これからの10年を作る業界一年生へメッセージ ~アキバマサトの『風俗業界一年目の教科書』~

2017年06月06日

byアキバ マサトアキバ マサトFuuTube映像ディレクター

これまで10回に渡ってお送りいたしました『風俗業界一年目の教科書』ですが、今回の11回をもちまして最終回となります。

最終回は最終回らしく、『これからの10年を作る業界一年生へメッセージ』というテーマで執筆させていただきました。

僕がこの業界に入ったのが1994年~1995年ごろなので23年ほどが経ったことになります。

少し、昔の話をさせてください。

これまで、本当にいろいろなことがこの風俗業界で起きました。

アキバマサトが見てきた風俗業界の変遷

僕が業界に入る、さらに10年前。つまり、1985年ごろの話です。

この年は、まさにファッションヘルスという業種が法的に風俗店として分類され、ヘルス元年とも言える年でした。

ここで書く内容として相応しいのかわかりませんが、80年代後半に日本で初めてHIV感染者が確認されたことで、風俗の利用者側も提供する側も本番行為を伴わないライトなサービスにシフトしていき、ブームになったと言われています。

当時は、ソープランドからファッションヘルスにシフトした時代です。

続いて、僕が業界入りした4年後くらい、ちょうど幹部に昇進した直後の1998年~1999年に風営法改正がありました。これによって、それまで表向きには存在していなかったデリバリーヘルスという業種が誕生しました。

デリバリーヘルスは、アンダーグラウンドな業種のホテトルとライトなファッションヘルスが融合したようなもので、届け出ることで公に風俗店が営業できるようになったのです。これは、かなり大きな法改正でした。

施行前に参加した神奈川県警本部での説明会がはるか昔のように感じます……。

生粋の箱ヘル(店舗型風俗店)育ちの僕は、当時「デリヘルなんて、はやるわけがない」と思っていました。

現在のようにスマホもSNSも存在しない紙媒体全盛時代に、看板のない風俗店がインターネットを始めとする限定的な広告だけで集客するのは難しいと感じていたからです。

さらに、当時の説明会で聞いた話では、届出を出す条件はかなりハードルが高く、現実的に一般の人が開業・運営するのは不可能だと思っていました。

(新風営法施行前に開業・運営に関する事項が修正され、実際には、誰でも簡単に出せるようになったので、この部分は完全に僕の見当違いでした……。)

そして今現在、風俗業界はデリヘル全盛時代と言われるようになりました。「店舗型風俗店の元気がない」「ソープ街が閑散としている」と言われて久しい時代です。

しかし、ソープランドやファッションヘルスが完全に衰退し、デリヘルだけが残ったのかと言えばそんなことはありません。

それぞれが個々の良い部分を生かした住み分けを行い、性病を蔓延させないよう衛生管理のノウハウを蓄積するなど、業種ごとに進化した集客法や求人活動を行っています。

したがって、今残っているソープランドやファッションヘルスは、10年前よりさらにブラッシュアップされた店舗ということです。

逆を言えば、そういう店舗しか生き残れない時代になったとも言えると思います。

単純に僕の未来を見通す能力が低いと言えばそれまでなのですが、やはり僕だけではなく業界全体が、「デリヘルなんてもの……」と当初、下に見ていたのは事実です。

望む望まないにかかわらず、5~10年で必ずやってくる風俗業界の変遷。業界内にいると気付けない部分が往々にしてあるものです。

しかし、ソープから店舗型ヘルスへ、そして無店舗型のデリヘルへと時代の変化とともに変われたのは、新しい世代の人たちが適応し、変化させることができたからだと思っています。

近ごろ老舗の有名店に元気がなかったり、名前をあまり聞かなくなったり、という話を古い付き合いの代理店の人とよくします。

このような店舗やグループの共通点として、「10年前と中核の幹部陣が全然変わっていない」というケースが珍しくありません。

もちろん例外はありますが、企業が成長していくためには、世代交代が必要です。

それは、単純な人の入れ替えということではありません。後進の育成と、現在の幹部がさらに上のステージや新たな挑戦をするために別事業を展開するなどの代謝が必要であると思うのです。

つまり、10年後にこの業界の中核を担っているのは、今新人として働いているスタッフの方たちなのです。もしそれが行われないなら、この業界は間違いなく衰退してしまうでしょう。

これは僕自身の個人的な思いですが、今新人として働いている方たちは5~10年後にアダルト業界の中核を担っていく自覚と気概をもって臨んでいただきたい。

そして、現在の経営陣は、後進を育て継承していくという目標をもって経営をし、現状にあぐらをかかず、さらに高みを目指すという志をもっていただきたいと思っています。

風俗業界の維持発展に最も重要なのは“法令順守”と“納税”

今後、アダルト業界が発展していくためには、時代に適応するチカラが必要になります。なぜなら、少し前まで想像もできなかったような大きな変化が突然起きることがあるからです。

僕が風俗業界に入って一番大きな変化は、やはり前項でお話をした無店舗型風俗店(デリヘル)の開業が事実上、可能になった99年の風営法改正です。

それまで違法とされていたものが、届出を出すことで営業できるというのはとてもショッキングでした。

これは主観ですが、アダルトビデオ業界で言ったら、AV制作届けを出せばモザイクを入れていない作品を販売できるようになる(日本の法律では違法行為)というのと同じくらい大きな出来事だと思います。

なぜこのようなことが起こったのでしょうか?

