼は、それくらい苦しいところにまで、自分を追い込んでしまっていたのだ。……

「なぜ?」は、いつしかひがみに。誇りさえ失いかけた

2009年6月にスタートした新たな『オアシス』の歩みは、はた目には順風満帆だったと思います。27歳の青年社長ということでめずらしがられましたし、バイト時代の僕を知る以前の常連さんも、懐かしんで下さいました。

「タカムラ君? 帰ってきたの?」

売上も順調だったんですが、その一方で2014年には、またもAさんが業界内で金銭トラブルに巻き込まれてしまいます。その矢面に立った僕は、数千万円の借金を負ってしまうんです。

法人として全く新しく登記し直しているのに、案内所に対して「元あったオアシスのおかげじゃないか」という声さえ聞こえてきました。さらに数か月後の2015年2月には、Aさんも亡くなってしまいます。負債だけが残ったんです。

政策金融公庫に融資をお願いしたこともありました。そうなんですよ、僕もその辺りはまだまだ世間知らずだったんでしょう。借りられるつもりでいましたから。

断られてなお、戦ったぐらいです(笑)。

「夜のお店さんと関わりがある事業者さんに、貸すことはできません」
「じゃあスポーツ新聞はどうなるんですか。広告載ってますよね? 彼らにも貸さないんですか?」

しだいに僕の心は腐っていきました。夜の世界ゆえのトラブル、夜の世界ゆえの差別。「なぜだ?」という思いがいつか、「どうせ」というひがみに代わっていました。

親とも言えるAさんを失ったことも大きかったですね。仕事にも自分にも、僕は誇りを持てなくなっていたんです。

迷いの中で大学院に。新事業を始めるつもりだった

ならどうして事業を投げ出さなかったのか?……従業員がいたからですよ。学生のバイトなら逃げられたでしょう。でも僕は経営者です。そう簡単には辞められません。

すがるようにして僕は、大学の門を叩くんです。多摩大学の院で、もう一度経営を学ぼうと考えました。何かしら、自分に支えが欲しかったんだと思います。

その時は実は、夜の世界を離れて、新しい事業を始めるつもりでした。

「立派にやってきたじゃないか」。驚いた意外な答え

大学の時とは違い、院にはそれこそ、経営者さんだ部長さんだというような方がたくさんいました。正直、初めはコンプレックスを感じましたよね。

でも驚いたことに、別の事業を模索して院の門戸を叩いたのに、居並ぶ教授の誰1人として、僕の仕事を否定するようなことがなかったんです。中でも田坂広志教授は、こんな風におっしゃって下さいました。

「前の事業と併せたら君は、もう10年も自分の会社を存続させてるんじゃないか。一体何を卑下することがあるんだ?」

「新事業を始めろ」と言う方は、1人もいませんでした。その外からの意見、まして経営学を“教える”という立場の方々からの率直な言葉を聞いて、僕も「そうだろうか。本当にそうだろうか」と考えるようになったんです。

“歓楽街”と“一般社会”。壁をつくっていたのは誰か

ちょうどそんな時でした。そこの、2軒隣のモトハシ青果店の奥さんが、じっと僕の顔を見て、言って下さったんですよ。

「ウチらのような八百屋も、そこのタバコ屋さんも、タカムラさんのお店だって、みんな街の仲間だよ」

感動したか? いえ、感動とは違いますね。それこそ涙が出るくらい嬉しかったんですが、その時にいちばん感じたのは、自分自身の“傲慢”です。

僕自身が“歓楽街”と“一般社会”、“夜”と“昼”って分けていたんですよ。壁をつくって生きていた。

社会があって地域があって、この『オアシス』は営業できている。そこには夜も昼もない。青果店の奥さんは、それをよく知っていたはずです。

「地域に対して何ができるのか。僕こそ考えたことはあったろうか」

僕が思ったのは、そういうことでした。

「君の力が、五反田には必要」。言われたのはなぜか

さらなるご縁が、僕を後押ししてくれました。そこの通りに、岡崎写真館というのがあるんです。もう90年も営業されているんですが、そちらの伊與田社長から、五反田の異業種交流会(BNI)にお誘いを受けたんですね。

居並ぶ経営者の方々。伊與田社長は僕を、こんな風に紹介して下さいました。

「オアシスのタカムラさんです。彼の案内所のおかげで、五反田に来るお客様に安心して遊んでいただけます。タカムラさんの力、タカムラさんの存在が、この五反田には何としても必要です」

