「止まってはいけない。だからこそ生まれるダイナミズム」~『Smappa!Group』手塚マキが考えていること #2

2019年04月08日

by松坂 治良松坂 治良編集者・ライター

――ホストクラブ、レストラン、バー、美容室に書店と、多業種で成長を続ける『Smappa!Group(スマッパ! グループ)』。

内勤や専門職で求人に応募する若者は特に、ホストクラブ、一般企業という“括り”の意識を持たず、「ここで何かおもしろいことをしたい」と思ってやって来るという。

「若い子に応えてあげたい」と語る手塚マキ会長(41)に、今後の事業展開について聞いた。

なぜ、介護だったのか。できると思えたのか

新事業という意味では、2018年、そして今年2019年というのは、『Smappa!』にとって、チャレンジの年です。

昨年12月にオープンした『新宿デイサービス早稲田』がそれですね。通所介護事業を始めました。

ホストクラブから介護の世界にと言うと、皆さん驚かれるみたいで……。そう、そんな感じの表情をされます(笑)。

「結びつきますか?」とか、もっと露骨に「できるの?」とかですね。

でも僕自身は、介護事業に乗り出すことに、ためらいはなかったんです。

前回もお話しましたけど、ホストというのは、ホスピタリティ(もてなし、心づくし)という点では、最前線にいます。気持ちに寄り添い、共に悩み、ケアをする。

この特性を別の事業として活かすのに、例えばバーやレストランがありました。美容室やネイルサロン、書店もありました。他にない接客と、培ったイベント力で個性を発揮し、好評を得たのが『Smappa!』だったわけです。

僕たちのホスピタリティをさらに発揮できるものこそ、まさに介護ではないかと思ったんですね。

老いにあらがい、認知症に苦しむ方の気持ちに寄り添ったり、機能訓練によってリハビリに励む方の伴走者となったりというのは、心づくしと人間力抜きには、成り立たないはずですから。

ホストの“セカンドキャリア”。戦略は、多面的に

また、お客様の側だけではなく、この事業は僕たちにも大きなメリットがあると思いました。それは、ホストの“セカンドキャリア”という側面ですね。

先日、ウチのヒナタが御社のVOICEでインタビューを受けさせていただきましたけど、店長の彼も、元々はホストでした。一旦辞めて、プレイヤーからマネジメントする側として戻ってきたわけですよね。

ホストというのは、なかなか長く続けるのが難しい職業です。これも前回触れましたけど、お客様の感情を“もらってしまう”という面での気持ち的なツラさがありますし、また“華”という面でも、若い子には勝てない部分が、出てきがちなんです。

ですから今までも、マネジメントという形でホストクラブに戻って来たり、企画・マーケティングという形で社の内勤業務をするという選択肢がありました。だけど、せっかく身に付けたホスピタリティじゃないですか。また新しく、別の道ができたって良い。

しかも、どこよりも過酷な現場で磨いた対人スキルなわけですよね。介護の現場で、きっと活かせると思うんです。

今までにないデイサービスにできる。その理由

もちろん、“やる”となった以上、『Smappa!』らしさは出して行きたい。例えばウチにはデザイナーやカメラマンがいますけど、社にこうした専門職を置いたのって、ホストの業界ではたぶん、僕らが初めてだったはずなんです。

恐らくみんな、そんなものはいらないと思っていたんですけど、僕らは違いました。アピールの面でも戦略という点でも、自社に専門職を置いた方がクオリティが高くなるし、効率だって良いんです。

なので、その強みは介護事業でも最大限活かします。スタイリッシュで魅力的なWebサイトをつくって、利用者のご家族、ケアマネージャーさん、そして求職者の方にも「カッコイイな。今までにないな」と思っていただけたら、それだけで差別化になるじゃないですか。

そして事業が軌道に乗り、本当にどんどん元ホストがセカンドキャリアとして働きだしたら、利用者の方々は、皆さんきっとびっくりしますよ(笑)。ホストはイケメンが多いし、何よりウチにはマナー研修までありますから、振る舞いはみんな紳士です。女性のご利用者は、特に喜んでくださるんじゃないかな。

最後はイベントですよね。在宅ではなく通所ですから、利用者には「通いたい」と思っていただかなくてはならない。「いつ行っても一緒」だと、やはり飽きてしまうと思うんですね。機能訓練で通う方だって、リハビリだけではやりがいを持てないでしょう。

僕らはたくさんのイベントを行ってきましたから、この辺りはお手のものだと思っているんです。利用者も職員も、ご家族も巻き込んで、楽しい空間・場所にできたらなと、僕はそんな夢を描いているんです。

リソースは人だけ。そこから生まれるダイナミズム

もちろん、これから『Smappa!』への入社を希望する方は、介護にこだわる必要はないですし、当然ですけど、元ホストじゃなきゃいけないわけでもありません。極端なことを言うと、僕はどなたでも構わないと思っているんです。

