独り勝ちより、“Win-Win”。お祭り男が今日も行く~遂に東京上陸!『アインズグループ』北村一樹 再び #3

2021年11月19日

by松坂 治良松坂 治良編集者・ライター

――アインズグループ 北村一樹氏(41)。大グループの代表として、数々の話題を提供してきた人物だが、中でも僕には、忘れられない姿がある。

それは2020年の4月14日。日本も業界もコロナ禍にあえぐ中で、思うところがあったのだろう。彼が4年ぶりのライブ配信(ツイキャス)を行った時のことだ。

「ね。頑張りましょうね」

北村代表はライブを視聴する1人ひとりに向けて、何度も何度も繰り返し、そう語りかけていた。「こんな時だからこそ、明るくいこう」。その一心が、人柄と共に画面から滲み出ているような配信だった。

そんな彼率いるアインズが、緊急事態宣言の明ける同年5月22日、一大イベントを敢行するという。僕も当時Twitterのタイムラインでそれを知ったが、その中身には、大いに驚かされたものだ。

全員が大反対のイベントを決行。「責任はオレが取る」

えっと、どこまででしたっけ。どうも新海さんとのお話は長くなっていけません(笑)。……そうか、イベント。去年5月のイベントからでしたね。

忘れもしません。あの日は金曜日でした。

『当日限定! アインズ全店オールタイム“半額”』

ウソだろって顔してますね(笑)。反対意見? いやもう、冗談抜きに全員が反対でした。みんなの奮闘もあって、せっかく売上も戻ってきたのに、何も赤字とわかりきっている企画をやらなくても良いじゃないかって。

まあ真っ当な意見ですよ。集客を見ても、決して“起死回生”を狙う状況ではなかった。

でも、と僕はZoomの画面越しにスタッフに訴えかけたんです。大丈夫だと。我々には育んだネームバリューがある。一見敷居が高いアインズで半額サービスを受けられるとなれば、新規のお客様が必ず「使ってみようかな」となる。

だから今回利益がマイナスでも、ウチの女の子の“おもてなし力”があれば、ゼッタイにリピーターとして返ってくるからという話をしました。そしてここが大切ですが、「すべての責任はオレが取るから」と。覚悟を示さないと、人は動きませんからね。

“祭り”の裏の目的。従業員の自信と“求人”まで見ていた

種を明かすみたいですが、僕にはこの表向きの理由のほかに、裏の目的もありました。

というのも、客足が戻ってきたとは言え、この時点ではやはり、まだまだ最盛期に及ばないところがありました。なのでスタッフ、特に新人に“ホントの忙しさ”を知ってほしいという思いがあったんです。

後ろでオペレーションを見ていても、なんとなく「業務をこなしているな」と感じることがあって。

後々にお客様が戻ってくることを考えれば、一度“目が回るほど忙しい”“時間を忘れるほど夢中”というのを、体験しておいてほしいなと。電話口でのお客様との“ライブ感”も、この仕事の醍醐味ではあるし、それを知らないと、業務が楽しくならない気がしたんです。

で、これは女の子もそうなんですね。やっぱり子と日によって“波”みたいなものがどうしてもあって。

“どの子にもお客様が付きっぱ”というのを、1日用意してあげたいなと。そうすれば「緊急事態宣言さえ明ければ、最大ここまで忙しくなるんだ」という安心になると思ったんです。1日やりきれれば自信にも繋がるかなと……。

更に最後は裏の裏(笑)、求人です。それこそ休業しているお店もあれば、無念にも倒れてしまったお店もあった。そんな中“アインズにはあんなイベントをやる元気がある”“繁盛している”というイメージは、“コロナ後”のキャスト応募に繋がると考えたんです。

言わばこれは“祭り”です。だからこそ「赤字でも構わない」と僕は言った。ただし経営者には、それを必ず“利益を生む次の展開”に結び付ける責任があるんですね。逆に言えば、そうじゃない祭りはただのバカ騒ぎでしかない。ハナからやりません。

