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人と関わることは苦手なんだと思い込んでいた

人と関わるのが苦手というより嫌いだったので、トラックの運転手をしていたんです。気楽でしたよ。誰とも話さずに１日が過ごせるのは。

ダイニングバーで働いていたこともあります。ホールじゃなくてキッチンです。人と関わりたくないから（笑）。これでもフライパン振ってたんです。パスタなら何種類ぐらいできるかな。レトルトのソースでも、ちゃちゃっとアレンジしてオリジナルにできます。料理は今でも得意ですから。

当時、キャバクラぐらいは行ったことあったんですが、風俗は行ったことがなかったですね。偏見はありませんでしたけど、この業界に興味がなかったというのが本音です。ツレに声を掛けてもらうまでは。

『アマテラス』に幼馴染がいて、彼とは小学校からの付き合いなんです。大人になって別々の道を歩いていたのですが、ある日ひょんなことから、彼に誘われたんですね。もう10年ぐらい前の話です。

ウチは老舗の部類で、キャスト100名を抱える人妻店。見た目だけでお客さんがついても、結局サービスがイマイチならリピートされないので、接客とサービスで他と差がつくように心がけています。

結果として、ルックスよりもサービスが良いほうが長くお客さまに愛していただけますので、どのキャストさんに入ってもハズレがないように、しっかりお願いしています。

スタッフ同士の雰囲気は、めちゃアットホームですね。遊んでいるときはゲームの話をしたり、ふざけあっていることもあります。服装規定も厳しくないので、お客様の前に出て失礼の無い服装ならある程度許容しています。働きやすい環境づくりには気を配っているつもりなので。

人と関わることしかない仕事で、変われた自分に気付く

4年ほど前に店長に昇進しました。スタッフ時代より責任が増えたぶん、やりがいもあります。

今は、常に全体を見ながら仕事することを心がけています。1つのことに集中しちゃうと、べつのことを忘れてしまいがちなんですね。最近もキャスト募集の面接時間を間違えて、あやうくダブルブッキングするところでした。幸いお一方リスケを希望されたので助かったのですが、一瞬焦りましたね。

仕事で心がけているのは、やっぱりキャストさんへの気遣いです。まだまだ十分できていると胸を張れないのですが、気持ちの浮き沈みや、お給料のこと、プライベートまで考えて、気を配ってあげたいと思っています。

くだらない会話もしますけど、「この間の日記、よかったよ」とか「お客さまのアンケートにこんなこと書いてあったよ」とか、こちらからひと言声を掛けてあげたら、相手が話しやすいように聞き役に徹するようにしています。

細かくコミュニケーションを取っていると、彼女たちの変化にも気づいてあげられます。まずは相手の心を溶かす会話から入って、次第に深いところを引き出してあげる感じですね。

心理学みたいですか？　いいえ、ただの経験則です。これまでの成功例と失敗例を覚えておいて実践しているだけ。普段から相手のことをきちんと考えてあげることも大切です。キャストさんの写メ日記を読んで、プライベートを頭にいれておくことにもきちんと時間を割くようにしています。

この業界は、人と関わることしかない仕事です。入社当時“コミュ障”なんて言葉はなかったと思うんですが、人に関わることが苦手だとか嫌だとか言ってられなくて、気がついたら今に至る感じ。あっという間でした。

こんなに自分が前向きに仕事に取り組めているなんて、あの頃の自分なら考えられないんじゃないでしょうか。案外、人と関わる仕事のほうが自分にあってたんですね。やってみないとわからないことって、あるんだなって思います。

それに今、こうして取材を受けながら話をしていますが、昔の自分だったら何も言えなかったと思いますよ。自分が変われたのは、この仕事のおかげなんです。

店長の仕事は、みんなが気持ちよくいられる“緩衝材”

振り返ってみると自分の性格って、人と関わるのが苦手というよりも、自分のことを表現するのが苦手だったように思うんです。相手と関わる上で、相手の話を聞いたら、こちらからも同じぐらい話をしなきゃいけないと思っていたから、それが辛かったのだと思います。

先程、会社に幼馴染がいるって言いましたけど、彼と話すのが苦じゃないのは、子供の頃から知っているので、お互いさらけ出さずとも通じる部分があったからだと思います。

たとえば女性って話を聞いてほしいだけのことってあるじゃないですか。だから基本的にキャストさんの聞き役に回るいまの仕事は、自分に合っているのだと思います。スタッフの意見を聞いたりするのもそう。もちろん失敗もありますけれど、自分の意見を言うより人の意見を調整するほうが得意みたいです。

つねに緩衝材でありたいと思っています。私から「こうしろ」と強く言うことはせず、人の意見がぶつかるところを受け止めて、それぞれの落としどころを探るような立場です。ときには、いじられ役でも場が和むなら構いません。スタッフやキャストさんへの気遣いをしながら、みんなが働きやすい職場作りをするのが、店長の仕事だと思っています。

将来の夢は、たくさんの人が集まれる“居場所づくり”

コミュニケーションを取るのは苦手だと思っていましたが、決して内向的というわけではなく、もともと性格は前向きなほうなんです。あまりへこたれることはなく、ただ逃げていたかっただけなんだと思います。いまは「メンタル強いよね」って、よく言われますから。

腹の立つことは、とりあえず1回飲み込んで、自分のやるべき仕事を黙々とこなして、飯食って酒飲んで、家に帰って寝ちゃえば次の日には「たいしたことないや」と思えるか、あるいはすっきり忘れられる。便利な身体なんです（笑）。

将来の夢ですか？　いいクルマに乗りたいとか、いい時計がしたいとか、一般的な普通の贅沢がしたいと思うこともありますけれど、まずは両親に恩返しがしたいですね。若い頃、けっこう迷惑を掛けたので。

仕事面では、そうですね……。女の子へのアドバイスが、もっと上手になりたいです。うまく言えないんですが、キャストさんの売上を増やしてあげるには、どうすればいいのかを、ちゃんと伝えてあげられるようになりたい。

単にお客さまをいっぱい付ければいいというものではありません。接客術とかサービスとか、リピーターさんを増やすためのテクニックを、どうやって身につけてもらうか、それをどうやって説明するか、男性スタッフが手ほどきするのは本当に難しいことです。

女の子が稼げれば、お客さまも増えて、お店も潤う。お店が増えて、会社も大きくなる。みんながいい方向に向かえます。そうやってキャストさんには、常にいい形で卒業してもらえることが一番の幸せというか、私自身にとっても夢なのだと思っています。

「この店でよかった」って、みんなに言ってもらえる店作りがしたいです。

会社が大きくなったら、他の業種にも展開できたらとも思います。昔やってたようなダイニングバーでも、焼き肉店でもいい。いまの仲間が仕事終わりに集まれる居場所作りがしたいです。

みんなでワイワイやることが好きなのだと、気づいたのもこの業界に入ってから。その代わり、1対1は、まだ苦手かもしれません。だからいまだに独身なんだと思います（笑）。

（インタビュー：安倍明）

取材後記

執筆者

池田 かずゆき

若い頃って、なんとなく斜に構えてみたり、勝手な苦手意識をもってしまうことがあると思います。「あれは無理」「これは嫌い」と食わず嫌いしてきた自分にとって、響く言葉の多いインタビューでした。上永さんのように、いつの間にか殻を破り人として成長できたのは、そこに気づいたからこそ。とにかくがむしゃらにやってみることで、開ける扉はあると感じました。