どんな事業をやるにしても、僕たちの芯にあるのはやっぱり“人間”。そして人間やホスピタリティというのは、誰だっていつだってイチから学べるし、ここに来るまでに、既に学び続けているものだとも言えますよね。可能性は、みんなにあるんです。

同時に僕たちみたいな商売は、止まることができないんですね。ホストクラブ1つとっても、単純にマーケットが大きくなっているし、利益を上げるリソース(資源)となるものが人しかないんで、企業として成長していくしかないんですよ。

停滞は、即衰退になります。イベントも新事業も、どうしても必要になってくる。

そしてこの新事業の必要性に、人としてのやりがいやセカンドキャリアの模索、社会に向けた新たなホスピタリティの可能性、色んなものが絡むと、ダイナミズムが生まれるんです。

そう、ワクワクしてくるでしょう? 個々の事象だけ取り出すと、下手すればこう、暗くなりがちなのに、新たな事業として昇華させようとすると、途端にワクワクできる。不思議ですよね。

なぜ、『Smappa!』にはできるのか。何が魅力なのか

どうして僕たちは、そんなワクワクをつくれるのか? シンプルに聞きますね(笑)。そういう問われ方がいちばん難しい。

それはやっぱり“人”で始まったから、内でも外でも人がおもしろくと考えているからという言い方にはなるんですけど……。強いてあげるなら、『Smappa!』には無意味なルールが一切ないですね。

例えばウチは、出社時間が決まっていません。何時に帰らなければいけないということもない。外部との商談、お店のオープン時間、内部での会議という形でのスケジュール管理は必要ですけど、言ってしまえば、周りに迷惑をかけず、きちんと仕事ができてさえいれば、時間は自由です。

意見だって、どこから出たって良い。前回お話した『人間レストラン』だって、振り返ると「誰の発案だっけ? どこから出てきたんだっけ?」という感じなんです。社の誰かが、「おもしろそう。やってみたい」って、企画を出したんですよね、きっと。

でももう、誰もそれがどこから始まったのか、覚えていなんです。忘れてしまっている。

既に前に進んでいるからなんですね。“誰が言い出したのか”“どこから出てきたのか”は、もう知る必要がないんです。進んでいる事業だから、成功させるために動くだけ。

次に何を言い出すか、また新たに出てくるかの方が、企業にとってはずっと大切です。だから『Smappa!』には、意味のない取り決めがない。いつでも頭を柔らかく、自由にしておきたいから。

ここに応募に来た子から話を聞くと、学校を出て社会人になって、「こんなはずじゃなかった」と、思っていたと言うんですね。そんな中でWebサイトを見たり、僕らがマスコミに取り上げられたりするのを見ると、単純にいいなって、『Smappa!』楽しそうだなって、思うんじゃないですか。

気持ちがわかるとは言わないですけど、似たような子がまたウチに来たら、話は聞きたいですよね。力になりたい。居場所にできるなら、こちらこそありがたいですよ。きっと秘めた思いやエネルギーはあるのに、不自由を感じているわけですからね。

そのためにも僕らは、止まれないんです。成長し続けるしかないし、きっと、し続けます。

時間ギリギリまでお話を聞かせてくださった手塚会長。よほど懐かしかったのだろう。最後にもう一度自著を手に取ると、驚いて声を上げた。

「え? これ、図書館の本なんですか?」
「……はい。品川区の図書館で借りてきました」
「僕の本が、図書館に置いてあるんですか」

その言葉を聞いて、逆に僕の方こそ驚いた。手塚会長は、自分のすごさが全然わかっていない。自分をすごいヤツだなんて、微塵も思っていないのだ。

きっと、だからなのだろう。だからこそ色んな人に、言葉が届くのだろう。

ホスピタリティを体現する『Smappa!Group』の躍進は、当分続きそうだ。

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手塚 マキ(てつか まき)

埼玉県出身。中央大学在学中の1997年に歌舞伎町のホストクラブで働きはじめ、1年後にはNo.1に。2003年、26歳で独立。現在はホストクラブ6店のほか、バー・レストラン・美容室・ネイルサロン・書店と多彩に事業を展開。2018年12月には『新宿デイサービス早稲田』をオープン。通所介護事業に乗り出すなど、ホスピタリティに根ざした試みは、常に高い注目を浴びている。

執筆者プロフィール

松坂 治良

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小さな出版社などを経て、”誠実に求人広告をつくろう“という姿勢に惹かれ、現職に就く。数年来クラシック音楽と仏教に傾倒中で、最近打たれた言葉は「芸者商売 仏の位 花と線香で 日をおくる(猷禅玄達)」。……向き合った相手の“人となり”や思いを、きちんと言葉にしたいと願う、今日このごろです。

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