「カギは、いつだって人。心づくしが、事業を育んだ」~『Smappa!Group』手塚マキが考えていること #1

2019年04月01日

by松坂 治良松坂 治良編集者

――2003年の創業以来、歌舞伎町のホストクラブを皮切りに、ジャンルにとらわれない多彩な事業展開を続ける『Smappa!Group(スマッパ! グループ)』。

会長の手塚マキ氏(41)にお会いできるということで、前の晩に著作を読んだ。

自分をあきらめるにはまだ早い』(ディスカヴァー・トゥエンティワン,2009)

飾りなく綴られた、30代前半までの自伝。ホストとして歩んだ自分と、経営者としての迷いと決意……。

正直、困った。これほどのものを、既に世に問うている人。そして自分自身が、これだけメッセージ性の強い言葉で、ものを語れる人。

このうえ何が聞けるだろう? ありきたりのことしか聞けない気がした。

眠られないままに朝起きると、ダイニングで手塚氏の本を読む妻が、涙ぐんでいた。感動しているのだ。

「すごいね、この人。こんなすごい人に、今日会えるんだ」

そうか、と思った。打たれた本の著者に会える人が、世の中にどれほどいるだろう? まず、そのことを喜ぼう。その方がきっと、僕や妻が受けた感動にも、ふさわしいはずだ。

それでもやっぱり、僕は緊張していた。実際に手塚氏に会い、直接お話を伺うまでは。

試行錯誤の日々。事業はホストクラブに留まらなかった

こんばんは。まあ、ずいぶん古い本をお持ちいただいて(笑)。

懐かしいな。良いですか? ちょっと読んでも。

この本はね、当時店にいた若いホスト達に、僕の思いを伝えたいというのもあって、それで書いたんですよ。

ご存知かもしれないですけど、今僕たちがが経営するホストクラブの数は、この時より増えました。全部で6店舗あります。

……ええ、おっしゃる通りです。ホストクラブ以外にも、レストランやバーは10近く、他に書店・美容室・ネイルサロン、昨年12月には介護事業も始めました。創業から16年、人には順風満帆に見えるでしょうけど、僕も試行錯誤の連続で、その中に、お持ちいただいたこの本もあったということですね。

ここに劇的な変化はない。ホストの役割は“ケア”

事業を横展開できた理由? それは僕は、実はすごく単純で、かつ『Smappa!』だからこそできたことだと思っているんです。

大学を中退してホストをしていた僕が、2003年に自分の事業としても新しくホストクラブを始めたわけですけど、ここは訪れたことによって、お客様の人生が変わるような、劇的な何かがある場所ではないんですね。

お客様である女性は、ここに癒しを求めに来る。ホストの役割は“ケア”なんです。

安心感を得るというのもそうですし、何ていうんだろうな、彼女達が、自分の存在価値を見出したり、取り戻せる場所なんですね。

だからホストって、長期的に考えた時にはすごくキツい職業なんですよ。ホスト自身にとっては。

お客様は皆さん、大なり小なりの差はあるけれど、“気持ち”を何とかしてほしいと思ってやって来る。そしてホストは、そのお客様の感情にコミットするんです。

なので、すごく“もらっちゃう”んですよ。ツラい気持ちを抱えている方が来たら、自分もすごくツラい気持ちになっちゃう。悩んでいる方がいたら一緒に悩んじゃうのが僕らの仕事で、正直長く続けるのはたいへんなんです。

続けられるホストというのは、本当にハートが強かったり、気持ちの切り替えが上手な子ですね。例えば福祉で言うデイケア施設なんかでも、長くやっている方がいますよね。そういう方はきっと、心のバランスの取り方が、上手だと思うんです。

僕は、そうではなかった。

いったい何を、事業として広げたのか

指名No.1の僕から聞くのは意外?(笑) いや、ツラかったです。

お金を稼ぐ稼がない以前に、すごく相手の気持ちにシンクロしちゃうんで、今から振り返れば、だからお客様の信頼を得られたし、No.1という結果も付いてきた。そしてその後の事業展開もあったとは思うんですが、長く続けられる性格ではなかったですよね。

ただ、それがツラくてホストクラブの経営に回ったのか、他の事業展開に繋がったのかというと、それは全く違います。

さっき言った“『Smappa!』だからこそできた”というのはそういう意味ではなくて、ホストが日々行っている“ケア”の部分ですね。

感情にコミットし、気持ちをもらい、心をケアするというホストクラブという業種。キツいからこそとは言いませんけど、このホスピタリティ(もてなし、心づくし)というのは、事業として必ず横に広げられると思ったんです。

「ウチらの武器は、人だよね」。揺るがぬコンセプト

成功という言葉は使いたくないので控えますが、実際ユニークな、この会社だからという展開は、できたと思っています。

『歌舞伎町ブックセンター』なんかは、良い例ですよね。ホストクラブのメッカであり、僕たちの創業の地でもある歌舞伎町で、あえて愛を問う書店をオープンしてみる。そしてその接客を、ホストが行う。

『人間レストラン』なんかも同じです。これからロボットやAIは、ますます世の中で台頭していくでしょう、当たり前になるでしょう。そこに対して「ウチらの武器は人だよね」と言っているだけで、本質的なコンセプトは動いていないんです。

・・・・・・『ロボットレストラン』の目の前にあるのがおもしろい?(笑) ありがとうございます。まさにそういう、何と言うのかな、イベントにしてしまうというか、ちょっとした遊び心、ユーモアの感覚も、僕らは大切にしてきました。それこそ人間力、ホスピタリティじゃないかって。

“ハレ”と“ケ”。内にも外にも、イベントがいる

イベントという意味では、僕の方針で、『Smappa!』には様々な“舞台”も用意されています。

こちらはお客様のためというよりは、むしろホスト自身のためですね。ほら“ハレ(非日常)”と“ケ(日常)”という言い方をするでしょう?