楽しいを越すと、ただ嬉しい。アインズが一丸となった

当日はまあすごかったですよ。事前に告知していたからというのはありますけど、営業開始前から予約でびっしり。始まってからも電話がひっきりなしという感じです。

「困った」
「どないしてん?」
「ドライバーが足りないです! 自分出てくるんで、社長ここ代わってもらえますか?」
「いや、オレが出る。お前ちょっと仕切ってみ。勉強になるから」
「え。いや、でも」
「大丈夫! お前ならもうできる! ミスったら駆けつけてやるから、コワがらんとやってみい」
「そうやなくて、社長にドライバーさせるなんて……」

もう背中越しに手を振って笑いながら、全部聞く前に駆け出していました。車を運転して女の子をキャッチして、その子はその子で僕の顔を見て、「あれ? 社長?!」ってね(笑)。

でももともと僕、今でもごくごくたまにドライバーはやるんですよ。運転は好きだし、腕前もなかなかのもんです(笑)。

ある程度上に行ったら現場には出ないという方もいますけど、僕はこの“現場作用点”とでも言うのかな。そこでみんなで仕事をするのが今でも好きですね。ぶっちゃけ楽しい。それに今日はお祭りじゃないですか。

「いやあ。忙しなあ。そらそうや。社長がドライバーに来るぐらいやもんな」
「着くまで寝とき」
「ウチ興奮して寝られへん」
「そうか……。飯だけは入れろよ」
「……ホンマや。忘れとった(笑)」

楽しいを越すとね、ただ嬉しくなる。結局僕は根っからの商売人なんでしょうね。この日はほんとに、僕もスタッフも女の子も一体になれた日じゃないですかね。待ってましたとばかりに、お客様が訪れてくれたのもありがたかった。この後はもうどんなだったか、覚えていないぐらいですよ。

「逆てなんや」。赤字必至のはずが、信じられない結末

日付が変わって翌日ですよ。オフィスに入ると、スタッフみんなが、深刻な顔してパソコンのモニタを見つめているじゃないですか。

まあ正直「あー」って思いましたよね。ご承知のように、高級店の半額はデカい。「かなりの赤出しちゃったかな」と。案の定気づいた誰かが「あ、社長」って僕を見て、振り返るみんなも目を丸くしている。

「そんなにヒドいんか。……まあ仕方ないわな」
「いえ……。いえ社長、逆です」
「逆?! 逆てなんや。何の逆や」

もうさっぱりわからない。他のスタッフの顔を見渡しても、全員が真っ青な顔してますしね。

「これ……ウチの過去最高売上じゃないですか?」
「はあ? 何アホなこと……」

言われても僕も含めて、全員がなっかなか理解できない。モニタに映る数字が入ってこない。でもだんだんだんだんと、現実が体に沁みてくるみたいな感じでした。

「数字は合ってますよ。……何回見直してもこれです」
「そういうたら昨日、待機の子おらへんかったよな」
「ロングのお客様、こんなに?いうぐらい多かった」
「結局全員がドライバーに出た?」
……

やがて誰かが「やったー!」て叫んで、誰かっていうか僕が叫んだのかな?(笑) それこそオフィスは文字通りのお祭り騒ぎ。やっとのやっとで状況を受け入れられたんです。

アインズ売上対前年比120%増。『ブレンダ』140%増

いや冗談抜きに、全く予想していませんでした。だって僕、この3日前に「全店利益なしの大還元祭」「この日1日は大盤振る舞い!」って、自分のツイートで宣言してるんですよ?(笑) しかも緊急事態宣言明け日。過去最高売上なんて、誰一人想像さえしていません。

結局新規のお客様がたくさんいたし、明け日を待ち構えていた方も多かったということなんでしょう。意外なところでは、「半額ならいつもの倍利用しよう」という常連さんも、少なからずいたようです。

「どや!」というよりは、率直に言って、アインズの“底力”にあらためて気づかされた思いでした。僕自身が、少々グループを見くびっていたのかもしれません。

ふだんあれだけ人が来るんだから、半額となればパンク寸前。これぐらいは行けたということなんでしょう。振り返ってみればね(笑)。

このウソみたいな現実は実は、その後年度末の決算まで続きました。僕の目論んだ以上に、このイベント後キャスト応募は増加。集客面でも新たな“アインズファン”を獲得できました。右肩上がりに売上が伸びたんです。

最終的にアインズグループ全体の売上は、対前年比120%増。旗艦ブランド『ブレンダ』に至っては、140%増という結果に終わりました。コロナで中国行きを取りやめたあの2月、不安を覚えた3月、それを思えば信じられない結末です。

やはり僕らは“動いてこそ”なんだと、つくづく実感しました。いや、この言い方じゃ足りないですね。

「オレ達は動けば成功できるんだ」

“東京”へ。アインズならできる。「出よう。動こう」

「いよいよかな」と、本気で考えるようになりました。言ってしまえば、現時点でコロナなんて吹き飛ばすぐらいの力が、関西では僕らにある。覚えておられるかな、3年前のインタビューで僕、全国展開の話をしたでしょう?