新宿・池袋と比べると、五反田は行政の配慮が遅れています。まだ客引きを撲滅できてはいないんですね。そのためにこそ『オアシス』の力が必要だと言って下さったんです。

これは嬉しかった。田坂教授の言葉を思い出しました。

「一体何を卑下することがあるんだ?」

意識の変化。経営を学ぶ理由も、さらなる地域貢献に

僕の考えは大きく変わりました。もともと『オアシス』の仕事は人や地域の役に立っていたのだと知ったし、経営を学ぶ理由は、さらなる地域貢献のためと意識が転換したんです。学業にも邁進した僕の修士論文は、大学院から優秀論文賞をいただきました。学位授与式で僕は、総代を務めるほどだったんです。

現在では警察署や区役所、議員さんに、積極的なロビー活動も行っています。やはり客引きはなくしたい。一掃には行政の力が必要です。

もちろん、自分たちでもSNSやWEBを通じた情報発信を行っていますし、毎月第四日曜日には『五反田駅前をきれいにする会』を通して、『オアシス』も清掃活動に携わっています。

環境美化にも犯罪を防ぐ効果がありますし、活動する方々の中に『オアシス』が入ること自体が、“夜”と“昼”を繋ぐ、ハブの役割を果たせばいいなと思っているんです。

“夜と昼”を越えて。『オアシス』の役割。僕の思い

ナイトメイヤー(夜の市長)という言葉があります。『オアシス』がその役を担えればというのが、今の僕の願いです。ここに掲載された風俗店は安全、ここに来て案内を受ければ、お客様は安心、さらに僕たちが、積極的に街に関わっていく……。

僕らの存在で、地域がさらに良くなっていけばという思いです。

大学院で2年学ぶ間に、本当に色んなことが変わりました。今では僕、行政の窓口でも経営者の集まりでも、「タカムラです。風俗案内所を経営しています」って、はっきり言いますからね(笑)。

実はこれは、笑いごとではないんです。こうして堂々としていると、周囲の自分を見る目も変わります。次々と縁が舞い込むんです。

2018年には、オアシスは『品川区環境浄化推進店舗』に認定されました。五反田に限らず、これはナイトワークに関わるお店としては異例でしょう。僕らの活動を、行政の側でも後押ししてくれているんです。やれることもやらなきゃいけないことも多いなって、身の引き締まる思いですよ。

今の僕には、正直もう夜だ昼だという思いはないんです。Aさんに導かれてやってきた五反田。人として経営者として育てていただいた五反田。僕はこの街に、もっともっと恩返しがしたい。

嬉しい声も、たくさん届きます。駅前にヒマワリが100本植えてあるの、ご存知ですか? あれも私たちの活動の一環なんですが、去年の夏、知り合いのキャストさんが、出勤前にこんなことを言ってくれたんです。

「夕方にこのヒマワリを見ると、私も今からがんばろうって思える」

――お気づきだろうか。

実はタカムラ代表は、生きづらさの遠因となったご両親のことも、トラブルを招いたAさんのことも、「どうせ」と誇りを失いかけた“夜の世界”の仕事と人々のことも、一度として悪く言っていない。

人を否定しないし、他を憎まないのだ。

だから彼は、自分の仕事だって低く見る必要など、最初からなかった。懸命にやってきたのだから、そのこと自体を誇りに思って良かった。

だが自分のことは、自分では見えにくいものなのだ。彼に誇りを取り戻させたのは、まず青果店の奥さんであり、写真館の社長さんであり、そして出勤前のキャストさんだった。その意味では正に、タカムラ代表は、五反田が育んだと言って良いのだろう。

今や全国を飛び回るタカムラ代表。『オアシス』の夜と昼、歓楽街と一般社会を繋ぐ“ハブ”としての役割は、今後ますます大きくなりそうだ。

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そこは華やかで、優しい場所で~“境界”を繋ぐ人。『夜遊び情報館オアシス』タカムラ #1

タカムラ

高知県出身。多摩大学大学院経営情報学研究科(MBA)修了。業界歴はバイト時代も合わせ、12年。経営する『夜遊び情報館オアシス』は、風俗案内所業務に留まらず、まちづくりにさえ関わる様々な活動を行っている。取り組みが評価され、『オアシス』は品川区環境浄化推進店舗に認定。「誰とでも話す」という姿勢から、代表にも業界の枠を越えた熱い期待が寄せられている。

執筆者プロフィール

松坂 治良

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小さな出版社などを経て、”誠実に求人広告をつくろう“という姿勢に惹かれ、現職に就く。数年来クラシック音楽と仏教に傾倒中で、最近打たれた言葉は「芸者商売 仏の位 花と線香で 日をおくる(猷禅玄達)」。……向き合った相手の“人となり”や思いを、きちんと言葉にしたいと願う、今日このごろです。

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