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仕事は16歳から。でも「続けたい職場」には、会えなくて……

職歴ですか？　どこから話せば良いですかね。16歳から仕事をしてきたので。

高校が定時制だったんですね。家庭の事情で、もともと昼間は働くつもりでした。義足をつくる工場で夕方まで仕事をして、そこから授業を受けていた感じです。

高校卒業時にはそこを辞めて、それこそ他の工場で働いたり、事務仕事や飲食店を経験したり……。キャバクラでボーイをしたことも、店舗型のヘルスでスタッフをしたこともあるんです。

「ツラい」というのは、どの職にもなかったですね。仕事なので、どんな業界だろうとときには苦しいこともあります。でも給与というのは頑張って頂くものだという意識が、高校1年生の時から、僕にはずっとあったんです。遊んでいて、お金は入らないですよ。

そのわりには職を転々としている？（笑） 確かに。30代までは自分に合う仕事を探そうと思っていたんですね。だからどの会社も、3年はきちんと勤めあげてきたんですよ。

ただいざ3年勤めたとなった時に、「この先ずっと続けていきたい」と思える職場には、どうしても出会えなかったんです。

「自分たちでつくっていけるんだ」。入社時にあった“ワクワク”

そんな僕が『ばななグループ』の上野店に入ったのは10年前。ちょうどグループ創業の時でした。知人が“デリバリーヘルス”を立ち上げるということで、「来てみないか」とお誘いを受けたんですね。

実は、最初は少し迷ったんです。以前勤めたヘルスが体育会系で、ちょっと印象が良くなかったんですね。「似たような環境だったらイヤだな」と……。

そこで大きかったのは、僕がその方の人柄をよく知っていたということ。「この方のつくる会社なら」というのが、まずありました。そして正直に不安を口にした時に、彼はこう言ってくれたんです。

「“風俗店だから”というのは無しにするつもりなんだ。何というか、企業の事業の1つとしてデリヘルをやる。そんなイメージで来てほしい」

労働環境や昇給の仕組みも、きちんと整備するということでした。さらに「君もオープニングスタッフなんだから、改善点があれば言ってくれ」と。

だから入社の時には、ワクワクするような気持ちがありました。「自分たちでつくっていけるんだ」って。

ついウソをついてしまった。思いっきり叱られた

とは言え最初はたいへんでしたけどね（笑）。電話だけでお客様に応対するというのも初めてでしたし、僕地方にいたものですから、最初は上野の土地勘もなくて。

心掛けたのは「正直に」ということ。聞いちゃったりしたんです、キャストさんに。

「ごめんなさい。僕地方から来たばかりで道がわからなくて。このホテルわかりますか？」

全然責められなかったですよ。「しょうがないな～」という感じで教えてくれました。むしろ覚えているのは、ミスをごまかした時。社長に僕、思いっきり叱られましたから。

「電車遅延で、キャストさんお客様のところに間に合わなくて」
「ウソをつくな！」

もうネットや電話で問い合わせてとかじゃないんです。僕の表情を見るだけで「そういうのってわかるんだよ！」という感じ。この時ばかりは、本当に強く注意を受けました。

「ウソつく必要なんてない。つまんない言い訳なんかしないで、謝ればいいんだよ」

実際正直なだけで、お客様は好感を持ってくれるものなんですね。

「すみません。自分のミスで、電車を1本逃してしまって。後少しお待ち頂けますか？」

そりゃ多少怒られはしますよ。「何やってんだ」って。でもそこでクドクド言われるようなことはなかったですね。むしろこの正直な部分をご評価頂いて、次のご利用に繋がったり……。

結局一生懸命仕事をしているかどうか、誠実なのかどうか。お客様もキャストさんも、そこを見ているんですね。わざとじゃないなら、そうそうヒドく怒鳴りつけられるようなことはないし、仕事は自然に覚えます。結果もそれに伴って付いてくるものなんですよ。

オンリーワンのコンセプト。上野の1店舗が、やがて12店舗に

あと、僕自身がラッキーだったなと思うのは『ばななグループ』がオンリーワンのコンセプトを持っていたということですね。

“40代～60代のキャストさんのお店”

今でこそめずらしくなくなりましたけど、“超熟”は、実はウチが走りなんですよ。2010年当時、他にライバルはいなかったと言っても良いぐらいなんです。

年上を好まれる方、逆に20代や30代では若すぎると感じるご年配の方、子育てなどの日常会話も楽しみたい中高年の方達に、私たちのコンセプトがピッタリはまったんですね。

キャストさんもお客様も私たちも人間なので、ラクばっかりではないですよ。ときにはトラブルもありました。でも、やっぱり楽しかったですね。1年に1店舗のペースでお店ができて、10年目の今は、関東と関西に12店舗ですから。

上野からスタートした小さなお店が、全国規模のグループに。入社時に感じた“ワクワク”の通りだったんです。

僕もグループも大きくなった。振り返った時、いちばんの感謝は

出世は早かったですよ。1年で店長、3年でエリアマネージャー、今は本部で全体を見る仕事をしています。スッテップアップの度に、給与も上がっていきました。やりがというか充実というか、あっという間の10年でしたね。

3年で辞めようと思わなかったか？（笑） 思わなかったですね、全然。それは今までと真逆だったからですよ。職場の人間関係が良くて、結果には給与で応えてもらえて、ポストも上がっていくとなったら、辞める理由はないですよね。

振り返って一番の感謝は、実は誰でもない、キャストさんなんです。33歳で会社に入った時、皆さんが歳上でした。仕事は何も知りませんでした。彼女たちはみんな僕に親切に教えてくださって、中にはかわいがってくださる方もいて、だからこそ現在の僕があるんです。

そう考えてみると、最初にガツンと社長に怒られて良かったですよね。「ごまかすな！」って。マジメに取り組んでいたからこそ、キャストさんも「助けてやろう」と思ってくださったんだろうし、何か注意した時も「一生懸命やってるこいつに言われたんじゃな」って、聞いてくれた気がするんです。

僕らの仕事って、余計なもの何もないですから。人だけ。だからこそ誠実さが大事なんだろうし、この立場になった今、新入社員に求めるものもそれだけですね。

それさえあればきっと、グループも僕らも、もっともっと大きくなれるからって。

取材後記

執筆者

松坂 治良

16歳からずっと仕事を続けてきた福山さん。ナイトワークのご経験もゼロではないことから、業界ではなく、“理想の職場”こそが求めていたものだとわかりますよね。オープニングスタッフとして始めた1店舗が、やがて著名なグループへ。そのダイナミズムの根底にあったのは、意外にも“誠実さ”だったと言います。特別な才能よりも大切なのは、社会人として、人としての当たり前のこと。実際に成功した方を目の前にすると、自身の仕事ぶりも含めて、色々と考えさせられます。