「前職は風俗店スタッフ! なぜNPO代表は風俗と出会ったのか」 ~一般社団法人GrowAsPeople代表理事・角間惇一郎さん#1~
2016年09月29日
――東京・西日暮里に、風俗で働く女性及び男性の支援を目的としたユニークなNPOがある―『GrowAsPeople』(通称:GAP[ギャップ])。
GAPは、特に年齢の上昇と共に引退が視野に入る“40歳の壁”と呼ばれる問題に注目し、風俗業界の卒業を希望する方のために店舗と連携した支援の仕組みを展開している。
そのGAPを率いるのが、今回の主人公・角間惇一郎(33)さんだ。元々ゼネコンのサラリーマンだったのだが、とある出会いから風俗店スタッフを経験。2012年にGAPを設立したのだという。
なぜ角間さんは、風俗で働く女性の支援活動を始めたのか。そこには、それまでの生き方を変えた、ある人物との出会いがあった。
逃げたい気持ちから課題意識ゼロで始めてしまったNPO活動
2005年から建設業界でのサラリーマン人生が始まったのですが、正直当時、「休み少ないなぁ」とか、「仕事よくわかんないなぁ」とか不満ばかり抱えていました(笑)。
結婚したのがわりと早かったので、不満はあっても働かなきゃいけないはずなのに、「なんかこの働き方ダサいな」みたいな浮ついた、浅はかな気持ちでいました。今はサラリーマンってものすごく清い働き方だなぁと思っていますけど……。
それでも当時は、なんかこのままじゃかっこ悪いなぁって気持ちだけは先走っていて、なんかやらなきゃみたいな焦りがあった時期でした。
そんな気持ちを見事にこじらせてしまい、2010年に休日を活かして地元のまちづくりに取り組むNPOを立ち上げました。自身の専門領域が建築関連だったからという理由なだけで、特に解決したい課題があったわけではありません。正直に申し上げて、“ファッション”です。
当時住んでいた(埼玉県の)越谷市が、まちづくり活動に助成金を出すというのを知ったんです。
世相として、エコ関連の社会活動への関心が高まっていて、マイバッグとか、プリウスとかが売れていたんですね。だから、その流れに便乗して、「子供服のリサイクルの仕組みで、地域を活性化します」とプレゼンしたら、お金を頂くことになり。
その流れで、新聞にも取り上げていただいたり、地元の経営者の方々とも仲良くさせていただいたりしていました。とても光栄な一方で、これは決して実力なんかじゃなくて、ただ変なことをやってる人があんまりいなかっただけでしょうけど。
でも、今振り返ると、ただ逃げていただけですね……。
(本業のスキルアップとか)やらなきゃいけないことは、ほかにもたくさんあったはずなのに、だれかの役に立てそうなことに取り組んでさえいれば、手っ取り早く自己肯定感を得られる気がするなぁと。
本当に浅はかですね。それで、課題意識ゼロでまちづくりっていう……。今思うとホントそんなことやらないで、「いいから仕事しろ」と言ってやりたいです。
――鬱屈したサラリーマン生活から逃げるようにして始めたNPO活動。しかし、解決したい課題が明確にあったわけではなく、“ファッション”としてやっていたと角間さんは正直に語る。そんななか、角間さんはその後のジンセイを大きく変えるある人物に出会うことになる。
同い年の風俗店オーナーとの出会いが意識を変えた
まちづくり関連のイベントをやる際は、SNSで集客していました。
毎回手当たり次第に声がけしていたので、だれが来てくれるかとか意識していなかったのですが、2010年に行ったイベント後に、とある参加者の方から「今日のイベント面白かったです。僕は風俗店のオーナーをやっています」と言われたんです。
一瞬、固まりましたね。風俗って言われて。「はぁ……」みたいな(笑)。
とは言え、とてもていねいに話しかけていただいたので、そのまま駅前のマックでお話をすることになり……。すると、こう言われたんですね。
「キャストさんとコミュニケーションをとっていると、なにが良くてなにが悪いかわからなくなる。