理由については、ここで書ききれないですし、憶測も含まれますので細かいことは言いません。重要なのは実際に大きな変化が起こったということです。

その変化が起きた時に、それまでしてはいけないことを、しなければならなくなったり、あるいは、その真逆のことが必要になったりしました。

語弊があるかもしれませんが、この法改正以前はデリヘルが非合法であるため、何処で誰が運営しているのかを決して知られてはいけませんでした。

さらには、この仕事によって得たお金を保持することはできませんし、財産があることも知られてはいけませんでした。特に警察や税務署には……。

しかし現在では、これらを明確にすることでれっきとした事業、ビジネスとなっています。

はっきりと書かせていただきますが、これからの風俗・アダルト業界を維持発展させるために最も必要なことは、斬新なアイデアや過激さではなく、第一に“法令順守”と“納税”なのです。

何とも夢のない現実的な話ですが、アダルト業界のみんなが法を破ることになっていったら、今後この業界はどのようになって行くでしょうか?

そもそも、なぜこの業種が届出制になり、営業できるようになったのでしょうか?

金持ちになる前にまず生き残ることが最低条件です。そのためには、まず法律を守れ、そして納税しろ、なのです。

ルール無用の何でもアリなら、そんなに楽なものはありません。僕も好き好んで税金を払っているわけではなく、払わなくていいなら、払いたくありません。

しかし、税金を納めないといけないというルールが、この日本にはあるのです。

日本という枠組みの中でビジネスとして発展させ存続していくためには、ルールができた理由にかかわらず、まずそのルールを守った上でやっていくしかないのです。

これからの10年に向かう若手スタッフへのメッセージ

前回(#10『ライフワークとしての風俗』)でも書きましたが、僕は既に人生の半分を過ごしている風俗業界・アダルト業界に愛情をもっています。

しかし、最近は、違法風俗店の摘発やアダルトビデオ出演強要などが問題視され、これら業界に明るい話題がありません。だからこそ、業界内にいる僕たち一人ひとりが意識を向上させ、クリーンな事業にすることで、より大きな可能性を取り込んで発展していきたいのです。

「アダルト」であるがゆえ、いつまでたっても後ろ指を指されることがあるでしょう。しかし、わい雑で隠微、かつ浮世離れした部分が感じられたほうが、エンターテインメントとしては面白い部分があるのも事実です。

一方、法にのっとった正当な事業であると考えれば、社会の一員として恥じることのないように責任をもった行動を取らなければなりません。そして、この業界だからこそ、当たり前のことをごく当たり前に行うという意識をより強くする必要があるのではないでしょうか。

現在では皆さんご存知のとおり、店舗型風俗店の新規出店は事実上不可能であり、年々減少しています。しかし、一方で無店舗型風俗店の届出数は毎年増え続けており、店舗スタッフの目の届かないところで違法な性交渉が広がりを見せています。

また、スマホを利用した出会い系アプリやSNSを介して、違法な援助交際が以前より手軽に行えるようになっており、事件や性病の蔓延なども問題となっています。

そのため、こうした違法営業と正式に届出を出している合法的な風俗店が一緒くたに見られ、取り締まりの強化につながることも考えられます。

または、この違法行為を簡単で魅力的なものという認識が男性たちに広がってしまったら、既存の風俗業界は衰退し、再びアンダーグラウンドなものに逆戻りしてしまうかもしれません。

違法行為の取締は当然、警察の役割ですが、違法な手段での「性」よりも合法的な風俗に魅力をもたせ、安心かつ安全に利用できる風俗を作り上げるのは、風俗業界で働く皆様の役割です。

風俗業界だけではなくアダルト業界全体が地下化するのか、あるいは健全化に向かうのか、その変化は今後10年にかかっていると思います。

そして、その10年を作り上げるのは、現在、または近い将来、この業界で働く若い世代なのです。

風俗店という営利組織で働く以上は目先の利益が重要でしょうし、地位や名声を求めてもいいと思います。

しかし、根底の部分に「大志」を抱き、些細なことにとらわれず未来に向かって発展していただきたいと思います。

これまで全11回に渡り、連載をご覧いただきありがとうございました。

不慣れなもので乱文にて失礼いたしました。

このような貴重な機会を与えてくださった『Fenixzine』関係者の皆様にもこの場を借りまして御礼申し上げます。

それではまた逢う日まで、さようなら!

執筆者プロフィール

アキバ マサト

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1973年、横浜市出身。高校卒業後、ミュージシャンを経て風俗業界入りし、20年以上のキャリアを持つ。体験男優としての顔は一部に過ぎず、実は大手グループの代表経験もある敏腕ビジネスパーソン。仕事観、人間観、人生観の有無を大事にする。尊敬する人は、やはり実業家だった父とX JAPANのYOSHIKI。非常に繊細なO型。

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