これから僕らは関西を飛び越えていきます。まず大きなところからね。名古屋、博多、札幌、もちろん東京。……。

僕自身が語ったこの順序は、もう良いかなと(笑)。いや、笑いごとじゃないですね。このみんなのパワーを持ってすれば、もうここで一気に“東京”に出られる。「出よう。動こう」と決意したんです。

行くなら『ブレンダ』。迷いなし。ウチの“最高”で上京

5月にそんな気持ちを抱いて、翌2021年の11月1にプレオープンだから、早いと言えば早いのかな? ただご承知のように前々から計画はあったので、一気に動けたところはあります。箱づくりのノウハウは、そのまま持っていけば良いですからね。

プロモーションにもしっかり費用を掛けました。女の子はもちろん東京でも募集しているんですが、こちらの子に希望を聞いたら「行く行く!」と。何人か掛け持ちしてくれています。

ブランドは『ブレンダ』。そこに迷いは一切ありませんでした。最初に行くなら、自分達が最初につくり、自信を持つアインズの最高峰で行くべきだろうと……。

今ここは上原が見ているんですが、さっきも言ったように、コロナ禍で売上対前年比140%増を達成してくれた彼への信頼もあります。支社長として、東京に出向いてもらうことにしたんです。

戦略としては、まず関西のやり方をそのまま踏襲で良いのかなと思っています。そう(笑)、前回言った“おもてなし”ですよね。とあるお客様のくださった、あの言葉。

あんなキレイな子が一生懸命ちやほやしてくれると、なんや王様みたいな気持ちになるな(笑)

接客も含めた“最高のキレイ・かわいいを届ける”という『ブレンダ』のコンセプトは、東京でも充分通用すると感じています。

東京に合わせることだってある。その変化こそ楽しみ

ただその上で、昨年から僕が東京を訪れて思うのは、こちらの皆さんはやっぱり若干シャイですね(笑)。グイグイ行くと逆に構えちゃう方もいるかもしれない。

僕は風俗には行かないというか、行けないんですが(笑)、クラブなんかで客として女の子と接していても、東京の子はキレイなんだけど、さらっとしている。さっぱりした印象です。

上品?……少し違うかな。いや、下品と言いたいんじゃなくて、『ブレンダ』の子だって超上品なんですよ。だからそういう問題じゃない。

そうですねえ、たぶん距離が近いんでしょうね。関西文化が男にカッコいいより“オモロい”を求めるのと同じで、ウチの子はというか、関西のこういう職業では、女の子は“お客様に笑顔になってほしい”というのがあるんでしょう。なので恋人が男性にするように、頑張る。ちやほやする。

もともと『ブレンダ』は、キャバクラでトップを張れる子達が集ったブランドです。つまり接客意識も関西のキャバクラに近くて、ノリと心づくしが評価されてきました。

加えて前回お話しましたよね? このコロナ禍で僕が「いつもより更に明るく。元気いっぱいで行ってみて」とお願いしたことで、みんなよりその意識が強くなっていると思います。結果としてリピーターが増えてますからね。

東京にお邪魔した時に、それがどこまでウケるかですよね。言わば“接し方の程度問題”を探るということになるのかな? 僕自身もしばしばこちらに足を運ぶつもりなので、女の子にその都度話を聞くつもりでいます。今はZoomもありますしね。

そこで“ちょっと東京の方に合わせようか”となったら、それもまた全国展開の布石になって良いのかなと。あんがいこちらで応募してくれた女の子達から学ぶことも、多いかもしれませんよね。

