『俺の旅』編集長 生駒明の『平成風俗史』~#9:リーマンショックと風俗 過激化する価格競争と業界のデフレ化

2019年12月25日

by生駒 明生駒 明編集者・ライター

前回は平成期全体を通して、風俗で遊ぶユーザーの変化と特色を俯瞰して見てみた。

今回は、平成20年秋のリーマンショックがもたらした風俗業界への影響を見ていこう。

日本経済を大きく揺るがした世界恐慌は、風俗業界にも“デフレ化”という大きな爪痕を残した。過激化する価格競争により、激安店の流行、高級店の苦戦、中小店舗の撤退など、影響は計り知れなかった。

また、不況の影響による業界全体の低価格化により、“パパ活”という新たな脅威にさらされる現在についても触れていきたい。

声高に叫ばれた世界同時不況。激安デリヘルチェーン店が全国展開へ


平成20(2008)年9月に起きたリーマンショック。はるか海の向こうのアメリカで端を発したこの事件が、日本経済に及ぼした影響は計りしれないほど大きかった。

株価の暴落により、日本経済は低迷。平成21(2009)年から平成22(2010)年は、あらゆる業界で“デフレ”“価格破壊”“激安”という言葉が飛び交ったのである。

『ユニクロ』や『しまむら』などの激安衣料品が流行ったり、『マクドナルド』のハンバーガーが100円で販売されていたり、デフレが大きく進んだのだ。

そんな世の中の流れを汲むように、全国で『サンキュー』という激安デリヘルが勢いを増したのである。

文字通り3900円(30分)で遊べるデリヘルで、低価格なうえに指名料を払えば追加オプションが無料とあって、とにかく流行った。瞬く間に首都圏を超えてチェーン展開し、国内の主要な都市に系列店が現れたのだ。

当時を思い出すと、まさに破竹の勢いだった。マスコミが垂れ流す“世界同時不況”という言葉に大衆が怯え、一気に消費が冷え込み、誰もがひたすら安いものを求めた時代の象徴的な出来事が風俗業界でも起こったのである。

総額1万円台の激安ソープが盛況へ。高級店は減少傾向へ

空前のデフレ時代であったこの頃、風俗の雄であるソープランドにも激安化の波が押し寄せていた。

それまで“ハズレ”を引くことが多かった激安ソープ(総額1万円以下の価格帯)のキャストレベルは急激に上昇した。不況になればなるほど、容姿端麗なレベルの高い女性が風俗業界に入ってくるからだ。

激安店は在籍数や個室の数を多くして、回転率を上げる経営方針で、この不況の中で客足を集めていた。経費節減のため、ソープの代名詞ともいえる送迎をしない店も増えていった。

それに引き換え、平成後半以降は高級店の受難の時代だった。多くの高級店が格安で遊べるショートコースを作るが、客足減に耐えられず、同じ店舗が高級店から格安店に移行するというケースが全国の主要な泡街で度々見られるようになったのである。

体力のない中小店が次々に撤退。大手グループに女性とユーザーが集中する

地方の風俗も例外ではない。平成後半以降、デフレや人口減少の影響で体力のない店が次々に撤退していった。

札幌では、平成前半までメイドコスプレ店や熟女店が流行していたが、リーマンショック後は、コンセプトではなく、もっぱら“割引”が売りとなった。

お金という直球勝負に出たものだから、すすきの風俗はデフレの歯止めが効かなくなり、小さなお店はすぐに閉店に追い込まれていった。

そんな中で安定していたのが、全国に大手展開する風俗グループだ。根本的に資金力が違うため、不況とはいえ集客と女性を集める求人に予算をかけることができるのである。

人気の出るような女性は大手に流れ、客も一緒に流れていくといった図式がより明確になっていく。その流れは、都市部も含め令和時代の今も色濃い。

当時、『俺の旅』を製作していて、あまりの風俗店の低価格化に、日本経済の行く末を心配したのをよく覚えている。「日本、ヤバイなぁ」と社内の同僚と話していた。そのくらい、デフレ不況の影響は大きかった。

景気回復も上がらない客単価。“パパ活”という新しい脅威が業界を襲う


風俗業界に大きな影響をもたらしたリーマンショックから10年。令和時代の日本経済は持ち直しをみせている。

中国経済の発展から、国内のインバウンド需要が急騰し、株価はバブル後の最高値を更新している。しかし、景気の回復によって、風俗業界全体が持ち直したかといえば、そうではない。

一度値下げした価格をもとに戻すことは簡単にはできない。そんな中、現れたのは、風俗業界の脅威となる新興勢力のパパ活だった。

言葉として一般的になりつつあるパパ活とは、男性とデートをしたり、食事をしたりする対価として、謝礼に現金やブランド品などをもらう活動のことである。

売春にあたり、違法ではあるが、自分の身体を許し対価を得る女性も少なくないという。

ここで問題なのは、大なり小なり確実に風俗で働く女性と、遊ぶ男性が、このパパ活に奪い取られてしまっていることにある。

さらには、パパ活を利用する男性は富裕層が多く、質の高い女性が引っ張られてしまうことにも影響が大きい。

パパ活のすべてではないにせよ、個人間での売春が横行すれば、法令を遵守し、運営を行う風俗店の存在意義がなくなってしまう。行政にはより一層の厳しい取り締まりを切に願っている。

リーマンショックの前後で、日本社会の空気が一変した。大きな社会不安から、経済市場全体が不景気感に包まれていた。

長引く不況でデフレが進み、風俗業界においても規模の小さな店が淘汰されていき、資本力のある大手グループ店がそれらを吸収し、ますます大きくなった。

さらに、その大手グループでさえ、昨今のパパ活ブームに需要と供給を奪われかねない時代となっている。

不景気の波に飲み込まれ、価格競争を強いられ値下げをしてしまえば、風俗業界全体がますます縮小してしまう。高級ソープや高級デリヘルは、景気回復の折を見て、また活気をみせつつある。風俗業界の力で、日本を盛り上げていきたい。

次回は、平成23年に起きた東日本大震災と風俗業界の関係を見ていこう。未曾有の災害は風俗店や風俗嬢、ユーザーにどんな影響を与えたのか、考察してしていく。

執筆者プロフィール

生駒 明

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1973年生まれ。新潟大学人文学部卒業。編集プロダクション勤務を経て、2004年にミリオン出版に入社。編集長として“風俗総合誌”『俺の旅』を、15年の長きに渡り世に問い続けた。2019年4月、同誌は惜しまれつつも紙媒体としての役割を終え、現在Webでの再起を図っている。

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