『俺の旅』編集長 生駒明の『平成風俗史』~#8:若者から高齢者まで。世代別に多様化するユーザーニーズと風俗業界の生存戦略

2019年12月11日

by生駒 明生駒 明編集者・ライター

前回は年代の広域化や、素人化が進むなど、働く女性の多様化を紹介した。

今回は、“草食系男子”と呼ばれるおとなしい若者たちや、いつまでも元気旺盛な高齢者の実態などを踏まえながら、平成期における風俗に通うユーザーの遍歴について考察していきたい。

そこには、女性同様に多様化する社会において、昭和期に賑わいを見せた“大衆店”のような店舗運営では、生き残ることが難しくなった現代の風俗業界の姿があった。

テクノロジーの進化と、娯楽の多様化が若者の風俗離れを加速させる

風俗業界を知らない一般の読者は、風俗で遊ぶユーザー層といえば、若くて精力盛んな20代、30代が最も大きなボリュームゾーンだとイメージするのではないだろうか。

しかし、それはもはやステレオタイプ的な考えであり、業界で叫ばれるのは“若者の風俗離れ”の深刻さだ。

平成という時代は、テクノロジーが急速に発達した。ウェブの発達と、スマートフォンの普及により、いつでも、どこでも、誰でも、簡単に情報が手に入るようになった。

さらに、昨今ではサブスクリプションでアニメや映画、音楽を常に見たり、聞いたりすることができる。娯楽の多様化により、風俗で遊ばなくても十分有意義な時間を過ごせてしまうのである。

風俗業界に限らず、今後は余暇に使うお金は個人個人でさらに細分化されるはずだ。いかにエンターテイメントとして、時間とお金を使うに値する魅力をつくれるか。それがこれからの業界の課題である。

利用する若者の変化。風俗は特別で神聖なものから、日常の趣味としてのライト風俗へ


若者の風俗離れを危惧しているのは確かだが、利用者が全くもって皆無なわけではない。一定の若年層は今でも、風俗遊びに興じている。ただ、昭和や平成初期に比べて遊び方が大きく変わったように感じる。

現在の若者に人気の格安風俗店のHPを見れば、それは一目瞭然だ。嬢の質もいいが、どの店もアニメのイラストや丸みを帯びた可愛らしい文字を使用し、どこかライトでユルい雰囲気がある。

彼らはカタログ感覚で女性を選び、馴染み嬢の常連客にはならない。まるでAmazonで欲しい商品をスクロールして、気になる商品を買って試すように風俗に行く。

気に入らなかったり、コストパフォーマンスが見合わなかったりすれば、また別のものを探すのだ。昭和の若者との決定的な違いはここにある。

かつて風俗店は若者たちにとって“ハレの場”として、一番いい服を着て行く特別な場所であった。値段が高く、滅多に行けないからこそ、風俗遊びは神聖で貴重な時間だった。

ところが平成に入って、デフレが進むに連れ、単価の低いソフトサービス店や、激安店が増えた。無店舗のデリヘル店が爆発的に増え、選択肢が多様化したことも大きい。風俗店が“日常の延長の場”に変わり、気軽に行ける所と認識されていったのだ。

その結果、色々な店を制覇するのを楽しむ若者が増えた。まるで、ラーメンの食べ歩きのようである。つまり風俗は特別なものではなく、手軽な消費対象の一つとなったのだ。

平成時代の40~50代ミドル層は「夢中になったら、とことん遊ぶ」

カタログのように風俗店を消費する若者に対し、40代~50代のミドル世代はより常連化が進んだ。とくに顕著だったのが、マニアな趣向を提供する店の客だ。

ミドル世代は比較的自由になる金銭的な余裕があることから、自分の気に入った店に頻繁に通う傾向がある。

平成時代を通して様々なユニークな店が出現したが、中でも特に流行ったのがOLコスプレ専門店。中間管理職として、普段我慢している潜在的な欲求を晴らすことができ、セクハラプレイしたさに早朝から客がわんさか訪れたのである。

私が編集長を務めた風俗情報誌『俺の旅』の読者も、40~50代の中年世代が中心だった。編集部に届くアンケートハガキを分析しても、いつも同じ店に熱心に通っているのが一目で分かった。

ロングコースを好むのもミドル世代の特徴で、気に入った嬢が見つかると、一途に通い詰めて、ひたすら二人っきりの時間を楽しむのである。平成時代の中間層の特徴は、“夢中になったらとことん遊ぶこと”と言っていいだろう。

ますます元気になる60~80代のシニア層。高齢化社会の中、いかにニーズをつかめるか


平成半ば以降に目立ったのが、60代~80代のシニア世代のユーザーだ。今の60代はとにかく若い。昔と違ってまだまだ働き盛りである。風俗遊びも同様で、現役バリバリなのである。

某地方ソープの嬢に聞いたところ、「おじいちゃん達、元気よ。だって、攻めてくるもん(笑)。ちゃんとイクし。幾つになっても“男”なの」と笑顔で答えてくれた。

都内某所の老舗ソープも同様で、こちらは格安店だが、週末の午後には待合ソファが満席に。みんな一張羅の背広を着て、ダンディな出で立ちで案内されるのを待っていた。オシャレしてソープに来る年配の方を見て、“カッコイイな”と思ったのを覚えている。

平成30年(2018)の統計では、65歳以上の高齢者の割合が総人口の28.4%を占めている。これは世界最高値であり、今後20年以上は下がることはないだろう。

“シニア割引”、“シルバーデイ”など、高齢者向けの様々なイベントを実施し、集客増を図る店舗は多い。これからの風俗業界において、このシニア層はとても大きな市場であることは間違いない。

平成の時代はユーザーの2極化が大きく進んだように思う。

長引く不況と娯楽の多様化により、若者は激安店や、ソフトサービス店を転々とし、時間と金銭的な余裕のあるミドル、シニア層はサービスの質が高い高級店に足しげく通っている。

昭和時代、風俗は大衆の娯楽として栄えた。圧倒的に分厚い中間層(20代後半から40代前半)が、平均的な価格、万人に受け入れられるコンセプトの大衆店に押し寄せていた。

しかし、現在の風俗店においては“平均的”なお店は軒並み苦戦を強いられているように思う。
ターゲットは若者なのか、中高年者なのか、高齢者なのか。その中で、どんな人に、どんな風に遊んでもらいたいのか、そこを明確にできないと生き残っていくことは難しい。

これから始まる新しい時代においては、変化するユーザーニーズをとらえ、サービスに落とし込み、コンセプトを明確にすることが最も重要である。

次回は、平成20年秋に起きたリーマンショックと風俗の関係を見ていこう。世界同時不況が風俗にもたらした影響は計り知れないほど大きかった。その実態について、考察していきたい。

【参考文献】
『俺の旅 vol.1~vol.125』ミリオン出版(vol.123から大洋図書)、2003~2019年
『性風俗のいびつな現場』坂爪真吾、ちくま新書、2016年
『日本の風俗嬢』中村淳彦、新潮社、2014年
『高齢者風俗嬢』中山美里、洋泉社、2016年
『フィリピンパブ嬢の社会学』中島弘象、新潮社、2017年

このほか名前は挙げませんが、多数のネット媒体を参照しました。

執筆者プロフィール

生駒 明

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1973年生まれ。新潟大学人文学部卒業。編集プロダクション勤務を経て、2004年にミリオン出版に入社。編集長として“風俗総合誌”『俺の旅』を、15年の長きに渡り世に問い続けた。2019年4月、同誌は惜しまれつつも紙媒体としての役割を終え、現在Webでの再起を図っている。

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