そういう変化、僕は大好きですよ。ワクワクします。アインズが個人商店から企業に変わる時も、僕は期待でいっぱいでした。その時と同じような感覚がありますね。

「え? 東京にいながら?」。出張客が多かった強み

上原のインタビューでも触れられているようですが、既にお客様の問い合わせも多くて、手応えがあります。「ああ。お久しぶりです!」ということさえあるようですね。

要は、関西出張の際に『ブレンダ』を利用してくださった方々がいる。オフィシャルサイトや女の子のツイートを見て、「え? 東京に」と思ってくれたんでしょう。ファンの方からしたら、「あの子がときどき来てくれる?!」となるわけですよね。

まだまだ出張に制限が掛かっている企業も多いでしょうから、余計に喜んでいただけたんだと思います。こういう方々がきっかけとなって、今までアインズを知らなかった層にも“すごい高級店が来た”というのが、広がってくれたら嬉しい。これは僕にも上原にも共通な思いです。

“パイの奪い合い”なんてつまらない。“お祭り男”の本音

2019年のインタビューを読んだ方も、またときどき僕のツイートを見てくださる方もお気づきかもしれないんですが、僕って“勝ち負け”はほとんど口にしないんですよ。実際「東京でウチが勝とう」みたいなのは、全然ないんです。さっき言ったように「お邪魔します」という気持ちで……。

謙遜とかじゃないんです。そりゃ儲けたいし(笑)、支社長として行く上原にも、店長の国本にも「行って良かった。大成功!」となってほしい。何より付いてきてくれる女の子ですよね。どうせなら東京と東京の人を楽しんで、「良い街」と思いながら、たくさん稼いでほしい。

でもそこで“パイの奪い合いか”、と言ったら、何て言うんだろう? つまんないじゃないですか。それだとどこかの高級店が『ブレンダ』の代わりに消えるってだけでしょう? そんなの全然望みません。

同じなんですだから。最初に言いましたよね。御社と僕らと、“Win-Win”の関係になれたら最高だって。それはお店とWebマガジンだからじゃない。他店さんだって同じなんです。

アインズと他社・他店さんと共存共栄で、全国の業界を盛り上げていけたら良いですよね。「オレは甘いのかな?」と思わなくもないですけど、それで圧倒的な結果も残してきてますからね(笑)。この“お祭り男スタイル”は、よっぽどのことがない限り(笑)、変えません。

「あの『ブレンダ』が来るんだ。おもしろい」

そんな感じで、僕らを関東の皆さんも、楽しんで見てくれると嬉しい。これは本音です。

今日は大阪までありがとうございました。次は渋谷オフィスで会いましょう。きっとですよ。

――ここで第1回冒頭の、新海の問いに戻ろう。

「どうしてあんなことができるんだ?」

答えはもう明らかだろう。その理由は、北村代表が必ずと言って良いほど“みんなのハッピー”を思っているからだ。決断するにも戦略を立てるにも常にそこが意識され、だからこそ彼が動くと女の子もスタッフも、お客様さえ動く。みんなが触発され、結果が付いてくるのだ。

“Win-Win”が大好きな、稀代のお祭り男。東京の次は、どこへと向かうつもりなのだろう。

(インタビュー:新海亨)

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コロナ禍。僕は何を思い、なぜ早く動けたのか~遂に東京上陸!『アインズグループ』北村一樹 再び #1

北村 一樹(きたむら かずき)

大阪府堺市出身。風俗業界歴は15年を数える。18歳で水商売の世界に飛び込み、20歳で早くも店長に。2006年に風俗業界に身を転じると、代表として『ブレンダ』を中心に高級店を次々と成功させ、アインズを関西で押しも押されぬ大グループに成長させる。含蓄あるツイートにはファンが多く、フォロワー数は1万9千人を超える。趣味はピアノで、目覚めには必ず鍵盤に向かう。

執筆者プロフィール

松坂 治良

松坂 治良編集者・ライター記事一覧

小さな出版社などを経て、”誠実に求人広告をつくろう“という姿勢に惹かれ、現職に就く。数年来クラシック音楽と仏教に傾倒中で、最近打たれた言葉は「芸者商売 仏の位 花と線香で 日をおくる(猷禅玄達)」。……向き合った相手の“人となり”や思いを、きちんと言葉にしたいと願う、今日このごろです。

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