学歴がない、借金がある、シングルマザーだとかいう一方で、月に100万円以上稼いだりする。でも、その金を全部、ホストやら買い物につぎ込んじゃったりするし、寮のシャワー室を血まみれにされて、失踪されたりとかもあったり……。とにかく日々いろいろある。
ただ、毎日そんな話を聞くものだから、感覚的に「このままだとマジで日本ヤバいんじゃないの?」って最近すごく思うんだよね。
だからNPOのイベントに今日来ました。NPOっていいコトやってるんだよね?」
この方は同い年だったんですが、自分と同じ年齢の人が、“日本”というスケールで明確な問題意識を持っていて……、ただただショックでしたね。
自分の今までの恥が、一気に顕在化しましたよね。「なんとかしなきゃな」っていう使命感も、危機意識も、原体験も……なにもないのに、NPOをやって、「だれかの役に立ってます」ってことを勝手に誇っていて。今までの浅はかさが本当に恥ずかしくなったんです。
この出来事があったのが2010年の7月27日。そしてその翌々日に、あの「大阪二児遺棄事件」が発覚するんです。今でも「すごいタイミングだったなぁ」と思います。世間的には、「風俗嬢が子供を置き去りにした」っていう事件として扱われていましたね。
あの事件を考えると、いまだに「なにが問題で、なにがあれば防げたのか?」とばかり考えてしまうんですけど、「こうした事件を防ぐ手立てや仕組みの設計をすることはできないものかなぁ」って……。ずっと、もやもやが残っちゃって。
風俗店スタッフ―タイミングの連続が導いた場所
その3か月後くらいに、勢いでサラリーマンを辞めました。
でも、「夜の世界にいきたいから辞めます」っていう、そんなのでは全然なかったんです。実は、僕が勝手に会社と上手くいってなかったのもあったりして……(笑)。こちらもタイミングだったんでしょうね。
それで話を元に戻すと……、なんらかの仕組みが必要なことに気がついた自分がいたけれど、キャストさんのことだけでなく、業界のことも、なにもわからない自分がそこにいて。
まず、「現実を知らなきゃいけない」と思うのですが、自分でキャストをやる訳にはいかないし、ホストって仕事もあるけれど、業界を考えるための立場としてはちょっと違う立ち位置だなぁと。そう考えると、「スタッフの立場を経験してみるのが早いのかなぁ」って。
それで、先ほどの同い年のオーナーさんに電話したんです。「仕事を辞めました。一緒に、なにかできませんか?」って。
そしたら、「うちに来てみる?」と言われて。そのまま会って、デリヘルの受付や待機所を案内してもらいました。店長さんやスタッフさんとも、ちょっと話し込んだりして。
そこからですね。風俗店の現場で、働かせてもらう機会を頂くことになるんです。サラリーマンを辞めて、収入を得ないといけないというのもあったんですけどね……(笑)
――2010年。運命的とも呼べるタイミングの連続が、角間さんの意識を変えていく。続く第2回では、角間さんが“夜の世界”で信頼と自信を勝ち取り、GAPを立ち上げるまでの歩みについて語っていただく。
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「“夜の世界”は人がキーワード! 現場で向き合うなかで⾒えてきたもの」 ~一般社団法人GrowAsPeople代表理事・角間惇一郎さん#2~
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角間惇一郎(かくまじゅんいちろう)
1983年、新潟県生まれ。建設業界で働いていたが、2010年の「大阪二児遺棄事件」に衝撃を受け、夜の世界で働く人の孤立を防ぐ事業を始めたいと思い、脱サラ。2012年、『一般社団法人GrowAsPeople』を設立。東京都荒川区を拠点に活動する。性風俗産業にかかわる女性たちのセカンドキャリア支援、のべ数千人に上る実態調査による統計算出などに取り組む。
一般社団法人GrowAsPeople:公式サイト
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