ホストって、実はずっとお客様にハレを提供し続けているんです。それこそ毎日毎日。お客様は日常を忘れたくて、ここに来ているわけですからね。

だから僕は、ホストである彼らにも、彼ら自身の“ハレ”の舞台を用意してあげたくて。

……ええ、そうですね。その本にもある“夜鳥の界”なんかもその1つと言って良いかもしれない。もちろん歌舞伎町への恩返しという側面もあったんですけど、“総出で街を掃除している”となれば、ホストに偏見のある人でも見方が変わってくるし、実際この10年で、周囲の目はずいぶん変わりました。

会社に色んな人材が入ってくるのを見ても、それはすごく実感しています。「ここでおもしろいことをしたい」という子が確実に増えましたから。

今僕、みんなで短歌会なんかも開いたりしているんです。ホストが集まる短歌会。1人ひとりが短歌を詠むんですが、これだって彼らの“ハレの舞台”のつもりです。おもしろいでしょう?(笑)

女性と接する職業だからですかね、感性が豊かになるみたいで、なかなかの歌を詠みますよ(笑)。自由参加なのに、けっこうみんな集まってくれて。やっぱりお金を稼ぐ稼がない以外のところでの“ひのき舞台”というのかな。そういうものを、彼らも求めているのかもしれない。

どうしてここなのか。若者の志望動機

僕はホストでしたし、最初に経営したのは、ホストクラブです。

ホストのツラさとともに、“だからこそ”のホスピタリティもわかるから、内に向けてはたくさんのイベントを用意して、彼ら自身の“ハレ”を演出する。そして外に向けては、ホスト事業を核とした、色んな展開がありえたわけです。

いつもあったのは、“人”ですよね。おもてなし、心づくし。それはここだから、歌舞伎町であり、始まりと芯がホストクラブであるために、できたことだと思っています。

なので僕は、ホストクラブを辞めようとか、手離そうなんて思ったことはないんです。おこがましいですよね、そういう発想は。自分を否定することにだってなりかねない。僕は誇り高いホストでしたし、生きてきた道に、後悔は微塵もない。

みんなにもそうあってほしいし、そうでなければ、こういうワクワクできる展開はありえなかったと思うんです。さっきも少し触れましたけど、そこに座っている女の子みたいに(笑)、今は「ここでこんなことをしたい」っていう子も、多く集まるようになりました。

ホストになりたい子とは別に、そういう子はたぶん、一般企業と変わらない動機で求人に応募してきているはずで……。いや、この言い方は少し違うか。

何と言えばいいかな。そうですね、ホストクラブとか一般企業とか、そういう括りはきっと、この子達にはもうどうでも良いことなんですよ。

『Smappa!』なんだと思う。『Smappa!』で、何をしようか。そういう思いでここに応募してくれる子が増えてきて、縁をいただいた以上僕は、会長としてそんな若い子に応えてあげたい。

今の僕の、正直な思いです。

実は取材後にトークイベントを控えていたのだが、それにも関わらず、こちらの緊張をほぐすように、丁寧に丁寧に思いを語って下さった手塚会長。

『Smappa!』だからできた、ホスピタリティに根ざした事業展開。ホストを含めた、若い社員たちへの愛情……。

「もう少し、お時間をいただけますか」

お願いして、「若い子に応えてあげたい」とする事業の中味や今後の展開について、さらにお話を伺った。続きは連載第2回で。

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「止まってはいけない。だからこそ生まれるダイナミズム」~『Smappa!Group』手塚マキが考えていること #2

手塚 マキ(てつか まき)

埼玉県出身。中央大学在学中の1997年に歌舞伎町のホストクラブで働きはじめ、1年後にはNo.1に。2003年、26歳で独立。現在はホストクラブ6店のほか、バー・レストラン・美容室・ネイルサロン・書店と多彩に事業を展開。2018年12月には『新宿デイサービス早稲田』をオープン。通所介護事業に乗り出すなど、ホスピタリティに根ざした試みは、常に高い注目を浴びている。

執筆者プロフィール

松坂 治良

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小さな出版社などを経て、”誠実に求人広告をつくろう“という姿勢に惹かれ、現職に就く。数年来クラシック音楽と仏教に傾倒中で、最近打たれた言葉は「芸者商売 仏の位 花と線香で 日をおくる(猷禅玄達)」。……向き合った相手の“人となり”や思いを、きちんと言葉にしたいと願う、今日このごろです。

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